第20話 家屋倒壊大作戦!
***
明けて翌朝。天気も快晴。
作戦会議を終え、俺と三人が勢揃いして紅葉の家の前に立つ。
「よしやるぞ、今から作戦決行だ! さくら、予定通りやってくれ」
「……おし。うちも腹据えて、やったるえ!」
神妙な顔で家を見つめるさくらに声をかけると、少しの間をおいて頷き両手を家に向けてかざす。
「むーん……。富よ出てゆけ~。積み上げすぎた物を減らし、生まれた頃の姿に戻れ~」
普段のさくらの語気と異なり、緩くゆったりした話し方に加え気の抜けた声色と共にみょんみょんと音がしそうな妙な念を送り込んでいく。
「それにしても……まさか狙って誰かを貧乏にしようとするとは思わんかったんよ。意識して使う事なんて殆どあらへんかったのに、ちゃんと出来るんやろか」
「大丈夫ださくら。そこは全く俺は心配してない。信頼してるぞ」
「どやかましいわ! そういう信頼はせんでええ!」
不安げなさくらを勇気付けるべく親指を立てて最大級のスマイルを向けるが、さくらはご不満らしい。
すると家の中から引き寄せられたのか、ポンと古ぼけた金庫が俺達の前に現れた。さくらの力、貧乏神の能力で物理的に物を減らして貧乏にする能力の結果だ。
「うお、本当に出てきた。お前の力って悪用すればルパンも真っ青の大泥棒になれるな」
「大きなお世話や。言っとくけど、本来貧乏神は時間をかけて富を減らしていくもんなんやで。財産を直接奪うなんてやり方は邪道もええとこやし、そこらの貧乏神にはまず出来へんよ」
「ほー。流石は貧乏神と疫病神のハイブリッド」
「どやかましい言うてるやろ! この力褒められてもうちは全く嬉しゅうない!」
少なくとも今回に関しては素直に感心して褒めてるんだがなあ。
「そんなへそ曲げるなよ。今回の作戦の下準備にはさくらの力が絶対に必要だ。全力で頼むぞ」
「わかっとる。金目のもんだけやのうて、家財道具から何から根こそぎやるで!」
さくらの言葉と共に次々と物がテレポートしてくる。
箪笥や衣装ケース、本棚に食器棚、テレビにラジオに冷蔵庫、果ては土瓶やら火鉢やら置時計やら布団に枕に至るまで、ありとあらゆる物が家の外に無造作に積みあがっていくのは圧巻の一言だ。
――今何をやっているのか。それは、この作戦の第一段階 <家財道具の退避> だ。
「さぞかし驚いてるでしょうね、中の人間は」
「そりゃそうだろ。いきなり部屋の物が猛烈な勢いで消えてくんだから」
「でもさくらの神力の強さはお前にも理解できたんじゃない?」
何故か誇らしげなつばきだが、流石に俺もここまで強烈だとは思わなかったよ。苦笑いする俺の横で、つばきは冷静に状況を見守っている。
「ふぅ……予想通り一つだけうちでも全く干渉出来ない部屋があったけど、他は家財から思い入れの深いもんまで粗方出せたと思うわ。つばき、次お願いするんよ」
乱雑に積み上がった物の山を前に、一仕事やり遂げたさくらがつばきへバトンタッチする。
「さくらに頼まれたからには、頑張らないといけないわね……!」
そう言ってつばきは空中から黒い鎌を取り出すと、構えた鎌を空高く放り投げた。
すると鎌が空中で砕け、その破片が降り注ぐと周囲が黒く暗いどんよりとした空気に覆われていく。
「――なあつばき。やり過ぎにだけはくれぐれも注意してくれよ」
「お前にそんなこと言われなくても分かってるわ」
今つばきが使っているのは、つばき曰く死をばらまく能力との事。ただしこちらはさくらと違い全力でやった日には周囲一体が大惨事と化すらしいので、力の行使は最低レベルに留めておく。
「それにしても意外だったよ。こういう事に死神の力使うのすげぇ嫌がると思ってた」
「嫌に決まってるでしょ。お前だけの頼みなら絶対協力なんかしてないわ、ただでさえ私の力は扱いが難しいのに。……でも」
渋い顔で瞳を閉じて集中しているつばきが、さくらの手を掴んだ。
「幸いさくらが側にいてくれるから――私の力は悪寒や頭痛みたいな疫に置き換えられるの。調整が多少ずれても大丈夫。これはさくらと私の、愛の共同作業よ」
「その表現は恥ずい上に色々間違うとるから、やめて欲しいんやけど……」
――これが作戦第二段階 <爺さん婆さんの追い出し> だ。
「普通の人間なら、これだけ陰気をばらまけばこの場から離れようと思うはずよ。まして家財道具が消えるなんて異変が起こってるなら尚更だわ」
つばきの言葉をよそに、つばきが陰気と呼んだ黒々とした靄のようなものは、この家の頭上を覆うに留まらず際限なくどんどん広がっていく。
「なぁ……撒く範囲ちょっと広すぎないか?」
「当たり前でしょ。広範囲に広げないと、あの家の人間が本当に倒れてしまうわ。いのちだいじに、が私の信条よ」
言ってることだけ聞くと座敷わらしなんだが……今使ってる能力はどう見ても死神なんだよなぁ。
「りょうてをのばしてせのびのうんどー! いっちにー、さんしー」
そんなこんなで作戦が着々と進行する中、のこは手足を曲げ伸ばし、準備体操に勤しんでいる。
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