第5話 座敷わらしを自称する桃色少女、ってか幼女

「なんじゃ、こんなもんでよいのかや。余裕じゃ余裕」

「――え」

「わっちは座敷わらしじゃ、当然憑いとる家がある。百年程度じゃすまんほど長く憑いておる家がの。わっちの本尊は金閣じゃ。賽銭には事欠かんよ」

 キンキラキンの着物をひらひらさせる。

「さて、条件については済んだの。では名前を書け」

「ええと。まだ心の準備が……」

「ほほぅ。まさかお主。自分で条件を出しておきながら、呑めんとかほざいたりはせんじゃろうな?」

「いや、俺はその、なんというか」

「せ・ん・じゃ・ろ・う・な?」

 威圧的な笑顔で迫ってくるのが最高に怖ぇ。

「わかりました……」

「うむ」

 かくて策士自分で張った策で溺死という、最高に無様な図が出来上がった。

 でもまあ、あの給料を本当に支払って貰えるんなら正直新卒としては破格だし、座敷わらしの相手って話が本当なら、ひょっとして俺に幸運が舞いこんでくるのか?

「ではとりあえず、お主と一緒に仕事をする座敷わらし見習いが三人おるでの。まずは軽く挨拶して見ると良い」

「分かりました、かなめ……さん」

 見た目は幼女だが一応雇用主である以上呼び捨ても駄目だろうし、無難にさん付けにしておく。

「それでその三人とやらはどこに?」

「わっちは書類の整理がありんす、すまんがお主一人でいってくりゃれ」

 そういうとかなめさんはキセルを一振り。直後俺の視界がぐるんと一回転した。

 驚愕するのも束の間。一瞬の浮遊感の後に視界と感覚が戻ると、俺は全く違う部屋にいた。

 瞬間移動ってことか? もう何でもありだな……。


 だが、ふと気づく。いくら周りを見渡しても見習いの三人組とやらがいない。

 ――と、突然部屋の電気が消えた。なんだぁ!?

 混乱する俺をよそに、なにやら呪詛めいた声が聞こえてくる。何て言ってんだこれ?

「出ていけ……出ていけ。出ていけ出ていけ出ていけ出ていけデテイケデテイケデテイケ――」

 かんっぜんに心霊現象だこれー!

「心頭滅却悪霊退散勘弁してくれ今日二度目だぞ!?」

 俺が祈っている間も呪いの言葉が途切れることはない。恐怖に震えていると突然電気がついた、が。

「ほれほれあんたの財布に穴が開くで。ついでにお札も抜け……はいっとらんのな、おさつ」

 謎の全身桃色な少女が一人、俺の背中で何やらごそごそすると、何故か俺の財布に穴が開き五百円玉が転がり出ていく。

「あああ俺のなけなしの昼飯代がー!」

 悲痛な俺の叫びを無視して、ため息とともに女の子は告げる。

「あんたみたいに貧乏なのはみたことあらへん。これじゃ落としようがないやん」

 そう言って少女はふわふわ宙に浮かんでいた。

「財布返せこの悪霊が!! 今更宙に浮かぶ程度じゃビビらねぇぞ!」

 恐怖も財布を前にしたら吹っ飛んだ。人のお金トル、ダメ、ゼッタイ。

「誰が悪霊や、うちは座敷わらしや! ひっぱるんやない阿呆服が脱げるやろ! この変態!」

「その話も今日二回目なんだよくそが! そんな趣味はねぇ!」

「そこまでにしなさい」


 突如俺の背後に凛、と響くような声が聞こえたかと思うと、のど元にひやりとした感触。見るとそこには墨を落としたかのように真っ黒い鎌が突き付けられていた。

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