第42話 聖女との対話(2)
【4】
少し落ち着いたので俺(私)も冬海の向かいに座った。
「まず父さんに絶対話しておかなければいけない事。エヴァン王子とエヴェレット王女は攻略対象だという事」
「えっ? 攻略対象は王子とイアンとヨハンとバカの…ああジョバンニもいたけれどその五人だろう」
「あの二人は全クリ後の隠しキャラなんだよ。父さんが事故に在った日にやっとクリアしたから父さんは知らないんだ」
「でも…エヴェレット王女も対象なのか?」
「うん、私はエヴァン王子で攻略したからエヴェレット王女のルートは良く判らない。でもあの兄妹は攻略した対象が即位すると片方はジャンヌと謀って武装蜂起して討ち死にするんだ」
「それじゃあお前は…」
「捕まって死罪だね。反逆罪だもの。そもそもジャンヌっていうキャラは農民を率いて武装蜂起するキャラでしょ。ゲーム中は両親を殺された恨みで国家転覆を謀る女だって思っていたけれど…」
「現実を見てみるなら理想家で革命家だな。ジャンヌ・スティルトンは」
「そう言われるとちょっと嬉しいかな」
「ハハハ、俺はゴッダードの救貧院を廃止した時からそう感じていたから。どう考えても正義はジャンヌにあると思ったから清貧派聖教会で聖教会教室を始めたんだから」
「私はその頃やっと治癒魔術士として村々を回り始めた頃で救貧院なんて夢のまた夢だった」
「それでもジャンヌの意志を継いでいたんだろ。その結果が今じゃないか。それよりエヴァン王子のシナリオを教えてくれないか。参考になるかどうかわからないが知っているかいないかで対応が変わって来るしな」
「うん、そうだよね。今の状況ならラスカル王国メインシナリオは無いと思うわ」
そう言ってから冬海(ジャンヌ)は言葉を続ける。
「絶対、ジョン王子ルートも多分イアンルートも発生しないわね。もちろんジョバンニルートは論外。ヨハンは単なるモブだし。可能性があるのはイヴァンルート?」
「止めてくれ! あのバカも論外だよ。イヴァナも持て余しているのに」
「うん、そうだと思った。一番有りそうなのはエヴェレット王女のルートかな。父さんが一番仲が良いのは彼女でしょう。ただ唯一プレイしていないシナリオなんだよ」
「でもエヴァン王子ルートはクリアしたんだよな。それを参考に出来ないか」
「確実じゃないけれど参考にはなると思う。ただその先入観で足を掬われる可能性もあるから本当に参考にするだけにしましょう」
そこから冬海(ジャンヌ)によるエヴァンルートの説明が始まった。
「エヴァン王子を攻略するにはね。まずジョン王子の好感度50以上をキープしてフラグを立てない事。これが結構難しいんだ。メインの攻略対象だからフラグが経ちやすいんだけど…」
冬海(ジャンヌ)の攻略説明が続く。
攻略対象のラスカル王国側五人のうちジョン王子とイアン・フラミンゴの好感度を50以上でキープしつつフラグを立てない。
この二人の好感度が下がるとハウザー王国とラスカル王国の仲が険悪になるのだ。
更にイヴァンの好感度を70以上に上げないと攻略対象の好感度が上がらない。
エヴァン王子もエヴェレット王女も騎士なので騎士科のイヴァンの好感度上昇と連動して二人の好感度も上がって行くそうだ。
「イヴァンかよう…。まったく…」
なら今の状態はラスカル側の攻略対象とはケンカばかりだ。ジョバンニとヨハンはどうでも良いが、ジョン王子ともイアン・フラミンゴとも派手な口喧嘩ばかりだし、イヴァンに至っては何度ぶん投げたか。
イヴァンのバカの好感度を上げるのは至難の業の様な気がして仕方ない。
「父さん…、多分ハウザー王族ルートにどっぷりと浸かってるよ。ジョン王子もイアン様もヨハン様もケンカ仲間だけど好感度が低い訳じゃないと思うんだ。それにイヴァン様とは仲が良いし…妹のイヴァナさんには慕われてるようだし」
「えー! そんな訳無いじゃないか。なんであいつらの好感度が…」
「いや、そうだって。みんな男友達みたいな付き合いをしてるじゃないの。あのアプローチなら恋愛フラグが立たないから。イヴァン様とは一番に絡んでるし」
「…そう言えばイヴァナに有る事無い事吹き込んでるのもイヴァンだよな」
「父さんが今までナチュラルにやって来た事をイヴァナさんが全部まねしてるだけだと思うけど」
ウーン、世間的にはそう言った間違った解釈がなされているのだろうか。
しかしこの世界は現実で、数値化された感情が推し量れるような世界でもない。何よりもジョバンニとイヴァン以外は現実が見えている常識人だ。
恋愛感情に流されて大局を見失うような真似はしないだろう。
「でもエヴァン王子とはさほど親しくないし、ほとんど話した事も無いんだけれど」
「うん、だから攻略対象になるならエヴェレット王女だと思う。現実問題それが在りえるのかどうかわからないけれど。ただね、このルートだけは唯一私がプレイしてないルートなんだよね」
俺の生前に病院で『ラスプリ』のゲーム画面を見ながら楽しげに語る冬海がそこに居た。
今のこの世界はゲームじゃない。
色々と言いたい事も有るが、黙って冬海の話を聞いている事が今は一番心地よい。
【5】
ひとしきり話して満足したのか冬海はヴェロニクが置いて行ったスコーンに手を伸ばして齧った。
俺(私)もそれに習ってスコーンを齧るとホットミルクを飲む。
「ミルク、冷めちゃったな」
「でもこの世界のミルクは濃厚で美味しいよ。多分しぼりたてで成分無調整だからだろうね」
「…なあ、エヴァン王子ルートではジャンヌはどうなるんだ?」
「死ぬね。エヴァン王子の即位に反対してエヴェレット王女が反乱を起こすんだ。それに呼応して国境周辺でジャンヌも暴動を起こして鎮圧される。そのままエヴェレット王女は討ち死に、ジャンヌは捕まって斬首。ハウザー王国の第一王子はこの暴動に便乗しようとして廃嫡しエヴァン王子が王太子になるんだよ。バッドエンドではエヴァン王子は失脚してエヴェレット王女も第一王子の謀反に在って幽閉。ジャンヌは暴動で討ち死に。セイラはラスカル王国に連れ帰られて修道院送りだよ」
「結局どうなってもジャンヌは死ぬんじゃないか!」
「うん、そうだね。どうあがいてもジャンヌ・スティルトンは暴動を起こして死ぬんだから」
暴動? 本当にそうなのか?
「暴動じゃない! これは農民蜂起だ。多分革命を起こそうとしたんだ。でも南部国境辺での農民蜂起の火種になりそうなものはもう摘み取っているし、憂いは無いはずなんだ」
「私もそうだと信じたいよ。けどだからって暢気に構えている訳にも行かないよ」
「それにエヴェレット王女は何故反乱を起こすんだ? そもそも継承順位は四位だ。二位だったエヴァン王子を追い落としても第三王子が継承する事になるだろう」
「そうだね。エヴェレット王女はエヴァン王子を尊敬しているし、一番彼の即位を望んでいるのもエヴァレット王女だと思うけど」
「なにより第三王子はどうなったんだ? ラスカル王国での継承争いも面倒な事になっているが、あちらはもっと厄介だろう。エヴァン王子は側妃の子で継承権も二位だ。ジョン王子よりもずっと不利だし本人も頭が切れても、線が細いし押しは弱い気がするんだよな」
「でも、今はエヴェレット王女ルートしか成立しないと思うよ。ゲームじゃないからどうとは言えないけれどそれに近い世界線を進むんだと思うんだよね」
「ならエヴァン王子が反乱を起こす可能性があるって事か?」
「なによりエヴェレット王女は継承権四位だよ。エヴァン王子が禅譲したとしてもまだ上に二人いるし」
なんてこった。
やっとラスカル王国はジョン王子即位の道筋が見えてきたと言うのにハウザー王国の王位継承争いまで抱え込まねばならないのだろうか。
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