1-4.お詫びにお菓子をもらいました
「別にね。親身になって悩みを聞いてくれて的確なアドバイスをしちゃうような聞き手を求めてない場合だってあるわけよ。この人はこういう反応しかしないのだろうなぁって、確実に予測できる相手の方が安心して話せたりするのよ。その点、うちの課長は何を言われてもあの無表情でしょう」
「な、なるほどー」
「戸倉課長もちょくちょく来てるみたいね。あの人も、仕事はできるけど問題児らしく」
もって。誰と誰とで「も」なんだろう。須崎課長のことかな。
ぱくっと口に入れた枝豆入りの卵焼きが美味しくて、すみれの意識はあっという間に食べ物の方へと向いてしまった。
午後の三時休憩に合わせて、噂の戸倉課長が再び資材室に現れた。
「これ、お詫びの気持ちです」
帰宅して身繕いしてきたらしく、さっぱした顔つきにすっきりした身なりの戸倉は、確かに見た目も優秀そうな若手社員に見える。
そんな彼がすみれに差し出したのは、近くのコンビニでよく見かけるマカデミアナッツのクッキーと、美味しいと評判のプレミアムシリーズのドーナツだった。
入手が簡単な商品とはいえ、わりと値段が張るので手を伸ばしたいけど伸ばせない。こういう価格帯の食べ物は人から貰うと嬉しいものだ。
スイーツ大好きなすみれは、戸倉への好感度をぐぐっと上げた。
「ありがとうございますっ。ええと、でも。なんかこれじゃあ、もらいすぎな感じがするので、お返しにコーヒーでも……あ、お時間があればですけど」
ちょうど飲みに行こうとしていたので誘ってみると、戸倉はそれじゃあ、と食堂に向かうすみれについて来た。
飲食できる場所に限りがあるので、食堂は休憩中の作業員さんたちで賑わっていた。戸倉はここに来るのは初めてではないようだったが、ちょっと笑ってすみれに言った。
「俺、浮いてるよね」
彼だけ作業着ではなくスーツ姿だから。
「わたしがそっちへ行けば、こんなふうですよ」
「だよね」
くすりと笑って戸倉はコーヒーの自販機に自分のICカードをかざして支払いをした。
「あ、わたしが……」
「いいよいいよ。君も選んで」
お返しをしようと思って誘ったのに。貸し借りの割合が傾いたままなのは気になるが、人目が気になったのですみれはそのまま飲み物を選んでボタンを押した。
購入したコーヒーのカップを手に空席を捜す。パートのおばさんたちに交じっている藤井さんを見かけた。
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