第18話 秋のファッションショー(3)

【5】

 礼拝堂の聖霊歌隊コンサートファッションショーはすんなりと許可が降りた。

 夏至祭と同じくポワトー伯爵家が喜捨を募るため主催し、さらにハウザー王室の王女が交換留学の礼にと協賛を申し出ているのだ。

 学校側も横槍は入れにくい。


 当然古参の講師や学長を始めとする上級の管理者陣には苦々しく思っていいる者が多数いるのだが、学校長以外は下級貴族か貴族家の三男四男などの準貴族なので、身分的にカロリーヌに表立って文句を言えないのだ。

 こういうところは教導派の弊害でもあるが、私達としては付け入りやすい所でもある。

 まあその分年寄りたちのヘイトをためているのだが。


 女子寮をを中心に鑑賞用チケットを配布する。

 今回は礼拝堂なので特別席は無しだし、飲食も禁止。

 とは言うものの礼拝堂でも貴賓席はあるので、そこは魚心あればとかいうやつである。

 今回は学生ではなく、侯爵家以上の高位貴族や王族の貴婦人たちを対象にして、学校の礼拝堂に喜捨という形で学校長の許可を得て一般人を入れることに成功した。

 ゴルゴンゾーラ公爵家とロックフォール候爵家は、服飾関係者を同伴する予定だ。

 第一王女の婚家や第二王女、モン・ドール侯爵家やペスカトーレ侯爵家も同様のようだ。

 カブレラス公爵家は少々趣が違うようで奥方や親族の令嬢たちがメイドを連れて大挙して来るようだ。


 ドレスを提供している商会関係者は、協力者枠で特別にチケット配布を行っているのだが、どうも裏で高値で取引されているようだ。

 アドルフィーネに調査させると、渋い顔をして報告にやってきた。

 商人枠のチケットはエマ姉が一元管理しており、そこからの経路は謎…というよりバカバカしくなって調査を投げて報告に戻ってきたのだ。

 フランやオズマも一枚噛んで…噛まされていると行ったほうが正しいだろう。

 真っ直ぐだった少女たちが悪に染められてゆく。

 でも私の力ではエマ姉からあなた達を守れないんだ。ごめんね、非力な子爵令嬢で。


 そして残り枠の後ろの席が男子生徒と予科の学生にも開放された。

 これは身分に関係なく、ショーの準備や手伝いについてくれる人を優先させる事で人数制限をはかったのだが思った以上に人が集まった。

 礼拝堂での活動ということで奉仕ボランティア活動を喜捨として観覧を認める事として、予科の三年生女子と王立学校の男子が参加してくれた。


「おい、そこは椅子を除けてランウェイとかを作るからこの機材はこっちに運ぶ。其の方俺がこちらを持つからそっちを持ち上げてくれんか」

「祭壇の前を隠す幕はもっとフラミンゴ伯爵家が喜捨するから良い物に変更するぞ。これではジャンヌの姿が映えない」

「さあみんないったん休憩してくれ。シュトレーゼ伯爵家から飲み物の差し入れを持って来たぞ!」

「大工仕事は近衛に任せろ。エヴァン殿下、ハンマーはこの様に使うのです」

「おお、イヴァン殿。参考になる。しかしラスカル王国の王族がこんなに聖女殿に協力的だとは思いませんでしたよ」


「聖女ジャンヌの行いは教義に関係なく正しいと俺は思っている。だからそれを後押しする事は為政者となるものの務めだと思っているのだ」

「それでも尊い事だと余は思うのです。聖女ジャンヌが皆に慕われてその行いを認められていると言う事が余は嬉しいのです。ウッウッウッ」

 一部の特権階級の男子生徒たちが少しでも良い席を確保する為ボランティアに余念がないのは良い事だ。

 だがこのハウザーの王子様は何故泣く? 少々涙もろすぎないか?


【6】

 そうこうする内に聖霊歌隊コンサートファッションショー当日を迎えた。

 女子学生の九割以上が参加し、予科の三年生も半数以上が参加している。

 聖霊歌隊が舞台の両サイドで厳かに聖霊歌を歌い始める。

 最初は教皇派閥の上級貴族だ。


 初めの五枠は軋轢を避ける為、教皇派閥の上級貴族に融通した。

 ちゃんと下手に出て、上級貴族のユリシアとクラウディアに学校の食堂で、参加枠を献上させて頂いた。


「あれは下手に出るとは言わないのだわ。慇懃無礼と言うのだわ」

 ファナが呆れた様に言う。

「別にイヤミでも当て擦りでも無いかしら。セイラ・カンボゾーラが言った、高位貴族はドレスを見せびらかす様な無粋な事はしないと言うのは真実なのだから何ら問題ないかしら」

「あの二人の事だからカロリーヌに当たると思うのだわ。その言い分はカロリーヌにも降りかかる事になるのだわ」

「あの娘はそれも加味して言っているかしら。カロリーヌと何やら仕掛けをしているかしら」


 初めの上級貴族五人が出た後に、カロリーヌの登場となった。

 上級貴族で現役の女伯爵カウンテスたるカロリーヌの衣装は生地も豪華で飾りボタンやアクセサリーも高価な物だった。


 一通り舞台を一回りすると両脇から同じようなデザインの衣装を着た平民や下級貴族が現れた。

 同じポワチエ州の生徒たちだ。今年のポワチエ州は新入生は一気に平民生徒を増やしているのだ。

 カロリーヌの生地が高価なリネンを使っているのに対して、下級貴族や平民生徒の衣装は安価な木綿地だ。

「少し贅沢をしたいなら、この様にベストやブレザーを良い物に変える事もお考え下さい」

 そう言うと自分のベストをとなりの下級貴族の上級生と交換する。


 それを合図にオズマが黒子のメイド達を引き連れて一斉にコーディネートの衣装や小物を持って舞台に現れる。

 それ迄色違いだった彼女達の衣装は上着やベストの着替え、そして生徒同士の取り換えによってカラフルなバリエーションが展開されて行く。

「このように色の違った物やアクセサリーを交換する事で違った印象を与える事が出来ます。飾りボタンやスカーフにお金をかけて少し贅沢をしてみるのも楽しいと思います」

 不慣れで緊張しながらではあるがオズマのプレゼンテーションが続く。


 高価な衣装で見栄を張る事や他人とは違う事を強調したがるのが教導派の上級貴族である。

 その最上位貴族が下級貴族と一部ではあるが衣装を取り換えたのだ。更には同じデザインの服を平民に着せていると言う事に会場は衝撃を受けたようだ。

 完全にカロリーヌ・ポワトー女伯爵カウンテスは、庶民の味方、清貧派の庇護者とのイメージは定着してしまった。


「これがセイラ・カンボゾーラの仕込みかしら」

「なかなかやるのだわ。カロリーヌの平民寮での支持は盤石になったようなのだわ。それにオズマはカロリーヌ付きの御用商人としての立場をアピールできた様なのだわ」

「後はジャンヌとエヴェレット王女殿下かしら」


 カロリーヌの後にはジャンヌの登場だ。

 ジャンヌが舞台に登場すると、観覧席の後方でマジックワンドを掲げた一団が一斉に立ち上がった。

 ヨハンのバカたち宮廷魔導士見習いだ。

 ヨハンの掛け声とともにマジックワンドを魔力で光らせて、OADからソイヤでアマテラスと言う流れだろうか。

 何やらジャンヌコールを叫んでいる。


 一着目、二着目と続き、三着目の帰り際に乗馬服に新デザインの革の乗馬スカートを着たエヴェレット王女が登場してジャンヌの手を引いて彼女を退場させる。

 会場から女子生徒たちの歓喜の悲鳴が上がった。

 男子用の乗馬服と革のブーツに男子生徒からも声が上がる。

 エヴェレット王女が舞台袖に向かい、四着目に着替えたジャンヌをエスコートしたて退場すると、会場からは王女殿下と叫ぶ声が幾つも上がった。


 ジャンヌが舞台を回り終える頃に、又エヴェレット王女が舞台に登場する。

 場内は割れんばかりの歓声と悲鳴で騒然となった。

 今度はジャンヌ考案のキュロットスカートに鹿革の乗馬用ブーツ、上着も男性用をアレンジし刺繍や飾りボタンをあしらった乗馬服である。


 舞台袖に引き上げたジャンヌが五度目の衣装替えを終わって舞台に戻ると、エヴェレット王女がジャンヌの手を引いてエスコートしながら舞台を回る。

 いつの間にか王女の足元はブーツからモカシン靴に履き替えられ、膝から下に鹿革のチャップス(乗馬用足カバー)がボタンで取り付けられている。

 さらにショートブーツや膝上まであるチャップスやら、今まで女性があまり着なかった騎士団服にスカートやキュロットを合わせた装いで次々に出入りを繰り返して行く。

 今回のショーは完全にエヴェレット王女のワンマンステージとなり替わってしまった。

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