―02― ゲーティア

 はぁ、それにしてもどうしたら魔術が使えるようになるんだろう。

 僕だって魔術を使えるようになりたい。

 それに、人一倍勉強だってしているはずだ。


 なのに、魔術が一向に使えない。

 なぜ、魔術を使えないのか。それは僕が一番知りたいぐらいだ。


 今日も魔術の勉強をしようと思い、書斎へ向かった。

 書斎にいって本を漁っては魔術に関する知識を取り入れるのが僕にとっての日課だった。

 両親どちらも優秀な魔術師なだけに書斎には大量の魔導書が置いてある。

 すでに、ここにある本のほとんどを読み尽くしていた。

 だけど、魔術は使えないままだから、意味はなかったんだが。


「もう、ここに来られるのも最後かもしれない」


 恐らく、近いうちに僕は家を追い出される。

 そうなったら、もうこの書斎に来ることもできなくなる。だから、感慨深い思いで僕は書斎のある本を見回していた。


「あれ? こんなところに本が置いてある……」


 物色していると、本棚の奥に隠されたように置いてある本を見つけてしまった。

 気になったので、その本を手に取ってみる。

 それは表紙も背表紙も真っ黒の本だった。

 本から禍々しいオーラが放たれているような気がするのは、ただの錯覚かな?


 タイトルは『ゲーティア』。


 まだ、こんな本が残されていたんだ。

 この書斎にある本はほとんど読んだと思ったが、こんな本は今まで見たことがない。

 せっかくだし読んでみようと思い、中身をパラパラとめくってみる。


「悪魔召喚だって!?」


 書いてあった内容に僕は思わず声をあげてしまう。

 そう、この魔導書には72の悪魔を召喚する方法が書かれていた。


 普通、魔術師が使役するのは精霊や天使といった霊体だ。

 けれど昔、聞いたことがあった。

 中には悪魔を召喚する恐ろしい魔術があると。

 しかし、悪魔召喚は禁術なため決して使ってはいけない、とも。


 試しにやるだけやってみるか。

 どうせ普通の魔術ができない僕が悪魔召喚なんてできるはずがない。

 だから、これは試しにやってみるだけだ。

 パラパラと魔導書をめくっていく。

 どの悪魔を召喚すべきか悩んでいた。

 中には恐ろしい悪魔もおり、もしこんなのが召喚されてしまったら大変な目にあうな、なんてのもいる。


「これなら、そんな怖くはなさそうだな」


 僕はあるページを見て、そう口にした。

 よし実践だ。


 それから僕は自分の部屋に戻り、準備を始めた。

 といっても魔導書に書いてある通り、魔法陣を紙に書いていくだけだ。

 まず、大きな魔法陣でないといけないそうなので、紙をいくつもつなぎ合わせる必要があった。

 それから、鶏の血で魔法陣を書く必要があったので料理人から調理予定の鶏をもらった。

 魔術において鶏の血を使うことは珍しくないので快く借りることができた。


 そして、紙の上に雄鶏の血を使って魔法陣を描いていく。

 できあがると、僕は目をつぶった。

 先生は精霊の声を聞け、と言っていたけどこの場合は悪魔の声を聞けばいいのかな。


 と、次の瞬間。

 魔導書がどす黒い光を放った。

 しかも、魔導書からうめき声のような不気味な音が聞こえる。


 ああ、これが声を聞けって事か。

 初めて知った感触に僕は感動していた。

 そして、呪文を唱えた。


「――我は汝をノーマンの名において厳重に命ずる。汝は疾風の如く現れ、魔法陣の中に姿を見せよ。世界のいずこからでもここに来て、我が尋ねる事全てに理性的な答えで返せ。そして平和的に見える姿で遅れることなく現れ、我が願いを現実のものとせよ。我は汝を召喚する。万物が従う方、その名を聞けば4大精霊はいずれも転覆し、風は震え、海は走り去り、火は消え去り、大地は揺すぶられ、天空と地上と地獄の霊すべてが震える我の名において、命ずる。来たれ――第50位、フルカス!」


 長い呪文だった。

 それを言い終えると同時、魔法陣が光り輝く。


 せ、成功したのか?

 あまりの眩しさに思わず腕で目を覆う。

 そして光が消えると同時に、目を開けた。


「これが悪魔?」


 疑問系で言ったのにはわけがある。

 というのも目の前にいたのは恐ろしい悪魔のイメージとはひどくかけ離れていたからだ。


 まず白い髭と白い髪を生やした爺さんだった。

 まぁ、魔導書にも爺さんの姿をしていると書いてあったため、それはいい。

 そもそも、このフルカスを召喚しようと思った理由が、見た目が爺さんならそんなに怖くなさそうだなって感じだし。

 だが、今にも死にそうなぐらいよぼよぼな姿をした爺さんなのは、さすがに予想外だ。

 しかも、その爺さんは「ぐびー、ぐびー」といびきをあげながら寝ているし。


 その爺さんの横には、これまた今にも死にそうなぐらいよぼよぼな小馬がいた。

 その馬も案の定眠っている。

 あとは錆びた槍が落ちていた。爺さんの武器なんだろうか……。


 とりあえず、起こしてみるか。

 そう思い、僕は「起きてください」と爺さんの肩を揺らす。

 けれど、爺さんは鼻提灯を大きくしたり小さくしたりするだけで一向に起きる気配がなかった。


 とりあえず起きるまで待つか。

 そう決意し、僕は何時間か待っていたのだが、やってきた睡魔に勝てず気づいたときには眠ってしまっていた。

 これが初めて悪魔召喚をした日の一部始終だった。


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