―16― 相談

 夜遅い時間だったので、クローセルには一度退去させてもらった。

 もちろん明日、改めて召喚するという約束を取り付けた上で。


 翌日。

 朝早くから召喚しようと準備していた。


 召喚しようとしていたのはクローセルではない。

 フルカスさんだ。

 そう、僕は改めてクローセルと会う前に一度フルカスさんに会って相談しようという寸法だ。


 朝早い時間ならこの前みたいに眠たくて会話さえままならないってこともないだろう。

 そんなわけで、早速フルカスを召喚するための呪文を唱える。


「ほっほっほっ、昨日はすまんな。夜は眠たくて眠たくて仕方がないのじゃ」

「いえ、こちらこそすみませんでした。そんな時間に召喚してしまって」


 僕は頭を下げる。

 本当に悪いことをした、と思っていた。


「ほっほっほっ、なにもお主まで謝る必要はないだろう。それで、ぜひお主から話が聞きたいのう。色々あったのじゃろう?」


 どうやらフルカスさんは僕の近況に興味があるようだった。そういうことなら、快く話しをしよう。

 まず、オロバスを召喚したこと。

 オロバスは忠実ではあるが、非常におかしなやつだったということ。

 とはいえ、頼りにはしている。

 それと、アイムも召喚した。

 アイムとは一悶着あったが、覚えた拘束の呪文でなんとか防いだこと。

 それからアイムと和解し、無事アイムの一部を降霊させることで発火魔術を扱えるようになったと。


「アイムと和解したじゃと?」

「うん、といっても僕の交渉がうまくいったわけじゃないけど」


 あのとき、僕が悪魔召喚を楽しいと言ったら、アイムはおもしろいと言った。

 なぜ、アイムがそういう態度を示したのか、その真意まではわからなかった。


「ほっほっほっ、悪魔は欲望に忠実だからのう。楽しい、という感情を悪魔は一番大事にする。お主が楽しいといったその心意気に悪魔として協力したくなったのじゃろう」

「そういうことなのかな……」


 僕はフルカスさんの説明にいまいち納得できなかった。そんな単純な話なんだろうか?


「ほっほっほっ、まぁ、それ以外にも理由があるとは思うがのう」


 そうフルカスさんが言うなら、そうなんだろう。

 それに今答えがわかるわけでないし、深く考えても仕方がないか。

 それから、今悩みの種であり相談したかったクローセルの話もした。


「クローセルか。あやつは他の悪魔とは違った意味で厄介な存在だからのう」


 確かにクローセルは悪魔らしくはないが、しかし厄介なことには変わりなかった。


「どうすればクローセルを救うことができますかね?」

「ほっほっほっ、まずお主はどうすればいいと思っておる?」

「一番はクローセルが天界に戻る。つまりクローセルが堕天使から天使に戻るのが一番いいと思うんだけど……」


 とはいっても僕の力じゃ、クローセルを天使に戻すなんてどだい無理な話だ。

 それこそクローセルの言っていた主、つまり神ではないと無理だろう。


「一度堕天した者は再び天界に戻ることはあり得ぬ。だというのにクローセルは天界に戻れると未だ信じておる」

「そうなんだ……」


 それは少しかわいそうな話だと思った。

 けど、そうなるとクローセルになんとか気持ちを切り替えてもらうしかないよな。


「そもそもクロセールはなんで堕天したのだろう? 水が原因とはいっていたけど」

「ほっほっほっ、それは儂にもわからん」

「そうなんですか」


 フルカスさんでもわからないことってあるんだ。

 それから、フルカスは一息いれて、こう口にした。


「そうじゃな、お主には王になる覚悟はあるか?」

「王? いや、そんなのないですけど……」


 王って、急になんの話だろう。

 フルカスさんは「素直なのはいいことじゃ」といって笑っているが……。


「魔導書『ゲーティア』。それを持つということは、我々悪魔を使役するということ。つまり、我々の先導者になるっていうことじゃ。お主にその覚悟はあるのかのう?」


 フルカスさんは言葉を変えて、再び聞いてくる。

 今度はちゃんと意味がわかった。


「覚悟と言われてもそんなのわからないけど」


 僕は本音を吐露する。


「けど、僕は今、すごく楽しいんだ。今までの人生はなんだったんだっていうぐらい、今が楽しい。今までの人生は、そう灰色だった。なにをやってもうまくいかない。そもそもなにをすればいいのかわからない。けど、『ゲーティア』を手に入れてから、自分の往くべき道がわかってすごく楽しいんだ。だから、僕はこれからも悪魔を召喚していきたいし、悪魔たちも僕の協力をしてほしいと思ってる」


 僕は自分の気持ちを素直に話した。

 もしかしたらフルカスさんの求めてた答えじゃないのかもしれない。けど、本音を話すのが大切な気がした。


「ほっほっほっ、利己的で非合理的で感情的。実に悪魔らしい」


 ニィ、とフルカスさんは歯茎を見せて笑う。

 どうやら気に入ってもらえたようだ。


「その思いをクローセルにも伝えてみるといいのではないかと儂は思うのう」


 フルカスさんはその言葉を残して退去していった。

 そんなことで本当に解決するのだろうか、と疑問には思ったが、やってみないことにはわからない。

 だから、とりあえずやるだけのことはやってみようと気合をいれた。


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