第113話 夏至祭のファッションショー(午前)
【1】
今年も騎士団寮の闘技場を借りてファッションショーという事になっていた。
騎士団の闘技会は前日の決勝終了後そのまま表彰式から閉会という流れになり、当日は朝から、いや前日の夜から男子学生有志が多数準備にかかり朝には設営は完了していた。
昨年大好評だった夏至祭のショーは今年は午前と午後の二部制になり、教導派の最上級生貴族令嬢のほぼ全員舞台に上がる事になっている様だ。
下級貴族や平民寮からも昨年のような団体参加が有るので闘技場に付属する各騎士団の屋内訓練場も控室や着付け室代わりに借りていると言うのに教導派上級貴族は寮内で着替える事になっている。
上級貴族寮の三年生女子は寮内で着替えた後、僅か数十メートルの距離を馬車で移動し闘技場に乗り付けると言うのである。
見栄っ張りで金のかかる演出ではあるが効果的ではある。さすがにこれまでの失敗で教導派貴族たちも頭を絞ったようだ。
時間が倍に増えた分参加する仕立て屋や服飾商会も大幅に増えて、個々の商会ごとに凝った演出を考えている所も多いようだ。
夏至祭の一週間前頃から外部からの服飾関係者の面会が増えて、各女子寮で頻繁に生徒たちと打ち合わせがなされている。
エマ姉は何故か騎士団寮の大きな訓練備品倉庫の整理と引き換えに、最終日を挟んだ前後三日間その倉庫を借り上げている。
そして前日の午後からエマ姉に(騙されて)集められた見習い騎士が片付けを始めて、夜に大型の荷馬車が次々にやって来るとエマ姉に(騙されて)動員された見習い騎士達が荷を運び込んでいった。
見習い騎士たちはファッションショーの立見席無料入場券を手に頑張って働いている。
昨年の悪どいエマ姉の金儲けは学校の上層部から目を付けられた上、教導派上級貴族からも色々と苦情や嫌がらせが来た。
その結果一般自由席の入場料は禁止させられたのだ。
校内の施設を使って学生から金をとるとは何事だとという事で、生徒への入場券売買は出来なくなった。
そうなると生徒の希望が増える為、二部制となったのだ。
エマ姉は服飾関係者の舞台参加料徴収の権利と引き換えに午前の部の運営の権利全てを教導派に譲ってしまった。
午前の部は出店参加料は一点に付き金貨一枚。その代わり点数制限は無し。
会場の貴賓席の運営は教導派が管理。
その結果舞台上にモデルとなる令嬢がひしめき合う事となった。
舞台上で自分の衣装を見せたい上級貴族令嬢たちは幾点もの衣装を用意させ複数回舞台に上がり、参加する仕立て屋は大量の参加費用を払う羽目になっている。
来賓用の上級貴族席は無料配布の対象にならない為、教導派が多数テーブルを設けたのでテーブル席は増えその売り上げも教導派の懐に入るのだが、そんな物は比較にならいくらいに舞台参加料の売り上げが上がっている。
そして午後の部は貴賓席であったテーブルは椅子が倍に増やされて、出展作品のパンフレットや参加商店のリストなどの資料が置かれたバイヤー席に変貌している。
午後の部の貴賓席は席料を払ってそれらの資料を手に入れる事になる。
女子生徒には希望者には一般自由席のチケットが配られるが、一人一枚である。
アリーナ席は来賓や卒業生の家族に優先的に販売(もちろん生徒以外となるためだ)されている。
チケット希望は午後の部に集中したのだが、教導派貴族の圧力で可哀そうに取り巻き令嬢たちは午前の部で我慢する他なくなってしまった。
午後の部については特に縛りの無い二階立見席の争奪戦が男子生徒と教導派下級貴族令嬢と予科の女子生徒による三つ巴の争奪戦が繰り広げられていたのだ。
その立ち見チケットをエサにエマ姉は騎士団の男子学生を動員して裏方の力仕事に当たらせている。
設営だけではなく倉庫に運び込んだ荷物の警備もやらせている様だ。
予科の女子生徒も清貧派の令嬢たちをかなり動員して聖霊歌隊に加えている様だ。数曲づつで交代させて謝礼に立見席のチケットを渡している。
午前の部は舞台袖に楽団を入れて音楽演奏をさせていた。…当然教導派がジャンヌの聖霊歌を唄うわけが無いから当然なのだが、プロの楽師と声楽師を雇うとはどれ程金をかけたのか。
午前のショーは儲けをエマ姉がかなり掠め取ってしまったので絶対大赤字だ。
それでも今回は昨年と比べて衣装デザインも変化がみられてただの自慢に終始するばかりでも無かった。
特に絹地のドレスが出るとの前評判もありそれを目当てにした一般客もかなり入っていた。
舞台袖の関係者席から見学させてもらったが、まだまだ保守的でセンスもいまいちだ。王妃殿下や寵妃殿下に献上されたウェストコートを取り入れたデザインが増えているが、まだまだ旧来のきついコルセット付きのドレスが幅を利かせている。
特に教導派聖教会に近い貴族ほどその傾向が強いのだろう。
それでもアントワネット・シェブリ伯爵令嬢は絹をあしらったウェストコートで舞台に上がっていた。一緒に舞台に上がったユリシア・マンスールやクラウディア・ショームの二年の伯爵令嬢二人もウェストコートである。
王家と関わりが強いか弱いかがその境目かもしれない。
貴賓席にはペスカトーレ侯爵家とアラビアータ伯爵家そしてモン・ドール侯爵家の当主格の男性貴族の面々が同じテーブルで何やら深刻そうに話し込んでいたが、悪事を企んでいるようにしか見えないのは私の先入観のせいなのか。
その周辺にはジェノベーゼ伯爵家やシェブリ伯爵家などの教導派大司祭職を務める上級貴族の婦人や令嬢がが集まり、反対側にはフラミンゴ伯爵夫人やシュトレーゼ伯爵夫人やその令嬢たち東部や官僚系の貴族家女性たちが和やかに談笑している。
その真ん中あたりでカブレラス公爵家の面々が優雅にお茶とお菓子に興じているのは御愛嬌だろう。
ただその貴族家の令嬢たちの顔が今一つ浮かないのは折角夏至祭のファッションショーに来れたのに午後の部が見れない事への不満が顔に出ているからだ。
その他の教皇系の教導派の重鎮は全て貴賓席に顔を並べている。
教皇派閥と目される下級貴族も駆り出されている様だ。教導派聖教会に関わっている以上断る事は出来ないのだろう。
生徒家族用のアリーナ席も空席は教皇派閥の大貴族家が買い上げて下級貴族家に転売して穴埋めをさせたそうだ。
そのあおりで在校生の下級貴族令嬢や平民女子が見たくも無い午前の部に無理やり動員されたと憤っている者が多数いた。
そんな中、教皇派閥の重鎮である近衛騎士団のエポワス副団長は午前の部にいたが、メアリー・エポワス伯爵令嬢は午前の部には参加していない。
エヴェレット王女殿下が参加しないイベントに参加する義理は無いと当然のように吹聴して回り、わざわざ来賓用の有料席券を複数買って席を確保してエヴァン王子とエヴェレット王女を招いている。
この女はこういう所はブレないが、こいつの散財を止める奴はいないのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます