第22話 突入!
「あいつを戻してよかったの? 家から離れてる間なら、あのわらしと住人との絆を私が完全に切り捨てる事も出来たかもしれないのに」
なるほど、つばきにはそんな事もできたのか。
確かにそうしたらあの二人が持つ座敷わらしへの拘りもなくなって、家に対する執着も薄まり、万事解決なのかもしれない。でも。
「それじゃ意味がないからこその、今回の作戦だからな。それにつばき。本当に切れるのか?」
「……言ってみただけよ。私でも殺せない物がある。お前の覚悟を知りたかっただけ」
覚悟、か。
どうやら俺も覚悟を決めなきゃいけないな。
「仕方がない。俺が中に入って、二人を連れ出してくる」
俺の言葉にさくらが目を剥いた。
「はぁ? あんたド阿呆も休み休み言い! あん中が今どうなっとると思うん、のこの力の余波で外以上に派手に揺れとるんよ! 巻き込まれるのがオチや!」
「でも俺じゃなきゃ、爺さん婆さんを連れ出せない。直接声を届けられるのは人間の俺だけだ」
最悪もしかしたら家と心中するつもりなのかもしれない。
それなら時間は一秒でも惜しい、そう思い俺は家の中に行こうとするが、しかしさくらが俺の腕にしがみついて離れない。
「駄目や危険や、とても行かせられん! あんたかてわかっとるはずや! 紅葉さえおれば、のこの力が弾けて家が崩れてもうても、家のもんなら傷一つ負わすことなく助けられる。それがこの作戦の保険やってあんたもいっとったやろ! でもあんたは<家の人間>やない。紅葉の力ではあんたの身までは守ってくれへん、その話だってしたはずや! あんた、死にたいん!?」
それはさくらから作戦のダメ出しで言われた事だ。
「まさか。でも俺は、やれる事がまだ残ってるのに投げ出したくない。それに何より」
そして俺は、さくら、つばき、のこの三人を順に見る。
「こんな結末は、俺がお前達に約束した、お前達にしか出来ない、たった一つの答えじゃない」
つばきが呆れ顔で溜息をつき、のこが笑みを返す中、さくらは何度も首を振ってから両手で包むように俺の手をしっかり握った。
「さくら?」
「なあ。厄や貧乏に人間が苦しむには、何がないとあかんと思う?」
「へ? 何を言っ……」
突然の謎かけに意味が分からない俺の頬を、ぶにっと引っ張った。
「この程度パパッと答えんかい。そんなもん命にきまっとるやろ。……せやからうちの力にはもう一つ、あるんよ。『悪運』言うてな。うちが祈っとってやるから、ちゃんと戻って来るんや」
「はは……それじゃまあ俺の今後の活躍でも祈っててくれ」
ド阿呆、とポコッと頭を叩かれた後、紅葉を追って家の中に入る。足元はガラスの破片が散乱し床板も割れたりしている上に、家全体が揺れていてとても普通には歩けない。
二人がいるのは間違いなく仏間だ。一直線で向かえばなんとか……。
「いつっ!」
歩き出そうとした途端、大きく揺れて俺はつんのめり、倒れた先にあった割れたガラスで手を切った。
――落ち着け。歩けないなら這ってでも進もう。そう思う俺の先に――
「あんた一体何しに来たの!? これ以上あたしの家族に何しようって言うのよ!」
紅葉が待ち構えていた。
「何もクソもない、爺さん婆さんを助けに来たんだよ」
「――っ!? じ、自分でこんなことしでかしておいて何様のつもりよ! 頭おかしいんじゃないの!?」
這いずる俺に紅葉の絶叫が浴びせられる。
そりゃ紅葉からしたらそうとしか見えないだろうな。ド正論すぎて反論のしようがない。
「もう終わりよ、どうせこの家は崩れる。そしたらあたしはこの家にいられない。あたしの命は助かるわ。さぞ満足でしょう? でもあたしがいつそんなこと頼んだ! こんな余計なお世話!」
「ああそうだな、余計なお世話だろう」
そういって俺はぐらつく地面から力づくで立ち上がる。
「――だけどな。そうさせないために俺はここにいるんだ」
そういうと俺は、仏間までの最後の数メートルを一気に走り抜けた。
飛び込むよう仏間に転がり込んだ俺が目にしたものは、肩を寄せ合う爺さん婆さんの姿だった。
「二人とも早くここから出よう! ここは危険だ!」
突然現れた俺にぎょっとする爺さん婆さん。しかし驚くのも束の間、二人は思っていたよりも遥かに落ち着いた態度で、穏やかに答える。
「こんな老人を助けるために来てくれるなんて、お前さんは優しい人じゃのう。だがな、わしらはこの家から離れることはできん。これで。いいんじゃよ」
「良い訳ないだろ! 死にたいのか!?」
「あたしがいる限り二人は守れる! だからあんたはもう出しゃばってくるな!」
追いついてきた紅葉が、大声を張り上げた。
そんなことは作戦立てた時に想定してるんだよ! でも爺さん婆さんを家から引き離さなきゃ計画は全部パーになっちまうんだ!
「いいんですよ。かなり前からお爺さんとは、死ぬときはこの家と一緒だと、そんな話もしていたんです。これも運命なんですよ」
「いくらこの家が大切だからって命には代えられないだろ!」
婆さんは婆さんで完全に達観している。
「うるさいうるさいうるさい! もうあんたは黙ってて!」
「そっちこそ少し黙っててくれ【
その声にびくっと肩を震わせる紅葉。わらしが見えない二人の前で思わず口走っちまった。
けれど爺さん婆さんは――
「何故、その名前を?」
――そう、答えた。
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