―11― 序列第23位アイム
「それじゃ今日は序列第23位アイムを召喚しよう」
拘束の呪文を覚えた次の日。
念願のアイムを召喚する日がやってきた。
それに今日は学校が休みなので一日中特訓ができる。
「そのためにも一度オロバスを退去させて……」
「マスタぁああああ!! わたくしを退去させるのはどうかお止めください!!」
やはりというか、オロバスは退去されるのを嫌がった。
まぁ、いいんだけど。
拘束の呪文を覚えた今なら、二体同時召喚もなんとかできそうな気がするし。
よし、まず魔導書のアイムのページを開いて、と。
それから魔力の流れを意識して、かつ頭の中でイメージをする。
でも、イメージってどうすればいいんだろう。
アイムって悪魔がどんな姿をしているのかわからないしな。
けれど、魔道書のアイムのページからアイム特有の魔力が溢れ出ているのはなんとなくわかった。
その魔力を引っ張る、そんなイメージを思い描いてみる。
「――我は汝をノーマンの名において厳重に命ずる。汝は疾風の如く現れ、魔法陣の中に姿を見せよ。世界のいずこからでもここに来て、我が尋ねる事全てに理性的な答えで返せ。そして平和的に見える姿で遅れることなく現れ、我が願いを現実のものとせよ。我は汝を召喚する。万物が従う方、その名を聞けば4大精霊はいずれも転覆し、風は震え、海は走り去り、火は消え去り、大地は揺すぶられ、天空と地上と地獄の霊すべてが震える我の名において、命ずる。来たれ――第23位、アイム!」
以前、詠唱を省略できそうだと思ったが、まだ3回目の召喚ということで、念の為の意味も込めて全文読み上げた。
すると、部屋にあった魔法陣が光りだした。
成功したようだ。
魔法陣から現れたのはイケメンだった。
サラサラな金髪に高い鼻、目もくっきりしている。
どこからどう見てもイケメンである。
「この俺様を呼び出したのはお前か?」
イケメンには似合わないしゃがれた声。
「えっと……」
困惑したのにはわけがある。
一見、アイムはただのイケメンの姿をしているように見える。
けれど、2つおかしな点があった。
1つ目は右手が猫の頭になっている。
2つ目は左手が蛇の頭になっていた。
口を開いて喋っているのは猫の頭だった。
イケメンは口を固く結び、表情を変えない。
「おい、さっさと答えないか! 人間!」
やはり猫が口を開いてしゃべっている。
右手の猫が本体なんだろうか?
「はい、そうです。僕、ノーマンがあなたを召喚しました」
「この俺様を召喚し使役しようとは、この身の程知らずの人間がァ!! 燃やしてしまおうかァ!」
反抗的だ。
けれどフルカスやオロバスが異端なだけで、悪魔というのは本来こういった姿が正しいのかもしれない。
「貴様ぁあああああああ!! マスターになんたる侮辱! 心優しいマスターがお許しになっても、わたくしが許さないぞ!!」
「むむっ、変態のオロバスもいたのか」
あ、やっぱりオロバスって悪魔から見ても変態って認識なんだ。
「オロバス落ち着いて、僕が話をするから」
「はっ、心得ましたマスター」
そう言ってオロバスは一歩下がる。
変なところはあるけど、オロバスは素直に言うことを聞いてくれるので、その点はありがたい。
「ほう、2体の悪魔を同時に召喚したのか。ただの人間というわけではないらしい」
アイムは僕のことを少し認めてくれたらしい。
「アイムさん、あなたにお願いがあって召喚しました。ぜひ、聞いてくれませんか?」
「言ってみろ、聞くだけ聞いてやる」
「僕に発火の魔術を教えてほしい」
「ほほう」
と、アイムは考えるそぶりしてから、こう答えた。
「嫌だ」
どうやら交渉失敗のようである。
「いいか人間! よく聞け! 確かに俺様は火の魔術が得意だ! そして俺様は火が大好きだァ! だが、俺様がもっと大好きなのは火で燃えた建物だァァ! 手始めにこの家から燃やしてやるぅうううううう!!」
「やばい、暴走した!」
早く、拘束の呪文を唱えないと。
けれど、拘束の呪文は時間がかかる。
唱え終わる前に、家が燃やされる!
「マスター! わたくしめにお任せください!」
オロバスがアイムに飛びかかった。
「貴様ァ! 邪魔をする気か!」
アイムは対抗すべくオロバスを火で燃やす。けれど、オロバスは火を物ともせずアイムを羽交い締めにした。
今のうちに!
「――我は汝、第23位アイムに厳重に命ずる。我は汝を拘束する。速やかに、その場にとどまり一切の行動を禁止する。我の命令のみを聞き入れたまえ。汝が我に服従しないのであれば、我の名において、汝を呪い、汝から全てを奪うであろう」
「ぐふっ!」
そう言って、アイムは固まった。
ふぅ、間一髪屋敷が燃えるのは避けられた。
「アイム、喋るのを許可する」
「人間にここまで虚仮にされたのは久しぶりだ」
そう言って、アイムは僕のことを睨みつける。
「アイムさん、できれば僕はあなたとも友好的な関係を築きたい」
「俺様はその変態のオロバスとは違う。俺様が人間と仲良くするわけがないだろ」
これが一般的な悪魔の価値観なんだろうか。
だけど、悪魔を無理やり従わせるというまねはしたくないしな。
どうすればいいんだろう。
「ならお互いに利用しあうのはどうだろう。僕はアイムさんから発火の魔術を習いたい。アイムさんは僕になにかしてほしいことはないですか?」
「あくまでも対等な関係ってわけか……」
そういうとアイムは考えはじめる。
「やはり俺様の望みはひとつだ。俺様が好きなのは燃える建物だぁ。建物内で絶叫をあげ悶え死ぬ人間がたまらなく好きだ。お前がそれを叶えてくれるのか?」
流石に無理だ。
そんなの叶えられるわけがない。
けど、叶えられないといったらアイムは僕に発火の魔術を教えてくれないだろう。
「アイムさん、僕はこれから悪魔召喚を極めたいと思う。もし、うまく極められたら僕は魔術師として認められるはずだ。魔術師になれば戦争に参加する機会があるかもしれない。そのとき、アイムさんの望みを叶えられるかもしれない」
自分で言ってなんて曖昧な話だ、と思う。
「はっはっはっ、人間。もっと交渉術を学ぶべきだな」
アイムは反抗的な目でそう言う。
やはり交渉は失敗か。
「人間、悪魔召喚を極めたいというのは本当か?」
「それは、本当だけど」
「それはなぜだ?」
そう言われると、なぜなんだろう。
両親や学校の生徒たち、僕を無能と罵ったやつを見返したいから?
いや、違うな。
「楽しいんだ。今まで他の人が普通にこなせた魔術を僕はずっとできなかった。けれど、今は僕も自分の魔術を極められる。それがとても楽しい」
「悪魔召喚を極めるのが楽しいか。くははっ、貴様の運命を見てみるのもおもしろいかもしれない」
「えっと、僕に協力してくれるということ?」
「ああ、そういうことだ」
やった、これでやっと発火の魔術を学ぶことができる。
「アイム、自由にしていいよ」
そう言ってアイムにかけられた拘束を解いた。
「よろしく、アイム」
そう言って、僕は右手を差し出す。
けれど、よく考えたらアイムの両手は猫と蛇なので握手ができないのか。
「勘違いするなよ人間。協力するとはいったが、貴様と仲良くするつもりは毛頭ない」
そういってアイムはそっぽを向いた。
どっちにしろアイムに握手する気はないらしい。
「マスタぁあああああああ!! わたくし、マスターの気高き勇姿にいたく感動いたしましたぁあああああああ!」
ふと、オロバスが泣いていた。
いったい今のやりとりのどこに泣く要素があったんだ……。
「ホントこいつは意味わかんねぇやつだな」
ボソリ、とアイムが言った。
うん、僕もアイムの気持ちに同感だ。
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