第6話 三人寄ればやかましい

 鎌の持ち主である、全身を黒に染めた少女は、厳かに告げる。

「それ以上続けるなら、あなたをころ……消滅させるわよ」

「今殺すって言いかけたよね! 絶対言いかけたよね!?」

「気のせいよ、私は善良な座敷わらしだわ」

「この物騒なもんしまってから言おうね!?」

 なんなんだこいつら。何が座敷わらしだ、どう考えても悪鬼羅刹の類じゃねぇか。

 これで見習いなら、一人前の座敷わらしとやらはさぞ人類悪の象徴のようなどす黒い存在なんだろう。今すぐ退治する方が人類の為じゃね?

「おーい、のこの出番はまだなのかー?」

 すると、この地獄のような場にはそぐわぬ緊張感のない声が一人。声の方をみやるとこれまた気の抜けた笑顔で手を振る少女がいた。

「のこはうちらがこいつの身包みひっぺがしたら外に放り投げるのが仕事や、まだ出てくるの早いで」

「ん? 裸にすればいいのか? のこにまかせろー」

 背筋に悪寒が走る。

 ――え、なにこれやばいんじゃない?

 俺の予感をよそに少女はあり得ない速度で俺のもとに来ると、そのままの勢いで俺を組み伏せた。

 え、ちょ、思ったより力強いというか全く抵抗できない! なぜ!?

「それー! よいではないかよいではないかー!」

 いやああ裸にひん剥かれる、ストリッパーデビューしちゃう、お婿にいけなくなるうぅううう!

 かくて、一瞬の間に三人の幼女の前に、パンツ一丁で大の字に倒れる俺。

「あんなぁのこ……意味合いがちゃうんよ……」

「おー?」

 服だけでなく顔まで桃色に染めた少女が、俺を剥いた能天気娘に言うが、全く理解してなさげ。

 一方、俺は恐怖も何もかも通り越して、ただ悲しかった。さめざめと二十二歳の男泣きだ。俺の尊厳が砕かれた。俺はなんで生きてるんだろうか。ちくしょうマジで死にたい。


「こ……んのたわけらがああ!!」


 だが、唐突にスパーンと襖が開き、飛び込んで来たかなめさんの怒鳴り声が部屋中に鳴り響いた。

 かなめさんに促されて俺はいそいそと服を着る。

「何を考えとるんじゃおのれら! 今日は人と会うことになるから準備しとけと言ったじゃろ! それともこれがお主らの準備かや!?」

「うちは初めから納得しとらんです」

「同じく」

「のこは楽しかったぞー!」

 むすっと、無表情で、能天気に、三者三様にこたえる少女たちをかなめさんが睨みつける。

「わっちは。おのれらに。頭の下げ方から教えるべきかの?」

 全力で威圧され、ようやく謝る気にはなったようだが――

「まあ。やりすぎたんは認めるわ」

「ゴメンナサイ」

「にゃはははは、ごめんなー」

 欠片も誠意を感じない謝罪だが、それでも俺は大人だ。そうさ。精々で十歳程度の子供のしたことだ。寛大な心で許してやろう――

「口に漏れ出とるから言っておくが、こやつら全員お主より年上じゃからな?」

「もっと誠意のある謝罪を要求します!!」

「すまぬな御幸、まさかこんなたわけた出迎えするとは思わなんだ。ちょっとばかりこやつらは特殊な座敷わらし見習いでの……」

 代わりにかなめさんが頭を下げた。

 悪いのはかなめさんじゃないです。そんなすまなそうな顔しないでください。つーか既に悪びれもせず、後ろでくっちゃべってる三バカ、お前らだよ!

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