―09― 授業

「ノーマン、一週間後にリーガルと決闘するようだな」


 授業中、ふとルドン先生がそう言って話しかけてきた。


「えっと、そうですけど……」


 そう僕が返事をすると、それを聞いていた他の生徒たちがクスクスと笑い始めた。

 この様子だと、決闘のことは全生徒はおろか先生たちにも知られているようだ。


「まぁ、色々言いたいことはあるが。怪我には気をつけろよ」


 ルドン先生はそうとだけいうと、授業に戻っていった。

 決闘をとめるつもりはないらしい。

 まぁ、この学校は生徒同士の問題に先生はあまり首を突っ込まないからな。

 それにしても今授業が行われているけど、僕には一般的な魔術が使えないとわかった以上、聞いていてもあまり意味がないんだよな。


「この空気中には、目に見えないぐらい微細の精霊たちが漂っている。皆も目をつぶれば、その気配を感じることができるはずだ。いかに、それらの精霊と対話できるかが魔術の基本である」


 と、ルドン先生は講義をしている。


 目をつぶってみるが、やはり精霊の気配というのはどうしても感じられない。

 試しに、悪魔の気配を感じてみるか。

 瞬間、僕のかばんからどす黒い気配を感じた。

 確か、かばんには悪魔を召喚する魔導書『ゲーティア』がはいっていたはず。

 なるほど、悪魔の気配なら感じられるのか。


 おっ、もう一つ遠くに悪魔の気配を感じるな。

 その方角には僕の家があったはず。

 つまりこれはオロバスの気配ってことか。

 やはり本物の悪魔なだけに、莫大な魔力を有していることが遠くからでもわかるな。


「あと、大事なのはイメージである。頭の中で精霊たちがどう動き、どう変化するか詳細に頭の中で思い描けば描けるほど、精霊たちをたやすく操ることができるようになるわけだ」


 なるほど。

 なら僕の場合は悪魔がどう動き、どう変化するかを詳細にイメージすればいいのか。

 なので実際に思い出してみる。

 オロバスが召喚されたときのことを。

 ただし目で見た情報だけでなく、その際発した魔力の流れ。オロバスの息遣いや動悸。魔法陣がどのように起動したのか、そういった細かいものまで頭の中でイメージしていく。


 すると、意外にもあっさりとイメージができた。

 ふむ、あの長い呪文。

 いくつか無駄があるな。

 省略しても問題なさそうだ。

 それに魔法陣に流れる魔力を自分の魔力で完璧に再現できれば、わざわざ描かなくてもなんとかなりそうだな。


 そうか、こうやってみんな魔術を勉強していくんだなぁ。

 今まで分からなかったことの感触がすっかり理解できるようになって、非常に気分がよかった。


 そんな感じで、ルドン先生の授業を悪魔に置き換えて僕は話を聞くのであった。





「おぉ、本当に部屋が綺麗になっている」

「はい、マスターのために必死に精一杯やらせていただきました!」


 オロバスがそう言うだけあって、あんなにホコリぽかった部屋が光沢を放つほど、きれいになっている。

 ここまできれいになるとは、流石に想定外だ。

 どうやって、こんなにきれいにしたんだろう。まさか、自己紹介のときに言ってた通り、舌でペロペロとなめたわけじゃないよな……。

 うっ、深く考えるのはやめよう。


「もしかして、他の家事も得意だったりするの?」

「えぇ、掃除以外にも料理や洗濯など家事全般が得意であります」


 おー、悪魔なのに随分と器用なんだな。

 今まで家事なんで使用人がこなしていたから、一人になってからどうしようかと悩んでいたけど、オロバスに頼めば問題なさそうだ。


「だったら、他の家事もお願いしてもいいかな? もちろんオロバス1人にやらせるのは悪いから、僕も手伝うけど」

「そんなっ! マスターのお手を煩わせるわけにはいきません! わたくし1人で十分でございます!」

「そういうことなら、お願いしようかな」


 そんなわけで、僕と悪魔の奇妙な共同生活がこうして始まるのだった。


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