―15― 序列第49位クローセル
「あなたがわたしを呼んだのですか?」
「は、はい」
白い天使の羽。頭上には輪っか。
どこからどう見ても天使の特徴を兼ね備えている。
さらには端正な顔立ちに透き通るような白い肌。ちょっと幼い雰囲気があるが、十分美人の部類だろう。
けれど、なぜ天使が召喚された?
魔導書『ゲーティア』は悪魔を召喚する魔導書のはずだ。
「あなたは主を拝めていますか?」
「は、はい」
主とかよくわからないけど「はい」と返事したほうが良さげな予感がした。
「そうですか。あなたは大変素晴らしい方ですね」
クローセルはニコッと笑う。
どうやら「はい」と言って正解だったようだ。
「まぁ、わたしは天界を追放されたんですけどね」
ドスを利かせたような声が聞こえた気がした。
ん?
天界を追放されたって、今言ったか?
「なんで主はわたしをお赦しにならないのでしょうか。わたしはいつになったら天界に戻れるのでしょうか。わたしはこれだけ懺悔しているのに、なぜ赦してくれないのでしょう。わたしはどれだけ罪を償えば許されるのでしょうか? 罪を赦しなさいと言った主の言葉は嘘だったのですか?」
なんか一人でブツブツと喋りだした!
「これはこれは、堕天使ではありませんか!」
オロバスがそう言った。
堕天使。
天界を追放された天使のこと。
堕天使には2種類あり、自分から反逆するために堕天した者と罪を犯して追放された者がいる。
クローセルは話を聞く限り、後者なんだろう。
改めてクローセルの天使の輪っかを見てみると、黒く濁っていた。
どうやら、堕天使というのは確からしい。
「あの、大丈夫ですか?」
まだブツブツと一人で喋っているクローセルにひとまず話しかけてみる。
「手にもっているのは『ゲーティア』ですよね」
やさぐれた様子で、逆に質問された。
「そうですけど……」
「『ゲーティア』って、悪魔を召喚する魔導書ですよね。つまり、このわたしを悪魔扱いしているってことじゃないですか。うわぁ、最悪な気分だなぁ」
堕天使も悪魔の一種と考えられているしなぁ。
「あの、お願いしたいことがあってクローセルさんを召喚したんですが……」
このままクローセルの会話に付き合っていると、らちがあかなそうなので自分から切り込んでみることにした。
「お願い? まぁ、いいでしょう。迷える子羊を導くのも天使の務めですしね。まぁ、今は堕天使ですが……」
なんかすごいダウナーな感じでくるから、こっちまで気分が重くなってくる。
「えっと、水の魔術を教えてほしいんですが」
「水……水、うがぁあああああああ!!!!」
び、びっくりしたぁ。
突然、クローセルが絶叫をしたのだ。
「水のせいで、水のせいで、わ、わたしは天界から追放された……」
どうやらトラウマスイッチを押してしまったみたいだ。
正直、話しかけるのも億劫になってきたな。
けど水の魔術を覚えるためだ。ここで諦めるなんて選択肢はない。
「大丈夫ですか? 困っていることがあるなら、力になりますけど」
ひとまず、クローセルの精神状態が回復しないことには水の魔術を覚えるのは難しそうなので、そう聞いてみる。
「あなたならわたしを救うことができるって言うんですか?」
そう言ったクローセルの目はどこか物憂げな様子だった。
なんだろう? この気持ちは。なんだか、この悪魔を放っておけない、そんな気持ちがふつふつと湧いてきた。
「ええ、任せてください」
気がついたときには、僕はクローセルの手をそっととっていた。
「僕があなたを救います。ですので、それが終わったら水の魔術を教えて下さいね」
一応、ちゃんと魔術を教えてもらうよう約束を取り付けておく。
「ええ、もしわたしの魂が救われるなら、あなたに尽くすぐらい構いませんよ」
よし、クローセルから言質もとれたことだし、堕天使を救うぐらい、やってやろうじゃないか。
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