第21話 続:家屋倒壊大作戦!

「おーし、やるならいつでもいいぞ! ばっちこーい!」

 元気一杯に零れる笑顔を向けるのこは本当に楽しそうだが、実はこいつの扱いが一番難しい。

「良いかのこ。何度も説明したがくれぐれも加減してくれよ。本当に加減してくれよ。間違っても全力なんか出すなよ!」

「おー。ひょっとしてフリって奴かー?」

「フリじゃねえ!」

 のこは作戦の、ぶっちゃけ肝。だがのこが力を使うに当たって大きな問題がある。紅葉の存在だ。

 座敷わらしによる家への守護があると、のこの能力は十分に機能しないらしい。

 ……つっても全力を出せば余裕らしいんだが「のこが全力でやったらここのわらしごとけしとぶぞ!」との事。当然論外。

 結局の所、のこが手加減して程ほどに力を発揮するには、紅葉の妨害がないのが最低条件だ。

「よし、のこ準備してくれ! ただしお前が力をぶっ放すタイミングは爺さん婆さんが家から飛び出してきた後だぞ。俺がGOって言うまで絶対に、勝手にやるなよ!」

「おー! いでよトツカー!」

 のこの力の象徴、刀身が軽く五mはある十束剣が、のこの手元に現れる。

 ……でかすぎて何度見てもただの鉄塊にしか見えねぇけど。

 のこは刀を天にかざして力を溜めに入った。


 ――そして第三段階 <のこによる家の破壊>

 以上が<紅葉の家破壊大作戦>の準備段階だ。よし。ここまで作戦進行は問題ない。

 だが自分の作業が終わりフリーになったさくらが俺の袖を引っ張った。

「こんなあからさまな事やっとったら当然そろそろ出てくるで。あんたも気をつけぃな、今日ばっかはあんたも間違いなく狙われるで」

「ああ。覚悟は出来て――」

 と言いかけた直後


「こ・ん・の! どバカー!」


 さくらの言う通り、竹箒を構えて紅葉が家の中から矢のように飛び出してきた。

「あたしの家になにしてくれてんのよ! もう二度と敷居を跨がせないって言ったの忘れたみたいね……いいわ、あんたら全員ボコボコにして叩き出す!」

 そう宣戦布告し、問答無用に突っこんで来る紅葉。

 こんな計画立てた時点で、紅葉がいきり立って襲ってくるのは分かっていた。

 紅葉を縄でふんじばって無力化とかできればいいんだが、つばき曰く「敷地内で座敷わらしを都合よく無力化するのは難しい」とのこと、

 こないだみたいに、やりすぎてぶっ倒れられても困るし……。

 かといって紅葉の妨害があったら、のこの力が上手く発揮できない以上、対処は必須だ。ならどうするか、単純な話だ。

 敷地内では無力化できないなら、敷地外に出しちまえばいい。

 でも当然こんな非常時に自分から外に出る訳がない。ならどうする?

「外に出ざるを得ない状況をつくってやりゃいいんだよ! てりゃあ!」

 爺さん婆さんが大切にしてる物を家の外にぶん投げれば、紅葉は絶対に反応するはず!

 家財の山から掌サイズの四角い紫色の箱を掴み、思いっきり放る俺。投げる前に中を見たが、これは恐らく婆さんの結婚指輪!

「それは節子の……なんてことすんのよ! ――あっ」

 それこそ文字通り飛ぶ勢いで、俺が全力で通りに向かって投げ飛ばした指輪を取りに向かう紅葉。

 なんとか指輪を拾い上げすぐ家に戻ろうとするところに、つばきが立ちふさがった。

「ふん、これだけ離れればもうお前の加護も薄れるわね」

「ばっっっかじゃないの! たったこれだけ離れたくらいで変わるわけないじゃない!」

「そんな台詞はやり合ってから言いなさい……!」

 そして、つばきは黒い鎌を出し、紅葉へと肉薄する。

「よし! つばきは予定通り爺さん婆さんが出てくるまで紅葉をブロック! ……く、くれぐれもやりすぎるなよー」

「言われなくてもそのつもり!」

 そういって鎌を振るうつばきに箒で応戦する紅葉。しかし紅葉はつばきにどんどん押され、更に家から遠ざかる方に向かって押し出されていく。

「う、嘘……たったこのくらい離れただけでこんなに!?」

「自分がどのくらい弱ってるかの自覚も持てない癖にしゃしゃりでてこないことね!」

 つばきは鎌で紅葉の手から箒を弾き、情け容赦なく鎌の柄で紅葉を突きとばすが、それでも紅葉は諦めない。

「どいて、どいてよ! あたしの家族に手を出さないで!!」

 何度弾き飛ばされても起き上がり諦めずつばきに体当たりをするが、とうとうつばきに組み伏せられる。紅葉は身動きも取れなくなり、その瞳からは涙が零れた。

 ――覚悟はしていたつもりだが、胸が痛い。それはさくらも同じらしく顔をしかめた。

「覚悟の上やったけど……とんだ極悪人やなぁ、うちら」

「ああ……死んだら地獄いきかもな」

「うちは神やからな、あんた一人で行っとき。ところで……ちょっと、まずいんやけど」

「何がだ?」

 寧ろかなり順調なんだが。けれど、そう思う俺とは裏腹にさくらの額には巨大な汗が浮かんでいる。

「家ん中の人間いつまで経ってもでてこんえ」

「はぁ!? なんでだよ! 予想外すぎんだろ!」 

 紅葉の抵抗はイレギュラー要素だが、そこ以外は作戦通りに推移する前提で考えていたため、降ってわいた問題点に焦る俺。

「さくら、中の爺さん婆さんも家財みたいに出せないか!?」

「そんなんできるわけないやろ! 住人は物やないんよ!」

 そうこうしている内に、地面がゆっくり揺れ始める。のこの力が溜まってきてるせいだろう。

「ちょっと待てのこ! しばらく力溜めるの止めろ、作戦変更だ!」

 ストップをかけたが、のこは剣を持ち上げ踏ん張った態勢のまま首をブンブン横にふる。

「のこの力はとめろっていわれて、とまるもんじゃないんだぞ。たまったのをつかわないと、そのままドッカンするぞぉ……」

「ち、ちなみにドッカンした場合はどうなるんだ?」

「わかんないけど、この町内辺りがぜんぶくずれるな! 我慢するのはげんかいがあるから、できればはやくして欲しいぞ」

 そういう事は先に説明しろ! ダイナマイトなんか目じゃないぐらい取り扱い注意じゃないか!

「つばき! 作戦変更だ、紅葉のブロックを解いてこっちに寄こしてくれ!」

「……そう」

 つばきが拘束を解くと、紅葉は真っ直ぐこちらに向かってきたかと思うと、俺の前で一度逡巡したように立ち止まり。

「……あんたなら、茂や節子の友達になってくれるかもと思ったのに……!」

 そう、恨むような視線を残したまま家の中へと入っていった。

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