―19― 妹の愚痴

「あのディミトってやつ、ホント最悪ー!!」


 妹のネネが僕の家にあがると同時にそう愚痴をこぼした。


「そうなんだ」


 僕は苦笑する。

 僕と入れ替わるように養子のディミトが家に住むようになったから、どう最悪なのかまでは把握していないが、妹がこう不満を垂れるぐらいには最悪なんだろう。

 それから、僕はネネの愚痴をひたすら聞かされた。

 話を一通り聞くと、ディミトという新しい家族は相当わがままな性格らしい。

 元平民だから舐められるのを相当恐れているのか、使用人たちに無理強いばかりするようだ。


「もうね、使用人たちをこき使いまくってるの。余興だといって、自分の魔術の的にしたり、欲しいものがあったら夜中でも買い物にいかせたり。しかも偏食家らしくて、ご飯には毎回文句ばかり。その上、かわいい使用人にはセクハラまでしているらしいわ」

「それはひどいね」

「しかも、父さんがそれを許しているのが信じられない。結果、使用人たちが私のとこに相談にくるわけ。私じゃあ、どうすることもできないわよ!」

「それは大変そうだね」


 妹の話を聞いていると、こうして自分が追い出されたのは結果的には良かったのかもしれないと思えてくる。

 オロバスが家事を一通りしてくれるおかげで、一人暮らしだけど、特段不自由していないし。


「もう、お兄ちゃんがなんとかしてよ……」

「追い出された僕じゃあ、どうすることもできないよ。それにディミトの魔術がすごいのは本当なんだろ?」

「まぁ、そうみたね。固有魔術もちゃんと持っているみたいだし」


 固有魔術というのは、その術者にしか使えないオリジナルの魔術のことだ。

 固有魔術を持っていれば、魔術師としては一人前という風潮がある。僕と同い年で、すでに固有魔術を持っているなら、それは優秀と言わざるを得ない。


「にしてもこの家、外はボロいけど、中はすごいキレイだね。このベッドもふかふかだし。てっきり、お兄ちゃんのことだから、部屋が汚いと思っていた」

「まぁ、知り合いに掃除のエキスパートがいて、手伝ってもらっているんだ」

「ふーん、そうなんだ」


 妹がそう頷くと、褒められたオロバスが自慢げに鼻を高くしていた。

 まぁ、妹には悪魔の姿が見えないので、僕にしかわからないのだけど。


「そうだ、ネネに頼みがあるんだけど」

「ん、なに?」

「降霊術を教えてほしいんだよね」

「降霊術?」


 妹が怪訝そうな表情をする。


「魔術を使えないお兄ちゃんがなんで降霊術を? まさか決闘の日が近いから、手段を選ばずに色々手を出しているの? 確か、3日後だっけ決闘の日は」

「決闘のこと知っていたんだ」

「そりゃ、学校でリーガルがあれだけ吹聴していたらね」


 そうか、妹に知られるぐらい、リーガルは僕と決闘をすることをいろんな人に言っているらしい。

 よほど、僕をたくさんの人の前で恥をかかせたいんだろう。


「そう、どうしても降霊術を覚えたくてさ」

「覚えてどうすんの。降霊術なんか覚えても決闘の役にあまり立たないわよ」

「えっと、どうしても使いたいんだ……」


 悪魔召喚のことを話すわけにいかないしな。

 なんて説明したらいいんだろう。


「まぁ、自然魔術が苦手な人こそ降霊術に適性あったりすることもあるからね。教えるのは構わないけど。それに、お兄ちゃんが魔術を使えるようになったら、ディミトを家から追い出せるかもしれないし。いいわ、協力してあげる」


 そういって、妹は胸を張った。

 それから、妹は降霊術に必要なものがあるということで、取りに帰るために一度家に戻った。

 ちなみに、この家と元の屋敷はけっこう近くにあるので、行き来するのはそう苦ではない。


「ノーマン様、ディミトって方はどなたなんですの?」


 妹がいなくなると、早速クローセルが尋ねてきた。

 オロバスも気になるのか首を長くしている。

 そういえば、二人には僕の事情を話していなかった。

 隠してもしょうがないし、話すことにする。

 そんなわけで、魔術ができないせいで、家を追い出され、代わりにディミトという養子が跡取りになったことを二人に説明した。


「そんなっ!? ノーマン様を追い出すなんて、随分とひどいですね!」

「マスタァアアアア!! マスターがそんなお辛い状況であられるとは露知らずに、わたくしはなんて愚かなんでしょうかぁあああ!!」


 話をすると、二人とも僕に対し同情してくれた。オロバスはちょっと過剰すぎる反応な気がするけど。


「マスター、命令とあれば、今すぐにでもその家を襲撃する準備は、いつでもできております!」

「いや、オロバス! そんなことはさせないし、しないから!」


 いきなり襲撃って、なに言い出すんだ、この悪魔は。

 ともかく、二人がこうして怒ってくれたせいなのか、僕自身は追い出されたことにそこまで感情的にならないで済んだのだった。


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