第46話 闇と光の祝福
【1】
ハウザー王族留学生主催の王立学校の学生向けお披露目会が催された。
貴族、上級聖職者、官僚の卵に富裕商人の子弟、王立学校生は今の社会の縮図である。
数年後にはこの国を回して行く者達が集うこのお披露目会はこの後に催される王家主催の告知の宴の前哨戦である。
一年から三年まで生徒が集うパーティーだ。それも貴族はもとより平民学生も大挙してやって来る。
参加数は数百人、バイキング形式ではあるが食材も調理方法も一流。
当然資金はハウザー王家だけでなくゴルゴンゾーラ公爵家やアヴァロン商事から出ている。
私としてもゴルゴンゾーラ公爵家の威信がかかっているのだから出し惜しみなどしない。
いちばんの上座には主賓であるジョン王子とヨアンナの席が仲良く並んで設けられている。
そして右サイドにはエヴァン王子と側近のエズラ・ブルックス、エライジャ・クレイグ。
左サイドにはエヴェレット王女とヴェロニク・サンペドロが並んで座る。
前方の各テーブルには上位貴族を中心としたいくつかの貴族グループが座っている。
中央にはヨハネス・ゴルゴンゾーラ卿が公爵の名代として座り、その周りに北西部の貴族が座っている。
その周りにファナ・ロックフォールを中心とした南部貴族席。イアン・フラミンゴ伯爵令息を中心に東部貴族が集まっている。
西部貴族はそもそも取り纏められる実力を持つ大貴族の居ない地域なので気の合った者同士が集まっている様だ。フラン・ド・モンブリゾン男爵令嬢も同じテーブルの参加者と和やかに話している。
私と言えばカロリーヌ・ポワトー
私自身はヨアンナの従姉で北西部派閥の急先鋒と見られているが、現在の北部清貧派派閥を作ったのは私だと言われここに座っている。
そして近衛騎士団員はエヴァン王子とエヴェレット王女の周りに身分に関係なく護衛も兼ねて配置している。
メアリー・エポワスも希望通り王女のすぐ横に席を設えている。周りを近衛騎士団員に囲まれて、イヴァナの隣りに席を設えてやった。
私を絞め殺しそうな顔で睨んでいるがお前の希望通りだろう。後は知ったこっちゃない。
エマ姉とオズマは身分上後方の平民たちの席になる。
その筆頭辺りに二人はいるのだが、パウロやマイケルの顔も見える。
ニワンゴ派数学者の卵たちは一カ所に集まって、テーブルの上に置かれたメニュー表の裏に何やら鉛筆で書きつけて議論を始めている。
こうやって沼にハマった奴らが高等学問所に続々と流れて来ているのだ。
それを遠目で見ているジョン王子は口を挟みたそうにしてヨアンナに窘められている。
そして平民寮の聖職者は清貧派だけでなく教導派の聖職者もかなり見受けられる。
カタリナ達の指導を受けて治癒術士を志す聖職者が増えたためだ。
殆んどの教導派修道士生徒は卒業を機に清貧派に鞍替えして治癒院を目指すのだろう。そして一部…かなりの生徒は一級資格を得て還俗するつもりなのだろうと思う。ここに居ること自体がその証左だ。
そしてその筆頭のジャンヌは南部貴族の中に座っている。
別にボードレール伯爵の姪であると言う事ではない。単に二人に祝福を施し清貧派聖女を印象付ける事と専属メイドが付けられない状況で警備に穴が出やすい平民の中では危険と判断したからだ。
パーティーは滞りなく進んでいる。
始めにエヴァン王子の挨拶が有り、それに答える形でジョン王子が例の言葉を述べる。
続いてヨアンナが集まってくれた生徒全員の礼をのべて開催となった。
平民寮や騎士団寮の生徒は当然のことながら下級貴族寮の生徒たちにとってもかなりのご馳走で皆食事に夢中になっている。
教義上の考え方も有るのか割と身分に関係なく歓談の輪が広がり和やかな雰囲気が会場内に溢れ出している。
場が温まったと判断して私が口火を切った。
「皆さん、聞いて下さい。私はジョン殿下とヨアンナ様のお二人のこれからの行く末を豊かなものにしていただきたく、聖女ジャンヌ様から祝福をお願い致したいのです」
それを受けたジョン王子が立ち上がりシナリオ通りにジャンヌに願いでる。
「おお、それは願ってもにゃい…無い事だ。俺…余もヨアンナも聖女ジャンヌ殿より祝福を戴けるならこれほどうれしい事は無い。これまでも聖女からの祝福を賜った王の治世は安泰であったと言われている。父上は残念な事に聖女ジョアンナ様の祝福を受ける事が出来なかった。ならば今ここで賜る事が出来れりゃば…これ以上に嬉しい事は無い」
大根役者め! 棒読みのセリフの上に噛んだり言い間違えたり、しっかりしろよ。
「聖女ジャンヌ様、どうかこちらに上がって私たちに祝福を戴けないかしら」
ヨアンナが壇上を降りジャンヌの手を引いて導いて行く。
「私は聖職者では御座いませんので、聖職者としての祝福は施せません。ですから尊敬する友人に対して、同じ人として祝福を行う事しか出来ません。ならばセイラ様、同じ聖属性を持つ者として光と闇の祝福を御一緒に出来ないものでしょうか」
「私のように世俗にまみれた者が祝福を行ってよいものでしょうか?」
「”其の方自分が良く解っているではないか” 世俗のものの祝福を得てこその王族であり王家ではないか。何を躊躇う事がある。光の神子よ我らに祝福をお願い致す」
…おい! ジョン殿下。初めに小声で言った言葉、聞こえてるからな。
「それならば皆様! エヴァン王子様もエヴェレット王女様も、いえ此処にお集りの全ての皆様! 私たち全員でジョン殿下とヨアンナ様に祝福を起ころうでは御座いませんか! 貴族も聖職者も平民も皆同様に尊敬する我らがジョン王子殿下とヨアンナ妃に祝福を送ろうでは御座いませんか」
会場全体から賛同の拍手と声が響き渡った。
「ああ、皆様。私たちは本当になんて幸せ者なのかしら。こんなに沢山の友人を持つ事が出来て、こんなに愛して頂けて。もしジョン殿下の治世になるなら、皆様方の支えでこの国は豊かで幸せになれるのではないかしら」
ヨアンナの煽りに会場から賛同する声が響き渡る。
「それでは皆さん、聖女ジャンヌ様と共にジョン王子殿下とヨアンナ様に祝福を!」
私の言葉にジャンヌが祝福の言葉をゆっくりと述べ始める。
それに続いて私を筆頭に会場の全員がその言葉を唱和する。
唱和が終わると同時にジャンヌが簡単な殺菌の為の聖魔法を、私が免疫力上昇の聖魔法を同時に放つと二人の身体が一瞬ボンヤリと輝いた。
「素晴らしい。闇と光の二つの聖属性に祝福された国王は今まで聞いた事が無いし、他の大陸であろうとも存在した事は無いだろう。少なくとも我がハウザー王国の文献にはその様な記録は無かったはずだ」
「博識な兄上の事。その兄上が仰るならきっと未だかつてなかった事だよ。僕は何と素晴らしい場に立ち会えたのだろう。こうして主催させて頂けたことをジョン王子殿下、ヨアンナ様の両命に感謝いたします」
ハウザー王家の二人のの言葉に会場は興奮のるつぼと化した。
「皆様! ジョン王子とヨアンナ様の下で、聖女ジャンヌ様のお力を戴いてより良い治世を目指してまいりましょう。私たちは聖女ジャンヌ様を模範に清く正しき王家がこの先も続くために歩んでまいりましょう」
私が締めくくりの言葉を発すると、後ろの平民寮のメンバーからジャンヌの聖霊歌を口ずさむ声が聞こえてきた。
その歌に加わる者が徐々に増えて行きいつの間にか会場全体が歌声で覆われた。
「「「「♪創造主に賄賂を贈り、天国への免罪を強請るなんて本気なのか♬」」」」
ジャンヌ(冬海)アレンジの聖霊歌、ブルーハーツの”青空”が響き渡る。
…誰だよ。この歌口ずさみ始めたのは…。完全にアジテーションじゃんか。
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