1-6.告白されました

 戸倉は両手でもにゅもにゅとマッサージするように二の腕のぷにぷにを揉む。

「???」

 触られたのは厚手の作業着の上から、作業着の下にワイシャツやインナーシャツも着ているので、痛くもかゆくもない、のだが……いったいなんの確認なんだろう?


「ありがとう」

「あ、いえ……」

 ゆっくり腕を下ろして、すみれはおそるおそる真剣な顔をしている戸倉を見上げる。

「あのぅ。わたしの腕が何か……」

 そんなすみれに真面目そのものなまなざしを向け、戸倉は滑舌よくハッキリと言った。

「君の二の腕に惚れた。俺と寝てくれ」

 え。


「俺、不眠症っていうか。今回もそうだが、大々的なプレゼンの日が近づいてくると緊張しっぱなしで、まったく眠れなくなるんだ。仕事の効率は下がるし、肝心のプレゼンだってうまくいかなくなるって考えれば考えるほど気持ちが休まらなくて、そもそも俺、あがり症なのは子どもの頃からで、運動会当日にお腹が痛くなって休んだり、音楽発表会の直前に倒れて保健室に運ばれて写真にも動画にも顔が写らないまま終わってたり、とにかく、大勢の人に注目されるのが苦手なんだ。朝礼くらいなら、手に人の字を書いてどうにかなるんだけど、それだって毎日のことなのにいっこうに慣れないし、むしろ不眠の傾向は重くなるばかりだし。薬に抵抗があってアロマも苦手なら枕を変えてみたらとアドバイスされていろいろ試したんだ。おもしろ抱き枕なんてものまで。でも」


「戸倉さん」

 不在だとばかり思っていた須崎課長がデスクの下からにょきっと顔を出したので、滔々と語っていた戸倉は口を開いたままの状態で静止した。

「三隅さん、聞いてないよ。ずっと固まってる」

 その通りで、すみれはショックのあまり目を見開いたまま時間を止めていた。


 そう言う須崎は、足元の文書保存箱を漁るためにデスクの陰に蹲っていたようだ。よっこらしょと腰を伸ばして立ち上がり、須崎は改めて冷ややかな視線を戸倉に注いだ。

「私の部下にハラスメントとはいい度胸だ」

「え、は?」

「部署違いとはいえ、職権を振りかざして関係を強要とは」

「へ!? あ!! ちが、違います! 俺はあくまで個人的に」

「どのみちサイテーだな」


「いやだって! やっとめぐりあえた理想の固さなんですよ! 柔らかくて、でもがっしり感もあって! 指を押し返してくる弾力の強さもとてもいい!」

「……なんの話だ」

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