第44話 清貧派派閥集会
【1】
下級貴族寮に帰るとヴェロニクがエヴェレット王女と一緒にお茶をしていた。
「やあカンボゾーラ子爵令嬢殿。お邪魔しているよ。ヴェロニクが迷惑をかけているようだね」
「いえ、その様な事は御座いません。私からお願い致しましたから」
「だから申したでしょう。私はセイラ・カンボゾーラの要請に従ったまでだと」
少し慌てた様にヴェロニクが言い繕う。
「その様だね。いや、冬の間無聊を託っていたものでね。君たちが帰って来たと聞いて、まずは情報通のセイラ殿にご挨拶をと思って押し掛けてしまったよ」
「いえ、何より此方からご挨拶に向かうべきところをワザワザご足労いただいて恐縮で御座います」
たぶんヨアンナの婚姻の話を耳にしてこちらに探りを入れに来たのだろう。
本人に聞くより私に聞く方が裏の流れが判ると踏んだのだろう。
「それではご挨拶ついでに私のたわ言ですが今噂になっている話、これと言った脚色も無く全部事実ですよ」
これはエヴェレット王女殿下から聞かれる前にこちらから発言する方が角が立たないだろう。
「へー、それは又急な話だったんだねえ。良いものを貰ったよ」
「何お話ですか? もしや王女殿下が私の分まで食べてしまったセイラから貰った菓子の話ですか?」
「それはヴェロニクが私は洗練された物しか口に合わないと言ったからじゃないか」
「エヴァン王子殿下やエズラたちの分まで食べたでは無いですか」
「あれは雪の中騎士団寮にまで行くのは大変だからだ」
澄ましている様だがこの王女も本質はヴェロニクが以前言っていた通りの様だ。あのクッキーが気に入ってもらえたならそれはそれで結構だ。
「あのクッキーを気に入って頂けたなら嬉しいですわ。…詳しい話をお教えしても構いませんよ」
「フーン、それはそそられるね。今すぐにでも知っておきたいものだよ」
「簡単に言えばジョン王子派閥の旗揚げ? 宣戦布告ですわ。少なくともゴルゴンゾーラ公爵家とアヴァロン商事、そしてライトスミス商会は必ずジョン王子につくという事です。…ああ、そうそう、聖女ジャンヌは贖罪符対策で卒業まではクオーネの大聖堂を拠点に活動すると言っていましたね」
「という事は清貧派枢機卿は二人ともジョン王子につくという事と同意語だね。ハウザー王国は、少なくとも僕や兄上の立場としてラスカル王国の清貧派枢機卿と仲違いする事なんて出来ない話さ。ボードレール枢機卿猊下に何かあってはヴェロニクも困った事になるだろうしね」
エヴェレット王女殿下もこちらについてくれるようだ。
「そこでエヴェレット王女殿下。明日にでもヨアンナ様からお声がかかり王立学校の女子の派閥が招集されると思うのですよ。私が口利きを致しますから顧問的な立場で参加願えませんでしょうか? そしてもう一つのお願いが…」
私は考えていた腹案に協力を依頼する。
「なかなか面白い事を考えるねセイラ殿は。その話乗らせて貰うよ」
「それでセイラ・カンボゾーラ。レシピはいつ教えてくれるのだ? 別にレシピは無くても現物が有ればそちらの方が良いのだが」
ヴェロニク・サンペドロ辺境伯令嬢! あんたは本当に士官学校主席だったのか? 全部忖度じゃなかったのか?
何より辺境伯家はこれが次期当主で大丈夫なのか?
【2】
翌日、極秘裏に派閥女子たちに召集がかかりヨアンナの部屋でお茶会がもようされた。
三年はフランやロレインやマリオンなどの教導派から転向した下級貴族も来ている。
平民寮からもジャンヌとエマ姉に加えオズマも参加している。
なにより派閥の集まりにエヴェレット王女がヴェロニクを連れて参加しているの異例中の異例だ。
もちろん二年の北西部や南部出身の貴族令嬢も数人来ているし、一年生からもハンナ・ロックフォール侯爵令嬢とエレーナ・ル・プロッション子爵令嬢も参加している。
「なあ姉様、婚礼の宴って武闘会とかあるって聞いたけど、獲物は剣だけなのか?」
それから…なんでイヴァナが私の隣りでふんぞり返っているんだろう?
ストロガノフ子爵家は東部で建前上は教導派領地だったと思うのだけれど。
「武闘会じゃなくて舞踏会だから。刃物なんて持ってくるんじゃないわよ。女性が持って良いのは扇だけ!」
「鉄扇か、それって暗器関係ならありって事か」
「だからワルツを踊るんだって! あなたも貴族でしょう! 予科の頃にダンスパーティーは行かなかったの?」
「父上が恥をかくから行くなって。兄上も武術の助けにはならないって」
それで良いのかストロガノフ子爵家!
「皆さん聞いて欲しいかしら。私ヨアンナ・ゴルゴンゾーラはこの度ジョン王子殿下との婚姻が決定したと噂は聞いているかしら。噂が先行してしまったけれど婚姻は卒業式の翌日に行う予定よ。王宮聖堂で式が挙行されるので皆さん全てを呼ぶことは出来ないけれど祝って頂けるかしら」
会場全体から拍手と祝賀の声が上がった。
「皆さん聞いて欲しいかしら。王宮で行われる時期国王の婚姻の儀式かしら。ただこの式には私たちの友であり仲間である聖女ジャンヌには立ち会って頂きたいの。これは私だけの希望では無くジョン王子殿下も望まれている事かしら」
会場からは更なる拍手が起こった。
「皆様! 聞いて下さい。ジャンヌさんは聖女です。ジョン王子の婚姻に呼ばれても何一つ瑕疵が生じる事は有りません。有りませんが、私たちのジャンヌさんを王宮聖堂に入れたくないヤカラが多数いるのです。卑劣な手段を画策する者、誹謗中傷を行う者、そしてジャンヌさんの命すら狙うものが現れてもおかしくありません。聖女をお守りしこの婚礼を成し遂げる為に一丸と成って戦いましょう! 次期国王ジョン王太子殿下の婚姻で、次期国王がたっての希望とされている事です。それを覆す様な事は私たちで絶対阻止いたしましょう!」
立ち上がって発言した私の言葉に全員が雄叫びを上げた。
「『父さん煽り過ぎ』皆さん、次期国王陛下のために手を取り合って参りましょう」
ジャンヌ(冬海)も立ち上がって挨拶を行う。
そこにパチパチと拍手の音が前方より聞こえた。
「それならばヨアンナ嬢、僕から一つ提案させて貰えないかな」
「もちろんかしら、エヴェレット王女殿下」
「出来るなら隣国の王太子の婚姻で親しい友人でもあるお二人の婚姻だ。可能なら僕と兄上もハウザー王国の代表としてその式に呼んでいただけないだろうか」
「もちろん、当然なのかしら。是非こちらから膝を折ってご招待申し上げるかしら」
「それはありがたい。でもね現国王陛下や王宮聖教会がそれを許してくれるかどうか…。もちろんそうなっても僕たちとジョン王太子夫妻は大切な友人に変わりないはだからそんな事でへそを曲げたりしないよ」
「大切な国賓を蔑ろにするような者は私やジョン王太子殿下の側に要らないかしら」
「そうはいっても現国王は御健勝だ。そこでこの婚姻のお披露目会なりとも僕たちに主催させて貰えないかな。せめて僕たちを来賓として受け入れて貰える王立学校の人たちには参加して貰いたいんだよ。心の通う者だけで良いからまずはお二人の慶事を讃えたいんだ」
「それは願っても無い事なのかしら。私からもぜひお願いするかしら」
ヨアンナが席を立つとエヴェレット王女の前に赴きカーテシーをする。
そしてチラリと私を見ると目で合図を送って来た。
「それでしたら、次週の日曜日にサロン・ド・ヨアンナを全て貸切って執り行いましょう。慶事ですのでハバリー亭にも協力を要請いたしましたら快く承諾してくださいました。料理の一部はハバリー亭も提供して下さるようです。それに食材もロックフォール侯爵家の食品販売が全面的に協力して下さるようです。何よりこれなら平民寮の皆様も招待する事が出来ますわ」
私は立ち上がり状況を報告する。
『これも父さんの仕込みなの?』
冬海(ジャンヌ)、他に通じないからって日本語を連発するなよ。変に思われるぞ。
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