―12― 発火魔術

 アイムとオロバスの3人で、近くにあるちょっとした原っぱに来た。

 流石に僕の部屋の中で火の魔術の練習をするわけにいかない。

 ちなみに2人とも霊の状態、言い換えると霊体となっている。

 だから、他の人からは僕の姿しか見えないはずだ。

 一応、霊の状態でも魔術を使えるのかアイムに聞いてみたところ問題ないとのことだった。


「人間、まず俺様の魔術を見せてやる」


 相変わらず喋るのはアイムの右手にいる猫だった。


 アイムは近くにあった木を左手、つまり蛇の頭で触れる。

 瞬間、宙に魔法陣が現れたと同時。

 木が盛大に燃えた。


「おぉー」


 無詠唱での魔術の使用。

 熟練の魔術師でも難しいとされることを簡単にやってのけた。

 流石、悪魔といったところか。


「くっはっはっ、物が燃える瞬間はなんて美しいんだろう!!」


 アイムが燃える木を見て、愉快そうに笑っている。

 やっぱ悪魔っておかしいやつばっかなのかも……。

 しかし、アイムと同じことをやれ、と言われても全くできる気がしないな。


「アイム、どうすれば僕も同じことができるかな?」

「そうだな……。そういえば人間。お前は一般的な魔術師がやるような発火魔術はできないのか?」

「うん、どうやら僕は精霊に嫌われる体質のようで、うまく精霊の力を扱えないんだ」

「ふはっはっはっ、確かにそれだけの邪気を放っていれば精霊に嫌われるのは当然か」


 邪気? そんなのを放っている覚えはないんだけど。


「俺様の発火魔術はそこらの魔術師がやるような魔術とは根本的に違う」

「そうなの?」

「人間は大気に潜む精霊の力を借りて魔術を実行するらしいが、俺様の場合、俺様自身が火の精霊の性質を帯びている」


 なるほど。

 聞いたことがある。

 本来、精霊は目に見えないぐらい小さいが、まれにいるとされる上級の精霊は人と同等の大きさをしていると。

 アイムは悪魔でもあるが上級の火の精霊でもあるということなんだろうか。


「けれどそれじゃあ、僕には発火魔術を扱えないじゃないか」


 アイムみたいに僕自身が火の精霊の性質を帯びるなんて無理な話だ。


「いや、そんなことはない」

「え?」

「人間、降霊術は知っているか?」

「知ってはいるけど……」


 降霊術とは、死んだ人間の霊を自分の体に宿すこと……けど、それが今回の話とどう関係が?


「俺様自身の霊をお前の体に宿せばいい」

「あ、そっか」


 そうか、僕の体にアイムを降霊させれば、必然と僕が火の精霊の性質を帯びることになる。


「とはいえ俺様の全てを取り込もうとするなよ。自我まで乗っ取ってしまうからな。俺様の霊の10分の1、いや100分の1で十分だ」

「でも、降霊術なんてやったことがないんだけど」

「なら、今回は俺様が直接いれてやる」


 アイムはそう言って左手の蛇の頭を僕の体に向けた。

 瞬間、蛇の口から僕の体になにかが飛んできた。


「うっ……」


 体の中を熱い異物が駆け回る。

 思わず、うめき声をあげてしまった。


「アイム殿! マスターに良からぬことをしたわけじゃないな!」

「オロバス、黙って見てろ。お前の主人はこの程度でくたばるたまじゃねぇだろ」


 体中が熱い。

 けど冷静になれ自分。

 魔力の流れをコントロールするんだ。

 目を閉じて、自分の中にある異物を把握し、一カ所に集めていく。


「ほう、自分のものにしたか」


 僕の左手の甲にジワッと焼き印のような跡が生まれる。


「これは……?」

「シジルだ。俺様の力を受け継いだ証拠のようなものだ」


 シジルは紋章のように円の中に幾何学的な紋様が浮かんでいた。


「これで僕にも発火魔術が?」

「あぁ、シジルに秘めている魔力を操作すればできるはず」


 言われたとおりに目をつぶり、シジルに秘めた火の魔力を呼び起こすようなイメージをする。


「――発火しろ(エンセンディド)」


 瞬間、左手の甲の上辺りに、赤い魔法陣が宙に浮かびあがる。

 と、同時に、ボファッ、と火の塊が一瞬だけ姿を現した。


「できた……」


 14年間、ずっとできなかったことが、ついにできたのだ。


「やった……っ!」


 嬉しすぎて涙が溢れてくる。


「おめでとうございます! マスタぁあああああ!!」


 オロバスも祝ってくれた。


 できた、できた、できたっ……!

 僕はこの感触を忘れないよう、強く、強く、噛み締めていた。


―――――――――――――


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