第9話 特技はイオナズン(物理)です

 俺達がそんな命がけの小芝居をしていると窓を潜って、のこが現れた。

「さくらもつばきも、おおはしゃぎでたのしそうだなー」

「どこをどう見ればそうなるんや! 今日からこれがうちらの監督するんやで、のこもなんか思う所あるやろ。びしっと言ったらんと」

 つばきにわしゃわしゃされてあっちこっち飛んでる髪の毛を整えてるさくらを尻目に、のこが俺を見て一言。

「のこは楽しかったらなんでもいいぞ! よろしくなー!」

 あっけらかんと答えるのこ。

 だが騙されるな。能天気そうな態度とは裏腹にこいつもまた別の角度の鬼畜。

 そう思い俺が警戒していると

「ちなみにのこのとくいわざはこれだぞ! いでよトツカノツルギー!」

 そういって何もないはずの空間からどこからともなく取り出したのは、超・巨大な刀。のこはそれをまるで重さを全く感じさせないように軽々と片手で持ち上げる。

「あ、あのー。のこ……さん。それでどんな事ができるんでしょうかね?」

 思わず敬語になってしまう。背丈の三倍ぐらいありそうな鉄の塊を持ち上げられて動揺しない奴がいたら教えてくれ。

「トツカの力があれば、ぶっこわせないものはほとんどないぞ! 家でも国でもばっちこーい。ほかにも金とか縁みたいなみえないものでも、のこがどっかんすればだいたいこわれるな!」

「どこが座敷わらしだ!? 破壊神が嫌なら軍神とかやってろよ! お前にお似合いだよ!!」

「べつにのこは、つばきみたいに、いやってわけじゃないぞ。ただあきた。こわすだけじゃなく守るのもやってみたい。そんだけだぞー」

 お気楽そうに笑うのこ。

 なるほど。なりたい物があるってのは素敵な事だな。それは分かる。でも現実も見たほうがいいと思うんだ。

「そも、その能力が座敷わらしに何の役に立つんだよ」

「てきがおそってきてもまもれるぞ!」

「現代日本には襲ってくるような敵はいねえっつの!」

「でも、ゆびさきひとつで百人はぶったおせるぞ?」

「話聞いてますかねぇ!?」

 だ、駄目だ。そろそろ突っこむのにも疲れてきた。

 その時、俺の脳裏に素晴らしいひらめきが舞い降りた。

「のこ頼みがある! さくらが俺に振り撒く災厄を壊してくれ!」

 さっき縁みたいな物でも壊せると言っていた。ならいけるはずだ。最高に冴えてる、やったぞ俺。

 しかしのこは急に腕組みをして渋い顔で下を向く。

「のこにだって、こわせないものぐらい、ある……」

「使えねぇ!」

 すると心外だとばかりに、ぷくーっと頬をパンパンに膨らませる。 

「むぅ。こわす力をこわすのは、つまりこわさないってことだぞ。そんなののこだってむりだ! だからつばきの力だって、のこにはどうこうできないぞ」

 折角の名案も破壊され、あとに残るは無常な現実のみ。

 どんよりする俺に、つばきがボソッと追い討ちをかける。

「つまり戦わなきゃいけないって事よ。この現実と」

「現実から逃げてるお前に言われたくねぇ! この死神!」

「生憎そんなものになる気はないわ。私は博愛主義者だもの。それより、お前の後ろに現実が迫っているんだけど」

 ――そういわれて後ろに振り返るとさくらが怒りの篭った笑顔で仁王立ちしていた。

「誰が災厄やってぇ……もう怒ったで、うちが本気を出した時の幸福力をあんたに見せたる!」


 うわあああ! スマホの電源が入らなくなった! 買い直したばっかの財布に穴が開いた! 地味すぎて逆に腹立つ!

 その時、突如応接間の隣の扉が派手に音を立てて開き、


「た・わ・けー!」


 かなめさんがドスドスと足音を立ててやってきた。昨日も見たぞこの流れ。

「わっちはまず、親睦を深めよと言うたはずじゃぞ! 喧嘩しろとも威圧しろとも言っておらんわ大たわけどもが!」

「でもこいつらが俺につっかかってくるんですってば」

 そういうとさくらが血相を変えて俺に詰め寄ってくる。

「うちのせいっちゅうんか!? あんたがこの世に生まれ落ちてきたのが悪いんやろ!」

 俺の存在から全否定!?

「頭が痛くなるの……。とにかく少し落ち着かんか、御幸の初仕事を貰ってきてやったのに話もできん」

「初仕事ですか?」

 入社一日目から仕事なのか、てか俺まだ学生なのに、もう入社扱いなのか。

 世間の厳しさを痛感している俺にかなめさんは便せんを一つ手渡してくる。

「詳しいことはここにかいてありんす。わっちは京で用があるでの、しばらく戻ってこれぬ。お主ら四人で仲良く仕事するんじゃぞ」

「マジっすか……?」

「大まじじゃ」

 縋るような俺の視線をさらりと躱し、じゃあの、という言葉を残してかなめさんはさっさと姿を消してしまう。

 俺が? この三人と一緒に? 仕事をする? 誰か嘘だと言ってくれよ!

 俺の方こそ頭がいたくなる中、観念して便せんを開ける。


 また全部逆書きじゃねぇか……勘弁してよかなめさん――

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