アルス・ゲーティア ~無能と呼ばれた少年は、72の悪魔を使役して無双する~

北川ニキタ

第一部

―01― 勘当宣言

「もうお前には期待しないことにした」


 ある日、父さんが僕――ノーマン・エスランドに向かってそう口にした。


「は、はい……」


 なんでこんなことを口にするのか、心当たりがあったので、僕はただ頷くしかなかった。


「あと少しで15歳になるというのに、未だに魔術が使えないのは正直いって前代未聞だ」


 そう、僕はもう少しで15歳になるというのに魔術が使えない。

 僕の家は代々魔術師を排出している名門の魔術一家だ。当然、両親どちらも魔術師だし、妹も年下ながらすでに魔術の才能を開花させている。

 両親が魔術師ならば、その子供も当然魔術を使えるはずなのに、なぜか僕にはそれができないでいた。


「お前が唯一の跡取りだというのに、心底がっかりさせられた」


 この国では男児しか、家名を継ぐことができない。

 だから、このまま僕が魔術を使えないままだとマズいことになる。

 というのも、この国は魔術師しか貴族にはなれない。

 このまま僕が魔術を使えないと、この家は貴族の権利を剥奪されてしまう。

 だが、そんなことはわかっていても、僕には魔術が全く使えない以上、どうすることもできないでいた。


「だから、お前をエスランド侯爵家から追放することにした」

「は?」

「代わりに養子をとることにした。そいつに、このエスランド家の跡取りになってもらおうと思う」


 追い出す? 養子? 跡取り? 唐突に出てきた単語の羅列に、僕の頭は混乱してくる。

 そんな話、今、初めて知ったからだ。


「待ってください! 僕はまだ諦めてはいません」

「だから言っただろう。お前にはもう期待しないことにした、と」


 期待しないと言った本当の意味を知って愕然とする。


「今すぐ、追い出すんですか……?」 

「あぁ、できるかぎり早急に。お前の顔はもう見たくもないからな」

「養子はすでに決まっているんですか?」

「あぁ、お前と違って平民出身だが優秀な魔術師がいてな。そのうちに紹介することになるだろう」


 どうやら、僕がこの家を追い出されるのは確定事項のようだった。



 父親から衝撃的なことを言われた翌日、僕はいつもどおり魔術の学校に通った。


「それでは、まず昨日の復習から始める」


 教室の壇上。

 ルドン先生が立っていた。

 ルドン先生は背が高く痩せこけている男の先生だ。

 いつも淡々と授業を進めるため、生徒たちからの人気はあまりない。


「昨日習ったことを思い出しながら発火魔術を行え」


 ルドン先生がそう言うと、教室にいる生徒たちは魔導書を見ながら、魔法陣を紙に書いていき、それから呪文を唱えていく。

 すると、手のひらに火の玉がでてきた。


 僕も、みんなの真似をして魔法陣を書いて呪文を唱えていく。


みな、できたか?」

「せんせーい、一人だけできていない人がいまーす」


 誰かが先生の呼びかけに対し、そう答える者がいた。

 その声にはあきらか嘲笑がこもっている。


「また、ノーマンか」


 先生があきれたようにそう口にする。

 そう僕は懸命に呪文を唱えているが、一向に発火魔術ができなかった。


「いいか、ノーマン。闇雲に呪文を唱えても意味がない」


 そう言って先生は僕の元までやってくる。


「目をつぶって、火の精霊の声を聞きなさい」

「はい」


 言われたとおり目をつむる。


「どうだ? 火の精霊の声が聞こえるだろう?」

「……はい」


 そう僕は返事をした。

 けれど、本当は火の精霊の声なんてものは僕には一向に聞こえる気配がなかった。


「聞こえるんだったら、その火の精霊に命じるように呪文を唱えてみろ」

「――│発火しろ《エンセンディド》」


 僕は唱えた。

 そーっと、目を開けてみる。

 結果、なにも起きていなかった。


「はぁ」という先生の溜息。

 途端、教室中、「ギャハハハハハハ」と僕のことを馬鹿にした笑い声が木霊する。


「君は基礎魔術もできないなんて、本当に才能がないようだな」

「す、すみません……」


 僕は小声でそう謝っていた。


 それから授業は僕のことを無視して行われていった。

 その間、僕は小さくなって俯いているしかなかった。


「ノーマン、こっちに来なさい」


 放課後、ルドン先生がそう呼んだ。

 なんとなく呼ばれる理由が想像つくだけに足が重い。


「なんのようでしょうか?」

「いい加減、魔術を習うのは諦めるべきじゃないのか?」


 僕は14歳だが、教室にいるのは10歳や11歳の子ばかりだった。

 この学校には基礎コース、応用コース、発展コースの3つがあり、僕と同い年の子らは全員発展コースの教室にいる。

 もちろん僕は基礎コースだ。

 ちなみに僕は10歳の頃から学校に通っているため、4年間ずっと基礎コースに通い続けていることになる。

 

「いくら努力しても魔術が使えない人ってのはどうしてもいる。お前もきっとそうなんだろう」

「そうかもしれませんね……」


 僕はルドン先生の言葉に黙って頷くしかなかった。

 ホントどうしたら僕は魔術が使えるようになるんだろうか?


―――――――――――――


面白ければ、感想、星、よろしくお願いします! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る