第3話 世にも奇妙な採用面接

 野球と思ってたらバスケットボールが唸りを上げて飛んで来るような意味不明な質問を真顔でされて、俺の脳みそは機能を停止した。


「…………はい?」


 いや待て。これは孔明の罠だ。予想外の質問でこちらの反応を見る為かもしれない。なにしろ自称社長(笑)のかなめちゃんは、真剣な面持ちでこっちを見ているし。

「どう……と言われても。まあ、可愛いなとは思いますが」

「可愛いじゃと!?」

 当たり障りのない反応をしたつもりだが、目をカッと見開かん勢いで驚かれた。

「それはあれか、いわゆる性的な意味でというやつなのか!?」

「ぶはっ。そんなわけねーでしょうが、一般論に決まってるでしょ! そんな趣味は生まれてこの方持ったことないわ!」

 面接という事も忘れ、思わず噴き出した上に敬語も飛んだ。

「なんじゃ、驚かせるでない。あくまで愛くるしい、愛でたいという意味での可愛いかや」

「おほん。いえ、こちらこそ失礼しました。そうです。あくまで犬や猫みたいな感覚に近いかと」

「犬猫じゃと!? それは首輪を着けてペットよろしく幼女を飼いたいという意味かや!?」

「なんでそうなるんだよ!! んなわけねえだろ!」

 くそ、完全に素になってしまった。こんなアホな質問を幼女にさせてる辺り面接官は相当救いがたいアホなんだろう。大丈夫かこの会社。

 頭を抱えたくなる俺に、のじゃロリは顎に手を当ててジーッと俺を見つめた後、いきなりソファーから立ち上がると、ペタペタ俺の顔を触り始めた。

 それに飽き足らず、頬を指で押したり胸を触ったり、しまいにゃ俺の膝の上にストンと座る始末。

「あの。一体何をやってんですか?」

「ふむ、特に反応なしかや。ちょっと試してみただけじゃ。まあよい。問題はなかろう……多分の」

 何故か勝手に納得して離れると、大きく頷いて俺の手を取った。

「よし。喜べお主、採用じゃぞ」

「……はあ?」

「なんじゃ、首なんぞ傾げて。嬉しくないのかや?」

「あのな。どこの世界に、面接に呼ばれたら開口一番幼女趣味あるか聞かれて、ぺったぺった幼女にくっつかれただけで、他に何も聞かずに採用なんて会社があるんだよ」

「ここにありんす」

 俺の突っこみを何食わぬ顔で流され、ようやく気がついた。担がれてるだけだこれは。何で俺の個人情報がダダ漏れしてんのかは知らんが、何にせよこんなもんが採用面接の訳がない。

「帰る! 子供の遊びに付き合ってられるか!」

「これ待たぬか、まだ仕事の説明が何も終わっておらぬぞ」

 制止する声を無視して踵を返し応接間の扉を開けると――目の前で金キラ幼女が仁王立ちしていた。

「は? え!?」

 間違いなく真後ろにいるはずなのに、どうやって回り込んだんだと思うより先に、幼女は指先で俺の胸をツンと軽く突く。それだけでゴムボールのように体が弾き飛ばされ俺は椅子の上に戻された。

「全く。人の話は最後まで聞かぬか、せっかちじゃの」

「な、なな、なななななな」

 なんだ今のは!? 超常現象? 超能力!? ファンタジーじゃあるまいし!

「改めて挨拶させてもらうぞよ。わっちは座敷わらしのかなめじゃ。よろしくの」

 幼女は物理現象を無視し、当然のように宙に浮いて俺を見下ろしていた。

「心頭滅却心頭滅却悪霊退散悪霊退散……!」

 思わず手を合わせて祈りまくっていると、幼女は露骨に顔をしかめ俺の頭を軽く叩く。

「たわけ、誰が悪霊じゃ誰が。座敷わらしを妖怪だと勘違いしとる人間もおるが、これでも神じゃぞ」

 そんなことを目の前の怪奇現象が言っているが全く頭に入ってこない。

 もしや俺、祟られてたりするのか?? 椅子に背中を押し付けて体の震えを無理矢理誤魔化そうとしてる俺を見て幼女が肩を竦めた。

「そんな怯えるでない、何も取って食ったり等せぬ。座敷わらしの名前くらいお主も聞いたことがあるじゃろう」

「ええと……古い家にいて、そこの住人を幸せにする妖怪って話なら……いて」

 幼女は懐から長いキセルを取り出し俺の頭をコンと叩く。

「じゃからわっちら座敷わらしは妖怪なぞではない。神じゃと言っておろう」

 おかしい。俺は採用面接に来ただけなのに、なんでこんなトンデモ現象に出くわしてるんだろうか。

「勘違いしておるようじゃが、お主をここに呼んだ理由が採用面接なのは一切嘘偽りなしじゃぞ。まあ不動産屋というのは多分に語弊があるかもしれんがの」

 ……言ってる意味が分からない。仮に言葉どおり、この女の子が座敷わらしだとしてだ。俺を採用して何がしたいんだ?

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