第8話 くんかくんか
***
次の日。俺は再び御座敷不動産のドアの前にいた。
今日から貧乏神と死神と破壊神の相手か……憂鬱だ。とはいえ態度に出しても険悪になるだけだし、ここは一つ爽やかに行こうじゃないか。
「やあ皆! 今日から一緒に仕事をする事になった蔵田
挨拶は元気良くと思ったのも束の間、俺の体が宙に浮き、視界が上下逆さまになった。
かと思えば急に浮力がなくなり背中から地面にべしゃりと落とされる。
「なんや、本当に来たん?」
そのまま地面に倒れこんだ俺の頭上で、さくらの声が聞こえて来た。
「何しやがる!」
「招かれざる客やもん、しゃあないやろ。いや、そもそも客ですらなかったわ。単なる厄介もんや」
爽やかに、という当初の目標は入って三秒で砕け散る。
「大人をバカにするんじゃねえ! このっ……くそ、つかまらねー!」
捕まえてやろうと思ったが、スルスルと避けられてしまう。空飛ぶのはきたねぇぞ!
「うちから見ればあんたなんて童も良いとこや。そんな簡単に捕まるうちやな――ふにゃっ!」
すると、つばきが音もなくスススッとさくらに近寄り、背中から抱きしめて顔をうずめ始めた。
「ちょっ! つばき何しとるん!?」
「はぁ……さくらは笑ってる時も当然可愛いけれど、怒った顔も愛らしいわ……すんすん」
「つばきやめーや! 人前で嗅ぐんやない!」
つばきの予想外の行動に、俺は怒りも忘れて困惑する。
「全く。できる限り人間となんて関わりたくないのに、迷惑極まりないわ」
「……人と関わるのが嫌いで座敷わらしなんか勤まるのかよ――うおっ」
即座に心臓を掴まれるような鋭く威圧的な視線で睨まれた。目だけで黙れと言われてるのが分かる。
「それにしても、私が黙って聞いてたら酷い言い草だわ。こんなに素敵な職場の何が不満なのよ?」
さくらを膝の上に無理矢理座らせて「だからやめって言っとるやん! うちの話聞いとるん!?」と叫ぶのも構わずがっちりさくらをホールドして頭を撫でまくる。
「働く事になった経緯からして不満しかないんだが?」
だがそんな俺の言葉をつばきは鼻で笑う。
「まるで分かってないわね。さくらみたいな可愛い娘がいて、全うな賃金が貰えて、さくらをこんな間近で見られて、特に危険もない職場で、さくらと一緒に話まで出来て、さくらの息遣いが感じられて、さくらの髪や肌の香りが――」
ああ、うん。これは間違いなく変態だ。あんま関わらないでおこう。
「あくまで俺は、お前らをどうにかしないと解放されないからここにいるだけだ。全く……顔を突き合わせりゃ喧嘩売ってくる貧乏神なんざ可愛いなんて思うわけ――!?」
突如つばきの赤い瞳が真紅に輝き、黒い瘴気のような何かがぶわっとつばきの全身から漂い始める。
「私の許せない事が、この世に二つだけあるわ。命を粗末にする事と、さくらを侮辱する事よ」
瘴気がつばきの手元に集まり鎌のような形状になる。やっぱり死神じゃねえか!
「つばき漏れとる! 力漏れまくっとるえ! やめー!」
けれどさくらが叫んだ次の瞬間、鎌はしゅっと消え失せた。
「……おほん。嫌ね、冗談よ冗談。私は全ての命を愛する平和主義者だもの、ころs……傷つけたりなんかしないわ」
「今言いかけたよね!?」
どこが特に危険もない職場だよ、命の危険ありまくりじゃねえか!
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