―22― 変身

 い、生きているのか?

 全身の激痛が収まったとき、僕はふとそんなことを考えた。


「マスタァアアアアア!! し、死ぬなら、わたくしも一緒に連れてってくださぁああああい!」


 オロバスの声が聞こえる。

 あぁ、どうやら僕はまだ生きているらしい。

 それにしてもオロバスの声で、生きているかどうか確認するって……。

 そのことが、なんだかおかしいような気がし、僕は心の中で笑ってしまう。


「オロバス……僕を勝手に殺すなよ」


 僕はそう言ってゆっくりと立ち上がろうとする。

 なんだか体が重いな。


「ま、マスター?」


 オロバスはそう呟いて、目をごしごしと手で拭った。

 どうやら涙で前もまともに見えないらしい。


「ほら、僕は生きているだろ」


 僕は自分が生きているってことを示そうと、体を見せつける。


「あなたは、一体何者でありますか?」


 オロバスは首を傾げていた。


「は?」


 呆然とする。


「マスタァアアアアアア!! わたくしのマスタァアアアアアはどこですかああああああ!!」


 オロバスは僕のいる前で、僕の姿を探し始めた。


 え? え?

 なにが起きている……?

 オロバスのやつ、この短時間で僕の顔を忘れたのか?

 そんなことってある!?

 あ、でも馬は馬鹿っていうしありえるのか。


「お、オロバス。ぼ、僕はここにいるんだが……」


 僕は緊張した面持ちでそう訪ねた。


「ま、まさか、あなたがマスターを消した犯人ですかっ!?」


 あ、やっぱりこいつ馬鹿だ。

 この短時間で僕の顔を忘れやがった。

 どうしてくれようか?

 よし、オロバスのやつ強制退去させてやろう。

 それがいい。

 んでもって、オロバスを永久に召喚するのをやめよう。


 僕はそう決意し魔導書『ゲーティア』のありかを探す。

 あった。

 床に落ちている。

 僕は拾おうとかがんだ。


「んん?」


 僕はふと、あってはならないものが目に見えた気がして固まってしまう。

 かがもうと体を曲げた瞬間、見えてしまったのである。


 2つの弧を描いた物体が。

 つまり、おっぱいのことだ。

 うん、自分になぜかおっぱいがついていた。


「どゆこと!?!?」


 僕は叫んだ。

 鏡を探した。

 そして、自分の姿を見た。


「女になっている……」


 ツヤのある肌。長いまつげ。長くさらさらとした髪。

 それと、大きなおっばい。

 どことなく面影がクローセルに似ているような気もしなくもない??


『の、ノーマン様! た、大変です。わ、わたくし、ノーマン様の体の中に入っちゃいました!?』


 僕の体の中からクローセルの声が聞こえる。

 なにがどうなっているんだ……!?


 僕の思考はそれっきりフリーズした。


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