第4話 策士? いいえ錯視
混乱する俺を見て、金ぴか幼女が苦笑いする。
「実はの。わっちは今、座敷わらし見習いの監督をする人間を探しておるんじゃ。座敷わらしは人間と深く関わる仕事なだけに、人との繋がりが重要だからの。まあ、殆どの者は監督なぞおらずとも短期間で見習いは終わるんじゃが、中には力の使い方が上手くいかず難儀しとる者もおる。そこで経験豊富な座敷わらしや人間が手助けをして、一人前の座敷わらしに育てる。それがお主に頼みたい仕事じゃ」
……説明がざっくりしすぎていていまいちピンと来ないが、一つだけ物凄く大きな疑問がある。
「なんで俺なんですか?」
「単純な話じゃ。お主、昔からおかしな体験をした覚えが山ほどあるじゃろう? 人間風に言うならば霊媒体質と言う奴よの」
「――う」
絶句する俺。平平凡凡を地で行く俺だが、実は迷惑極まりない個性が一つだけある。
初まりは小学一年生の時。
迷子になった俺を、女の子の幽霊が「こっちじゃないわよ?」って手をひいてくれて親元まで帰してくれた体験がきっかけ。
そこから事あるごとに怪異に見舞われるようになり、お盆には軍人の幽霊の行進を見つけびびり。墓参りに行けば通行人と勘違いして幽霊に挨拶して家族に不審がられ。
かくてそれから15年。
相手をしても碌なことにならんと気づいた俺は「そういった物は見えないフリをしてやりすごす」というルールを敷くに至り現在だ。
しかし残念なことに今回の怪異は見て見ぬ振りが通用しないらしい。
「――なんで分かるんですか」
「そりゃ分かって当然じゃ。ただの人間にはわっちらの姿を見ることは出来ん。それにこの建物もの。普通の人間にはただの空き地にしかみえんよ」
けらけらと笑う幼女。
「で、こんぴゅうたぁとやらに詳しいわっちの仲間に、この周辺の職がない若者へ手当たり次第に連絡が行くよう仕掛けさせたら、お主がここに辿り着いたと言う訳じゃ。理解できたかの?」
「はぁ……理解できてしまう自分が嫌だ」
まあ座敷わらし云々の信ぴょう性はともかく、俺を雇いたくて呼び寄せたってのは事実なんだろう。
だが常識的に考えろ。
こんな怪しさMAXの話を受けたいか?
受けたいわけないだろいい加減にしろ!
コンマ1秒で結論が出る。
だが相手は自称神様。逃げだせば罰でも当たるかもしれない。
悩む俺の前に、ずずいと一枚の紙が突き出される。
「ほれ雇用契約書じゃ。とりあえず一通り目を通せ、納得したら名前を書いて貰うぞよ」
【書約契用雇】というタイトルから文面まで全部が逆書きされていて大変読み辛い。
――あれ、月収欄が空欄だなこれ。
「ここ、書かれてませんよ」
「うむ。お主の希望を聞いてから書くつもりじゃからな、どのぐらい欲しいんじゃ?」
その時、俺の脳裏に電流走る。
これだ! 渡された万年筆を手に、俺は新入社員にあるまじき金額を書いて渡した。
「こんなもんでどうでしょう? ま、まあ、この俺を雇うならこの位は出して貰わないと駄目ですね!」
断ったら何が起こるか分かったもんじゃない。ならいっそ、無茶な条件を突きつけて相手に諦めさせる。これで完璧! 策士とはこういう者なのだ、わはははは。
案の定無言で紙を見ている幼女。これは決まった。
「出来ないっていうならしょうがない、残念です。では俺も忙しい身なんで、縁がなかったという事でしつれ……い」
立ち上がりかけた時、紙を下ろした幼女がにや~っと笑っていた。
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