閑話24 官僚たち
【1】
「軍務卿も近衛騎士団の綱紀を粛正できてよかったでは有りませんか。司法省としても大事にならず安心いたしました」
「しかし今回の機密盗難事件を鑑みるに副団長が大隊長を兼任と言うのは目が届かぬのでは無ですかな。早期に発見して動いていただいたエポワス卿ではありますが、事件が起きた責めも無いとは言えんのでは」
宰相以下、軍務、国務、司法、内務、財務のトップと軍務省の上層部が集まっていた。
予想通りその場でストロガノフ近衛騎士団長はエポワス副団長の糾弾に入った。
「いや自分も副団長を兼任という立場でこういう事態に陥った事は誠に遺憾だと感じております。人員も少なく王城内の警護を受け持つ北大隊はともかく、他の三大隊は今回と同じような事態に陥る可能性が高い。大隊長は増やすべきでしょう。自分も南大隊からは手を引き新たに大隊長を選出いたしましょう」
「それが良かろう。ストロガノフ卿、其方も近衛騎士団長に専任して大隊長の選出を命ずる」
「「ハッ、了解いたしました」」
軍務卿の命に二人が頭を下げる。
「続いて近衛騎士団長は近衛騎士団全体の統括を、副団長はその任を解き、新たに輜重局の設置を命じその責任者に専任する」
「ハッ」
頭を下げるエポワス副団長を横目でにらんだストロガノフ騎士団長の表情が一瞬強張るがそれ以上は何も言わず口を閉じた。
「続いて王都騎士団と各州都騎士団についも検討事項がある。州都騎士団の騎士団長には今後軍務省任命の騎士を派遣し王都騎士団長と同格の権限を持たせる。州によっては一部貴族の私兵化が甚だしい。領主や聖教会の権限での私用は今後一切認めぬ」
「それは輜重や兵站についてもという事で宜しいかな、軍務卿閣下」
「元より当然であるな」
今度はストロガノフ近衛騎士団長がエポワス副団長を見ながら言う。
「当然でございましょう。自分も輜重を承った限りは弁えております」
「良いのか? エポワス卿。教導騎士団を裏切る事に…」
「裏切る? それは侮蔑だぞ。教導騎士団は聖教会の私兵。我ら正規騎士団とは格が違う。わしは国王陛下の臣であって聖教会の走狗ではないわ」
「良かろう。その言葉忘れるなよ」
「誰に物を言っておる。それより軍務卿閣下、近衛騎士団の輜重が軌道に乗れば王都・州都騎士団の輜重もお任せいただければと」
「良かろう。結果次第では考慮しよう」
それを聞いたストロガノフ騎士団長は更に忌々し気にエポワス副団長を睨んだ。
【2】
「宰相殿、これで軍務省はジョンの陣営に着いたと思ってよいのかな」
「少なくとも近衛騎士団はモン・ドール侯爵家とは決別したととらえて宜しいかと存ずるが」
「一歩前進という所かしら。モン・ドール侯爵家も焦っているようね。王太后陛下を引っ張り出してきたのは気掛かりなのよ。引退したと言うものの隠然とした力は王宮内に強いし、手段を選ばないお方ですから」
「それは剣呑。次年度からの王立学校は荒れるでしょうな。ゴルゴンゾーラ公爵令嬢様が色々と煽られた様で、王太后陛下は激怒なさっておられるとか。ヨアンナ様のメイドについてもですが何よりエヴァン王子たち留学生の受け入れについていたくご不満の様ですな」
「それは教皇派閥の失点でしょう。こちらに関係ない事、何も気に病む事は無い」
「それでも王太后陛下は色々とゴリ押しをしてくるでしょうし、あの方は手段を選ばぬお方ですのでジョン王子殿下の身辺はお気を付け下さい」
「それとは別に王妃殿下にご提案が有るのですがな」
「申してみよ」
「新しく商務省の発足を考えておりまする。しばらくは財務省の局として、二年後には省に」
「急な事であるな。何か考えが有るのか?」
「初代の商務卿にセイラ・カンボゾーラを据えようかと」
「良いのか? 十代の爵位の無い子爵令嬢で」
「あ奴は取りこぼすと災禍を招きます。教皇庁を切っても取り込まねば国益を損ないますので」
「フフフ、その人事本人が呑めばわたくしに異論は無いが。ヨアンナと言いあ奴と言いわたくしの気に入らぬ者ばかり集まって来るのう。ケダモノどもが幅を利かすのは気に入らんが仕方あるまい」
【3】
「ふざけたことをしてくれたものじゃな。王都に、王立学校にケダモノどもを引き入れるとは」
「それは…、しかし以前から下働きでは働かせて居りました故」
「寮内のメイドやサーヴァントも多くのケダモノがいるとか申しておったぞ!」
「それも、南部の者は以前から…」
「平民寮や下級貴族寮での事じゃ! 上級貴族寮にあれ程多くのケダモノが入り込んで負ったとは…」
「清貧派が蔓延り始めておるのです。セイラカフェと申すところがケダモノのメイドを集めて清貧派貴族に売っておるのです。王立学校の事でもあり、人手も足りず我らでは対処できぬので」
「忌々しいがそれは解った。やはり元凶はヨアンナ・ゴルゴンゾーラか?」
「派閥が御座います。五年前に聖女認定を受けたジャンヌ・スティルトンの派閥が」
「スティルトン? その様な貴族家は聞いた事が無いぞ」
「父は騎子爵で、その娘で御座います」
「なら平民では無いか。何より平民の聖女ならなぜわらわの治癒に来ん!」
「母が前の聖女ジョアンナなので御座います。南部のボードレール枢機卿が後ろ盾として取り込んでおりますので。それに闇の聖女で病治癒には不向きとか…」
「まあ良い。後ろ盾はともかく平民は平民であろう。そんな派閥が何故力を持つ?」
「平民寮の支持は絶大で御座います。それに南部と北西部の貴族連中が付いております。ヨアンナ・ゴルゴンゾーラ公爵令嬢とファナ・ロックフォール侯爵令嬢。その上北部のカロリーヌ・ポワトー
「なんと! 枢機卿の三家までもが…」
「我がモン・ドール侯爵家も本意ではなかったのですが、この事態でポワトー伯爵家の影響を削いで、ノース連合王国を教導派の国にする為止む無くハウザー王国との交換留学生を受け入れて北海での不干渉を謀ったのですが」
「それを邪魔したのがマリエル・ダンベールなのだな」
「ええ、マリエル王妃殿下と宰相殿が共謀し声明を出し、卑怯にも援軍を考えておりましたペスカトーレ侯爵家の領都アジアーゴを軍船で封鎖したので御座います」
「当然ハスラー聖大公も…」
「ええ、ハッスル神聖国がギリア王国の援助を表明した折には日和見を決め込み、情勢を見て反ギリア王国を表明致しました」
「それもマリエルが噛んでいるに違いないではないか」
「ジョン王子殿下を王位に据える為には手段を選ばぬようでございます」
モン・ドール侯爵の説明に王太后はしばらく何か考えていた顔を追上げて一言発した。
「近衛の北大隊長を呼べ。十二中隊長もじゃ」
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