1-5.一緒にブレイクしました
窓際カウンター席の真ん中あたりにふたつ空いている椅子があって、両脇の見ず知らずの作業員さんに遠慮しながら椅子を寄せてから腰かけた。
そのせいで、左隣に座ろうとしていた戸倉にすみれの腕があたった。
「あ、ごめんなさい」
「うん」
ちょっと目を見開いて戸倉は真顔になっている。強くぶつかったわけではないけど、痛かったりしたのかな、とすみれは心配になる。
が、戸倉は何事もなかったようにコーヒーに口を付けた。
けっこうな身長差があったのに、こうして並んで座ると肩の位置がそれほど変わらないことに軽くショックを受ける。そりゃあ、今朝運んだとき、足が長いなぁとは思ったが。そうだ、この人の足が長すぎるんだ。
自分に言い聞かせながらすみれもカップを持ち上げる。
お菓子をもらってテンションがあがり勢いで誘ったものの。
今朝知り合ったばかりの人で、しかも異性で年上。役職ははるか上だし、業務内容もまるで違う。決して社交的とはいえないすみれにとってふたりきりで会話するにはハードルが高い相手だ。
今朝の行動こそ珍妙ではあったが、わりとフレンドリーな人だと感じた戸倉も、なぜだか今は沈黙している。
気まずい。ひたすら無言でふうふうしながらコーヒーを飲む。
数分でふたりともコーヒーを飲み干してしまい、じゃあ戻りましょうかとなった。
戸倉の後から廊下を歩きながらすみれは思う。この人はもうビルに戻るのかな、挨拶をしないと。
ところが資材室の前で立ち止まった戸倉はすみれに言った。
「折り入って話があるんだ、少しいいかな?」
「え? あ、須崎課長にですか?」
課長は今いないみたいだけど。首を伸ばしていると、いや、と戸倉は深刻そうな表情ですみれを見つめた。
「須崎さんじゃなくて、君に」
「わたしにですか?」
それならどうしてコーヒーを飲みながら話してくれなかったのだろう?
とにもかくにも資材室のドアを開けて中に入る。ソファーを勧めたほうがいいのかな、と迷っていると、立ったままいきなり戸倉が口を開いた。
「腕、触らせてくれないか」
「う、腕?」
またまた疑問符を飛ばしながらも素直なすみれは右腕を軽く上げる。
「できたら二の腕を」
「に、二の腕……」
力こぶを作るようにぐぐっと腕を持ち上げる。
そうっと手を伸ばして戸倉がすみれの腕に触れる。
「ちょっと、力入れていいかな?」
「は、はいぃ」
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