第17話 秋のファッションショー(2)


「仕方ないですわね。私が頭を下げてあの二人にエントランスの権利を譲って貰いましょう。少々業腹ですがそこまでゴリ押しもしないでしょう」

 カロリーヌが溜息交じりにそう言った。

「それならば僕も口添えしようか。ほら、彼女たちは目立ちたいのだろう。ならばモデルに起用すれば譲ってもらえるんじゃないかい」

 エヴェレット王女も口添えしてくれるなら可能だろう。何人か舞台に上げてやれば納得して手を引いてくれるだろうが…。


「腹立たしいですね。出来ればお二人にそんな事などさせたくない。私が頭を下げに行きます。あの二人が一番泣きっ面を見たいのは私でしょう」

「それならば私もセイラさんと一緒に行きます。私が頭を下げれば教導派の留飲も下がるでしょう」

 ジャンヌも一緒に頭を下げると言ってきた。


「ジャンヌ様やセイラ様にそんな事はさせられません。私がお願いに行ってきます!」

 オズマが勢い込んで話に加わって来た。

「それなら私も参加する流れかしらね。頭を下げても懐は痛まないし」

 エマ姉は止めて欲しい、この人が参加すると相手の神経を逆撫でする事しか言わないだろうから、まとまる話もまとまらなくなる。


「エマさんが行くならば、下級貴族寮も有志を募って上級貴族寮に乗り込もうか」

 フランが腕まくりをしてそう言う。

 そこ迄するとただの殴り込みだ。

「皆さん。落ち着いて下さいな。やはり此処は私が一人で行くのが丸く収まる方法です。一応清貧派の看板みたいな立場ですし身分は平民ですから。カロリーヌ様やエヴェレット王女殿下ではお立場も有りますし」

 ジャンヌが笑顔でみんなにそう言った。


「そんな事無理だよ。ジャンヌ様は聖女で清貧派の柱だから、表沙汰になれば平民寮の学生が激怒するよ。少なくとも毎日礼拝堂に来ている学生たちはそんな事をさせた上級貴族を許さないよ」

 フランが慌ててジャンヌを止める。

 フランの言う通りだ。ジャンヌを行かせれば教導派との大喧嘩になる。行かせた私たちも平民生徒の信用を失う。


「そうだわね。やはり此処は私が行くべきね。ジャンヌさんにはシッカリ礼拝堂を守って…、礼拝堂?」

 そうか! その手が有った。


【4】

「そうだよ、礼拝堂を使いましょう」

 私の発言に一瞬みんな虚を突かれた様こちらを見た。

「良いのかい? 礼拝堂でショーなどを行って。何より礼拝堂とは聖職者の管轄場所だろう。許可など下りるのかね」

 エヴェレット王女が不思議そうに尋ねてきた。


「簡単にご説明いたします。王立学校の大礼拝堂は今ジャンヌさんが毎日、清貧派の講話を行っています。それにカロリーヌ様は毎日清貧派の聖霊歌の喜捨をしているのです」

「ああ、要するに大礼拝堂は清貧派が押さえていると言う事なのかい。しかしよくそんな事が可能になったね。教導派の聖職者が良く許しているものだ」

「許していると言うよりも、怠惰の為に手出しできなくなったのだけですよ。大礼拝堂の管理を平民生徒に押し付けた結果ですよ」

「そうなのかい。まあこの学校の事情も有るのだろうね」


 そうなのだ。

 この学校特有の事情が有るのだ。

 上級貴族寮にも下級貴族寮にも礼拝室がついているのだ。もちろんそこに専属の聖導師か聖導女が一名配属されている。

 そしてその聖導師・聖導女は貴族寮の雑事は、治癒術士を兼ねた修道士・修道女に押し付けて、礼拝室に籠って自堕落に生活している。


 今ジャンヌが使っている礼拝堂は学生全体が使用できる大礼拝堂である。

 名目上はそうなっているが実質は、平民用の礼拝堂だ。

 学生の多くを占める平民を収容する専用礼拝室などを、王室が平民寮に作るはずも無く、学内の大礼拝堂が平民用の礼拝堂となっているのだ。

 そしてその管理は平民寮に丸投げされおり、平民寮の聖職者学生が…まあ実質は治癒術士の修道女や修道士が学生聖職者と共に管理していた。


 平民寮には清貧派修道女が多い上、ジャンヌが入学してからは特にその傾向が強くなった。何より教導派聖職者の庶子たちは礼拝堂の管理などするわけが無い。

 むかしから大礼拝堂は清貧派の聖職者生徒が管理していたのだ。

 更に治癒聖職者はこの一年でジャンヌの指導を受けて、彼女に傾倒している。もう大礼拝堂は清貧派の物と言っても過言ではない。


「でもそれでファッションショーが可能でしょうか」

「オズマちゃん、それは多分大丈夫だと思うわ。今までも学生のコンサートやダンスの発表会でも使っているし、以前アバカスやリバーシ盤の販促会もやった事有るし、なにより毎日聖歌隊のコンサートをやってるしね」

「それならば可能かもしれないですね」

「エマ姉! 聖霊歌隊はコンサートじゃなくてカロリーナ様のご喜捨ですからね」


「エマさん、それは大変ですよ! さっき言ってた入場料が取れなくなります!」

「落ち着いてフランちゃん。ここは何か抜け穴を探して良い方法を…」

「エマ姉! そこは入場料を喜捨しなさい! カロリーヌ様のように見学する生徒から銅貨一枚の喜捨を聖教会に喜捨して貰ったなら学校も文句はつけられないわ」


「そうですね。皆さんにご喜捨頂くのは良い考えですがそのお金はどうするのですか? 喜捨先が問題になりますよ。ヨアンナ様かファナ様に根回しをお願いして両家の聖教会に送りましょうか?」

「それならば聖霊歌隊に又歌って貰いましょうよ。夏至祭のエンディングはとても感動しましたもの」

「レーネさんの案は良いですよ。それならばカロリーナ様も舞台に立てば聖霊歌隊のアピールになりますよ。そうだ! 表向きは聖霊歌隊のコンサートにしましょう。」

 私はここぞとばかりに、カロリーヌを引きずり込む。


「エヴェレット王女様も如何ですか? 舞台に立たれては? そうすれば教皇派の聖職者は文句が言えなくなりますから」

「いいねぇ、使える者は何でも使おうとするその根性。僕で良いなら協力するよ。その代わり乗馬服の新作を頼むよ。革のブーツもね」

「お二人がご協力下さるのなら、ジャンヌさんは礼拝堂の管理者の立場として舞台に立ってくださいね」

「えっ? 待って下さいセイラさん。私などエヴェレット王女殿下やカロリーヌ様とは身分が違います」

「何を言っているんだい。僕の国では聖属性持ちは上級貴族と同等の身分だよ。ラスカル王国でも聖女なのだろう。何も気にする事は無いさ」

「そうですよ。ジャンヌさん、お友達じゃないですか。御一緒致しましょう」


 この二人にお願いされては、さすがのジャンヌも拒否できないようだ。

 モデルは公募すると角が立つので、昨年と同じジャンヌで良いだろう。

 ただ規模も大きくなったので一人では回せない。


 表立って文句が出にくいカロリーヌが、自分の立場を鮮明にする為と言って参加してくれた。

 それにエヴェレット王女も顔繫ぎも併せて舞台に上がってくれると言う。

 いくら聖女でも平民のジャンヌがハウザー王国の王女と学内最高位の女伯爵カウンテスに逆らうのは難しいからね…合掌。


 生徒たちもジャンヌに対しては尊崇の思いも込めて舞台に立つことを望んでいる…エマ姉以外はね。

 最近では教導派の者でも教義に関係なくジャンヌを支持するものも増えている。

 平民寮の生徒は教導派の大司祭の庶子や修道女であっても、虐げられている自覚が有るからだろう。

 何よりジャンヌの分け隔てない人柄に触れていれば、反目する様な事は起こるわけが無い。


 何よりジョン王子たちもジャンヌのファンだ。

 男子生徒の人気も絶大なので、違う意味でジャンヌを敵視する女性貴族は居るのだけれど。

 それを引いてもジャンヌの人気は絶大なので、上級貴族でも安易に反対は出来ないだろう。

 今回は礼拝堂なので男子生徒もやって来る。そちらを捌く事の方が頭の痛い問題である。

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