1-3.説明されました

 守衛さんがいなくなり、デスクチェアーに腰を下ろした須崎課長は冷たい顔つきのまま戸倉に向かって言った。

「明日だよな?」

「はい……」

「馬鹿が。そんな体たらくで大事な時間を無駄にして。百歩譲って、飲むなら帰ってからにしろとあれほど」

「会社にいても気は重いですが、会社にいないと不安なんです。それでつい」

 馬鹿が、と須崎は冷たく繰り返した。

「さっさと部署に連絡入れて半休もらって家に帰れ」

「はい、そうします」


 よろよろと立ち上がって戸倉はぺこりと頭を下げた。顔色の悪さが心配で、ずっと傍らであたふたしていたすみれを見て、彼は弱々しい笑みを浮かべた。

「あの、あとで改めてお詫びに来るから」

「や、えと。そんなのいいです。あの、お大事に」

 声をかけるべき適切な言葉がわからずそんなふうに返事をすると、戸倉の微笑みは少しだけ深くなった。





「あーなるほど。戸倉課長ねえ」

 早めに仕事場に入るすみれや須崎課長とは逆に、藤井さんはいつも始業時間ギリギリに出社する。そういうポリシーなのだそうだ。

 なので朝の騒動を知らないままの彼女とランチを食べながら話題にしたところ、藤井さんはひとりでふむふむと頷いていた。


「知ってますか?」

「ううん、直接は。でも有名人だからね。ほら、うちの課長も元は購買課のエースでビルの方にいたじゃない?」

 ほら、と振られても。情報のないすみれはただぱちぱちと瞬きする。


 企業の花形部署といえば営業部だが、製造のための資材を買い付ける資材購買も同じくらい重要な部署だ。

 なのだが、同じ資材部でも、購買課と管理課とでは天と地ほども重要度が違う。購買課は本社ビルに所属しているのに、管理課は離れ小島のように倉庫工場建屋の方に放り込まれている位置関係がすべてを象徴している。


 いや、その方が仕事の効率がいいことは間違いではないのだけど。それにしても管理課は、どこからもよそ者のように見られている雰囲気をぼんやりしているすみれでも感じる。

 だからこそ、そんな離れ小島にいながらビル内の事情にも詳しい須崎課長のところへ相談にくる管理職社員が多いのだと藤井さんは持論を展開した。


「えと、でも、課長って人の相談に乗るようなタイプに見えないです」

「三隅さん、カワイイ顔して言うよねー」

「ええー」

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