―03― 序列第50位フルカス

「おい、お主。もう朝じゃ、いい加減目を覚まさぬか」


 声が聞こえる。けど、まだ寝ていたいと僕の頭は言っている。

 だから無視した。


「むむ……こうなったら最後の手段を使うしかないのう。必殺、百連撃!!」


 グサッ、とした感触が体に当たる。


「いったぁああああああ!!!」


 飛び起きた。

 見ると、槍を振り回している爺さんがいる。


「不審者!?」


 咄嗟のことに混乱する。

 なんで? なんで家に槍を持った爺さんが?

 まさか泥棒?

 もし泥棒なら捕まえないと!


「ふぅ、やっと起きてくれたか」

「確保ぉおおおおおおお!!!!」


 僕はベッドから爺さんのいるところまでエルボーをかまそうと飛び込んだ。


 あれ?


 なんていうか、透けたのである。

 僕と爺さんの体は重なり、そしてそのまま僕の体は壁にズデンッ、と激突する。


「お主、なぜ壁に向かって飛び込んだのじゃ……」


 確かに、端から見れば僕が突然壁に向かって飛び込んだようにも見えるか。


「僕は不審者を捕まえようと……ッ!」


 反論しようとそう言いかけて、気がつく。


 あ、この爺さん。

 昨日召喚した悪魔だ。

 すっかり忘れてた。


「えっと、フルカスさんでしたっけ?」

「ああそうじゃ、わしこそが序列第50位フルカスじゃ」


 そう言ってフルカスさんは見栄を張るためか、胸を張る。

 しかし、よぼよぼなせいな爺さんがいくら胸をはったところで、虚勢にしか見えない。


「本当に悪魔なんですか?」

「お主、もしかして疑っておるのか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


 悪魔ってもっと恐ろしいイメージがあっただけに、そのギャップに脳がついていけてないだけだ。


「その、悪魔を初めて召喚したから勝手がわからなくて」

「ほほう、悪魔を初めて召喚じゃと……。初めてで儂を選ぶとはお主中々、先見の明があるのう」


 どういうわけだが褒められた。

 とりあえず「ありがとうございます」とお礼を言っておく。


「それでお主は儂になにを求めるのじゃ」


 フルカスさんはじっと目を見開いてそう口にした。

 そっか、悪魔を召喚するってことは、悪魔になにかを命じなくてはならない。

 けど、僕は試しに悪魔召喚をしてみただけで、特になにか命じたいことがあるわけではなかった。


 いや、違うな。

 1つだけ命じたいことがあった。


「その、発火魔術を僕に教えて欲しいんですが」

「ほっほっほっ、儂から魔術を学びたいのか。それはなぜじゃ?」

「それは……」


 それから僕はフルカスさんに説明した。

 魔術の学校に通っていること。

 僕より年下の生徒は簡単にできる魔術が僕だけできないでいること。

 それで生徒には笑われ、親には怒られていることを。

 そして、魔術が使えないせいで家を追い出されることを。


「ほう、ずいぶんと辛い思いをしているようじゃが、ふむ、お主が魔術を使えない理由はすぐにわかったのう」

「えっ、なに?」


 僕は食い気味にそう聞いた。

 魔術が使えない理由がわかれば、対策だってわかるかもしれない。


「お主は非常に悪魔に好かれやすい体質なのじゃ。それはつまり、裏を返せば精霊や天使には嫌われやすい体質でもあるというわけじゃな」

「悪魔に好かれやすい体質……?」


 自分がそんなだって初めて知った。


「あぁ、そうじゃ。お主は非常に悪魔を使役する才能に恵まれている」

「じゃあ、僕は悪魔召喚はできても発火魔術はできないってこと?」

「そういうことじゃのう」

「そんな……」


 どうしようもないってことを知って僕は俯く。

 やはり僕には魔術を操る才能はないようだ。


「じゃが、悪魔の力を借りれば発火魔術に似たようなことができないこともない」

「そんなことができるの!」


 僕は途端、顔をあげた。

 そうか、この魔導書に書かれた悪魔の中には火を操るのが得意な悪魔もいるのか!


「火を操るとなると、序列第23位アイムがおすすめじゃのう」

「そうなんだ!!」


 興奮した僕は早速召喚しようと魔道書をパラパラめくる。


「じゃがな、アイムは性格に少々難があってのう」


 そうフルカスさんが言って、手をとめる。

 そうか、フルカスさんが優しいお爺さんのようなので、つい忘れてしまいそうになるが、僕がこれから召喚しようとしているは紛れもなく悪魔だ。

 中には僕を襲おうとする悪魔がいたっておかしくない。


「なら、アイムを召喚するのはやめたほうがいいのかな」

「ふむ、少し遠回りになるかもしれぬが、序列第55位オロバスを召喚してみるのはどうじゃろうか? 彼は召喚者に対して忠実じゃ。きっとお主の助けになる」


 へぇ、悪魔の中には忠実なものもいるのか。


「ありがとう。早速、そうしてみるよ」


 そう言って、魔導書をめくろうとして――


「ちょっとお兄ちゃん! いつまで寝ているつもり!」


 扉がバタンと開く音がした。

 妹のネネが扉を開けたのである。

 そのネネの隣には、使用人が困った様子で立っていた。


 まずいっ、このままだとフルカスの姿を妹に見られしまう。

 僕は、とっさにどう言いわけしようか考えていた。


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