評価上等～夢を叶える瞬間～

第13話：実琴の決断 ①

事務所との協議開始から3ヶ月後、実琴はある決断をした。

　それは“芸能活動休止”だった。

　その理由として、今の自分ではこの状況を打開することは難しく、活動していくにはメンタルなどの維持は難しいと感じた事だった。

　ただ、事務所としては不採算所属者である実琴を退社という判断にもっていきたいところだったが、ここで一方的に提示することがあとから面談する所属者のドミノ退社を防ぎたいという思惑もあった。

　20分ほど面談をした実琴は無事に終わってホッとしていた反面、これから始まる生活に対する不安もあった。

　そして、中学校卒業後の進路も学校側には高校進学で提出したが、未だにどうしようか不安で仕方がなかった。

　数日後、芸能活動最後の仕事であるモデル引き継ぎ式と会見が行われて、次のモデルと会ったが、彼女は小学5年生とは思えないほど堂々としていて、身長も自分よりも高かったため、実琴は「やっぱりこういう子のほうが使いやすいのだろうな」と思った。

　その日のスケジュールが全て終わり、活動休止前に入っていた全てのスケジュールを完走した。その日の夜、実琴は事務所の個人ブログで今の心境を明かした。

“みなさまこんばんは。実琴です。

今日のお仕事はモデル引き継ぎ式でした！

今日でこのお仕事が終わってしまうのは名残惜しかったですが、またチャンスを掴みたいと思います。

そして、私は本日の仕事をもって芸能活動を一時休止させていただくことになりました。

今まで応援していただいたみなさまには感謝の思いしかありません。

また戻ってくる日まで！“

　この文が公開されたときに実琴は次の目標である中学生社長とモデル・女優として活躍したいという目標に向かって一歩踏み出した。

　彼女は芸能の現場からは一時的に離れる事になるが、たまに同じ事務所の同期の子たちと会って、いろいろな事を話すことで現場の感覚を忘れないように努力していた。

　翌日は同年代に人気のインフルエンサー・Maycaと彼女の動画配信でコラボして今の心境を話すことになっていた。

　彼女とは2年前にバラエティ番組で共演して以降、年齢が近いということもあって定期的に連絡をする仲になっていた。

　翌日になり、彼女が住んでいる場所の最寄り駅に着くと自分が住んでいる最寄り駅よりもはるかに栄えていて、人の通りもかなり多かった。

　そして、Maycaと合流して、少しカフェでお茶をしたのち彼女の家に向かった。

　彼女の家は駅から少し離れているため、バスで移動することになったが、バスの車窓からは中学生が部活から帰宅する姿や小中学生が一緒に歩いている姿を見て、「これが小学生なのか」・「これが中学生なのか」と一喜一憂していた。

　バスに揺られること15分、彼女の家の最寄りバス停に着くとそこは高級住宅街で、実琴には夢のような世界だった。

　そして、そこから歩いて彼女の家の前に着くとびっくりした。

　なぜなら、立派な門構えで、門をくぐると広大な庭園があり、少し歩くと彼女がいつも動画配信をしているスタジオが入っている3階建ての建物が見えてきて、その建物から50メートルほど奥に彼女の家がある。

　そして、その横にはバスケットコートや全面人工芝のグラウンドがあり、両親の車が入っているガレージもあった。

　その時、疑問に思った彼女は「このスタジオは誰が建てたの？」と聞くと、彼女は「このスタジオは私の配信で稼いだお金で建てたの」と言った。

　この話を聞いて、実琴は「Maycaちゃんすごすぎるな」と心の中で思っていた。

　そして、Maycaちゃんの配信が始まり、彼女が出てくると、Maycaちゃんの配信を見ていた人たちは「この子誰？」・「見たことない子がいる」などとかなりざわついたが、彼女が「私の友達です」と言うと配信を見ていた人から「Maycaちゃんもこういう子と繋がることがあるのですね」などさまざまなコメントを寄せられていた。

　そして、彼女が今回決断したことについて話していると、視聴者の方から「実琴さんは芸能活動を休止してまでやりたいことってすごいですね。」と褒められたのか、貶されているのか分からないコメントが来ていた。

　その相手はまさかの人気動画配信者のプラッターだった。この人は以前にも別の配信者に対して誹謗中傷したことが発覚し、警察に名誉毀損と侮辱罪で逮捕され、事務所と運営から無期限の配信停止と収益停止を命じられた過去がある。

　今も、個人のアカウントから配信などを見る視聴者の1人として参加しているが、トラブルを起こして喧嘩沙汰になる、個人情報を故意に漏洩させるなど今でも問題行動が多いユーザーとして有名だった。

　彼女はこのコメントを無視しようとしたが、以前にプラッターから彼女も嫌がらせを受けていて、プラッターを非表示にしていたため、逆上されては困ると思い、「皆さんコメントありがとうございます！」と言って、何とかやり過ごした。

　そして、配信終了の時間になり、動画を終了した。

すると、Maycaちゃんが「今日も無事に終わって良かった」と言って、スタジオをあとにした。

　実琴はスタジオから移動している時も彼女が言った言葉に違和感を覚えて、最初に聞いた瞬間から引っかかっていた。

　そして、彼女の家に着き、彼女の部屋で話していると彼女からある話しが出た。

　それは「毎日配信をしていると変な人が複数いて、その人たちへの対応にスタッフが手を焼いている」という話しだった。

　実は今日もコメントの非表示が2時間の配信で200件もあり、ほとんどが誹謗中傷と個人情報などの悪意のあるもので、彼女の配信の時は特定のワードが含んでいるコメントを一旦スタッフが検閲して、問題がないと確認したコメントから時間を遅らせて画面上に表示させる仕組みになっており、承認されていないコメントは全て自動で通報される仕組みになっているという。

　そして、複数回この自動通報を受けると、当該配信者のコメント欄への書き込みが制限され、視聴は出来るが、コメントは一定期間出来なくなる仕組みになっているのだという。

　以前はいろいろな場所に行って配信をしていたが、ファンのMaycaちゃんに対するストーカー行為や男性ファンが同じファンの女の子に対するストーカー行為など自身だけではなく周囲にもストーカー被害が拡大し、Maycaちゃんの盗撮や配信に参加していた他の配信者や芸能人を含めた有名人に対する盗撮行為などが相次ぎ、外での撮影をするには警備員を常駐させるなどの余剰経費がかかってしまうため、現在はスタジオのみで配信を行い、有名人や芸能人などゲストには別画面で参加してもらうなどの対策が必要な状態になってしまったのだ。