第4話:彼女の試練

彼女が3歳になり、自分ひとりで歩けるようになっていた。そして、実琴はこども園に2歳の頃から通っていて、お昼も園で出してくれるようになっていた。しかし、毎回みんなと同じ物でも少し細かくしないと食べられない事もあるため、試行錯誤をしながらご飯を食べていたのだ。


 これは運動会の練習中のことだった。彼女が来月に行われる園の運動会の種目の練習をしているときに前触れもなく、いきなり転んでしまったのだ。先生は急いで駆け寄ったが、最初は何が起きたのか分からなかったが、彼女が足を押さえたため、先生が彼女の足を見るとふくらはぎの辺りがかなり腫れていて、立とうとすると足を地に着けられないほどの痛みが彼女を襲っていた。


 以前にも赤い斑点が出て、立てなくなることがあったため、先生はアレルギー性紫斑病を疑ったが、彼女の過去の健康診断や健康観察記録などを見てもそのような傾向はなく、今回のような症状になったことも園内では以前もなかった。そのため、先生は両親に病院への受診を勧めたのだ。


 当初、両親は以前からこのような斑点が不定期に彼女の足などに出ていた事はあったが、ベビークリームを塗る程度しかしてこなかった。


 そこで、小児科の予約を取り、彼女の足を見せ、同じような症状が腕にも出る事を説明すると“じんましん”などの小児アレルギーや“水ぼうそう”などの疱疹が出来ている可能性がある“と医師から告げられた。この話を聞いて母親は”以前に言われた食品以外に何か彼女にアレルギー症状の出るものがあったのでしょうか?“と先生に聞くと”アレルギー症状の出る食品ではなく、汗やアトピーなどが原因となっている可能性があります。“と伝えた。


 その後、先生が水疱のような水ぶくれを見つけたため、水暴走になっていた場合、他の子に伝染させてしまう可能性があるため、水疱が落ち着くまで、彼女は2週間ほどこども園を休み、家で奏実のお母さんと過ごすことになった。しかし、彼女の足の赤い斑点は小さくはなるものの、水疱が身体中に出来ていった。


その後、再び赤い斑点が広がり、彼女が毎日のように足の斑点を押さえて“痛い”と何度も祖母に訴えていたのだ。そのたびに、祖母は母親から言われている薬を彼女の患部に塗り、ガーゼで患部を押さえて、テープで貼った。すると、彼女は痛みが治まったのか、すやすやとお昼寝をしていた。


 先生の診断から2週間が経ち、水疱が落ち着いたこともあり、こども園に久しぶりに登園すると、彼女は同じクラスの子供たちから「誰だろう?」という目で見られた。なぜなら、彼女の顔の一部にじんましんが出ていて、顔の一部が赤くなっていたのだ。


 そこで、すぐに保健室に連れて行き、先生にじんましん用のクリームを塗ってもらい、他の子たちと遊ぼうとしたが、今まで仲が良かった子供たちとも距離を置かれるようになってしまった。


 そして、1日が終わり、お母さんが迎えに来てくれるのかと思ったが、その日に迎えに来たのはおばあちゃんだった。彼女は思わず、「あれ?今日ママは?」とおばあちゃんに聞くと“ママね。お仕事中にいろいろあって、先生のところ寄ってから帰ってくるからお家でお姉ちゃんたちと一緒に待っていてね。”と言って、彼女の自宅に送り届けて、おばあちゃんは20分程かかる道を歩いて行った。


 彼女か帰宅してから1時間後、玄関を開ける音と共に「ただいま!」とお母さんの声がした。すると、嬉しくなった実琴が玄関に少しずつ歩いていって、そのあとに優実が出迎えるために玄関に行くとお母さんは「実琴お迎え行けなくてごめんね!ばぁばと久しぶりに帰ってきてどうだった?」と聞くと、実琴が「ばぁばが来たときはびっくりした。」というのだ。


 確かに、彼女は前日まではおばあちゃんと一緒に居たが、今日はお母さんが迎えに来てくれると知ってワクワクしていたのだ。


 そして、こども園に持って行っている連絡帳を見せてもらうと、先生から“美琴さんの顔と首に赤い点が出来ていたので、園の方にあるクリームを塗って一日過ごしました。以前、赤い斑点が出来た部分も2回ガーゼを取り替えています”という担任の先生からの治療報告だった。


 そして、1ヶ月後に子供たちの身体測定が行われ、身長を測り、体重を量った。すると、幼稚園の提携医の先生から数人の園児に発育の遅れが見られるという所見をいただいた。その数人の園児の中に実琴が入っていた。


 そして、該当した園児たちのご家庭に“総合病院などでのホルモン検査を行って欲しい”という手紙を出した。その手紙を受け取った子供たちの両親は“まさかうちの子が”と思っていたのだ。この時、3歳クラス全体の平均身長が80~95cmに対して、該当した数人の園児は70~80cmしかなく、伸び率も他の子たちは5cm~7cm程あったのに対して2cm~3cmほどと成長がかなり遅れていた。


 実琴の母親はこの手紙を受け取ってパニックになっていた。なぜなら、彼女は兄と姉たちが3歳の時の身長よりも低いような気がしていたが、まさかそんなに身長が顕著に低いとは思っていなかったからだ。


その手紙を受け取った母親は彼女にホルモン検査を受けさせるべきか悩んでいた。なぜなら、他の3人の母子手帳を見ると、“琴子3歳:85センチ、優実3歳:82センチ、賢太3歳:100センチ”と明らかに他の兄弟との身長差が大きくなっていた事も母親がホルモン検査を受けさせないといけないと思った1つの理由だ。


 その後、いつも通っている病院の小児科に相談し、ホルモン検査をする事になったが、母親は“彼女が果たしてきちんとホルモンが分泌されているのか?”不安で仕方なかった。


 そして、予約日になり、先生に身長と体重を診てもらったが、やはり、同年代の子供たちに比べるとかなり成長が遅れている可能性があり、今回は経過観察をする事になった。ただ、彼女はまだ気にしている素振りはないが、母親は“彼女が次第にみんなからチビなどの暴言を言われて園に行かなくなるのではないか?”という不安も心のどこかで渦巻いていた。


 そして、彼女の運動会の日を迎えたが、この日も彼女は保育園に行くのを渋っていたのだ。母親も兄も姉もこの時は“彼女がなぜ行くことを渋っているのだろう?”と疑問に思っていたのだ。そして、何とか説得をして園に連れて行った。すると、彼女が嫌がっていた理由が分かった。その理由とは“自分が先頭”ということだ。実は彼女は本来20人いる女の子の5番目か6番目にいるが、今日はいつも先頭にいる子たちがお休みだったため、先頭に立つことになっていたのだ。


 彼女はこの事が嫌なのか、終始嫌がる素振りを見せていた。そして、みんなが楽しそうに応援していても隅の方に1人で座っているなど明らかに彼女が何かを訴えているような印象を持ったのだ。


 そして、無事に運動会が終わり、運動会が終わった打ち上げで家族と来ていた親戚で外食に行こうとしたときだった。彼女が“お家で食べたい”と言い出したのだ。


 この時、その場にいた家族や親戚はびっくりした顔で実琴を見ていた。


 ただ、お母さんが“せっかくだからみんなで食べに行こうよ!”というとお姉ちゃん2人を呼び出し、何かを話していた。すると、お姉ちゃん2人が母親に“実琴が「普通のファミリーレストランとかではなく、個室があるお店に行きたい」だって”と母親の耳元で耳打ちした。


 早速近くのお店を探したが、さすがに15人で入れるお店は少し離れたところにしかなく、そこに連絡をして席を取った。


 この時はなぜ、ここまで人を避けていたのかをこの時は母親にはまだ分かっていなかった。そして、彼女はいつも頼むお子様セットを選び、おもちゃももらってご満悦な様子だった。

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