―21― 降霊術・続
翌日、僕は降霊術の勉強を始めた。
まずは、降霊術について書かれた魔導書を読み込む。
けれど、降霊術はあくまでも死霊を降霊させることを前提として書かれていたので、それをどう悪魔に置き換えるべきかが問題点だった。
「悪魔も死霊も同じ霊体ですし、ひとまず同じやり方でやってみたらいかがでしょうか?」
というのはクローセルの意見だ。
「けど、遺物はどうしたらいい?」
ネネのときに使った両手剣のように霊と関係する遺物が必要なはずだ。
「それでしたら魔導書『ゲーティア』が代わりになるかと思います」
「えっ、そうなの……?」
「『ゲーティア』はただの魔導書ではありません。召喚者と悪魔を繋げるパスのような役割も果たしているはずです」
なるほど。
本来魔導書というのは魔術を覚えるために必要な指南書といった意味合いでしかない。魔導書の中身を完璧に覚えてしまえば、魔導書は必要なくなる。
けれど、『ゲーティア』に関しては『ゲーティア』そのものに魔力が宿っていた。
それがつまり、召喚者と悪魔を繋げる役割を持っていたなんて。
「それじゃあ、遺物を『ゲーティア』に置き換えて降霊術を行ってみよう」
降霊術のための魔法陣を描き、その上に『ゲーティア』を乗せる。
クローセルのページを開いた状態でだ。
「――我は汝をノーマンの名のもとに厳重に命ずる。汝は速やかに、我の肉体に宿れ。汝の知識と力で我を満たせ。汝は己が権能の範囲内で誠実に、全ての我が願いを叶えよ。来たれ――第49位、クローセル!」
瞬間、クローセルが目の前から姿を消した。
「え?」
と、僕が思った瞬間、
「う……っ!」
自分の体に異変が起きる。
アイムの一部を体に宿したとき、熱い異物が肉体に入り込み苦しかったことを思い出す。
けれど、そのときの比じゃない。
そのときの何百倍もの激痛を全身が襲っていた。
「ま、マスター! だ、大丈夫でございますか!」
片ひざをついた僕を見て、オロバスが慌てた様子で駆け寄ってくる。
「がはっ」
吐血した。
だらっとした血の塊が口の中から吐き出される。
目は大量の涙で溢れ、両手からは汗が吹き出し、足は痙攣を起こす。
このままだと、死ぬ……っ。
耐えきれず床に倒れた僕は、ふと、そんな考えが脳裏をよぎった。
「マスタァアアアアア! アイムのときのことを思い出してくださいぃいいいいいい!」
オロバスの絶叫が聞こえた。
そうだ、アイムのとき僕はどうやってあの苦しみを克服したんだっけ。
全身に散った魔力を一箇所に集めたんだ。
同じように、目を閉じ魔力を感じようとする。
「う……っ」
全身の中に濁流のように膨大な量の魔力が流れていた。
その魔力を感じた僕は再び吐き気のようなものを感じてしまう。
これだけの魔力を一箇所に集めるなんて無理だ!
けど、このままだと死ぬ。
まだ、僕は死ぬわけにはいかないんだ!
だって、僕はまだ魔術を極めていないのだから!
僕は歯を食いしばり、全身に流れる魔力をコントロールしようと、力を込める。
恐らく僕の意識が落ちた、そのときが自分の死だ。
意識が落ちるのが先か、魔力をコントロールできるのが先か。
その戦いが僕の体の中で起こっていた。
「マスタァアアアアアア! がんばってくださぁああああい!!」
オロバスの叫びを聞いて、まだ自分は意識を落としてないな、なんて判断する。
オロバスの声を必死に聞く。
それを意識することで、なんとか自分の意識を保とうと耐え忍ぶ。
そして、必死に魔力のコントロールしようと歯を食いしばった。
戦いは数時間にも渡った――。
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