第16話 秋のファッションショー(1)

【1】

 Aクラスの中での対立はかなり明確になって来た。

 ここには聖教会の二大宗派のトップが居る。清貧派の象徴である聖女ジャンヌと教導派の教皇の孫ジョバンニ・ペスカトーレだ。


 ジャンヌについて清貧派を公言するグループである私たち。

 教導派聖職者や教導騎士団と関係が深いジョバンニの取り巻きの生徒たち。

 そして中間派と言うべきか、ジャンヌのシンパではあるが一応教導派の教義を信奉しているジョン王子たちのグループ。


 そして新たに微妙な立場にあるエヴァン王子たちハウザー王国留学生の四人と言う感じだろう。

 エヴァン王子はジャンヌへの支持を公言しているがジョン王子たちとかなり親しくなったようだ、エヴェレット王女は私たちと意気投合している。

 ただ四人とも表面上は福音派と言う事になっている。

 更にややこしいのは四人を招聘したのが教皇派の教導派聖教会だと言う事だ。


 まあおかげで四人の留学生はトラブルも無く、今は上手く立ち回る事が出来ている。


【2】

 新学年も落ち着きを見せ始めるころに、学校内の女子生徒が騒がしくなってきた。

 冬至祭に向けたファッションショーへの期待が高まっているのだ。

 そこはエマ姉は抜かりが無い。

 今年は昨年より一月近く早い十月の初めにショーを設定し、下級貴族寮のエントランスホールと食堂、それにお茶会室も全部抑える為にエマ姉たちが動き出した矢先に、予想外の事態が起こった。


 ユリシア・マンスール伯爵令嬢とクラウディア・ショーム伯爵令嬢は、昨年と同じ様にファッションショーを開催するとあたりを付けて、十月中の下級貴族寮のエントランスホールを全て抑えていたのだ。

 もちろん私たちへの嫌がらせの為にである。

 どうも今年は去年の反省から上級貴族寮でのファッションショーを秋にぶつけてくるつもりだった様で、私たちのファッションショーを潰しにかかって来たのだ。


 夏至祭と卒業舞踏会で私たちの企画への期待が高まっている今、ショーの中止は考えられない。

 しかもやって来る来場者は昨年の比ではないはずだ。

 そもそも当日は下級貴族寮のエントランスや食堂だけでなく、お茶会室も購買スペースや厨房まで全て押さえる予定だったのだ。

 外部の人間が入れる厨房スペースに服飾関係者を入れる予定迄組んでいたのだ。


 上級貴族寮では今年の新年と同じ様なファッションショーをこの秋に実施すると告知している。

 彼女たちのやる事は変わらない。私たちとはそもそものコンセプトが違うのだから。

 自分の一点物を誇りたい上級貴族に対して、私たちはレディーメイドやセミオーダーを中心とした企画がメインなのだから。


 そういう事で夏至祭と卒業舞踏会の余波を引きずるこの時期、生徒たちの私たちに対する期待は尋常ではない。

「そもそも一カ月間もの間エントランスを占有するなんて許されるのですか!」

「どうせ、上級貴族寮は平民は入れ無いじゃないですか! 平民寮の皆があんなに楽しみにしているのに!」

 ロレインもマリオンも憤懣やるかたない気持ちで一杯である。

「衣装自慢をする為じゃなくて、皆の着れる素敵なドレスを広めたいのよ! モンブリゾン商店もレディーメイド品の販売を始めて、東部の売り上げも凄く伸びていると言うのに!」

 どうもフランはエマ姉にかなり毒されてきたみたいだ。


「食堂とお茶会室だけでは去年の人数も入らないですね。夏至祭の様に騎士団の訓練場を…、学校行事でも無いのでそれも難しいですね」

 レーネも冷静に状況を分析するが良い案はわかないようだ。

「セイラ、何か良い案は思いつかないかい。私たちの様な貧乏男爵家にとってはレディーメイド品のドレスは貴族としての体面が保てて金銭的負担も少ないので助かるんだよ」

 マリオンに話を振られるがそう簡単に思いつくわけでも無い。

「エマ姉やジャンヌさんを交えて相談する事にしましょう。最悪の場合はヨアンナ様かファナ様に泣きついてお屋敷を借りる事も視野に入れて…」


【3】

 下級貴族寮のお茶会室で、エマ姉とジャンヌそれにオズマも交えて相談会を開いた。

 ヨアンナとファナからは案が出なければ、お屋敷の聖教会を貸してくれると言う了解を貰った。

 そして昨年は参加しなかったので参考にとカロリーヌが、そして興味津々の様子でエヴェレット王女がお茶会に参加している。


「レディーメイド品の販売やセミオーダーの受付は下級貴族寮のお茶会室に移して対処できるわ。条件によってショーの翌日に販売でも構わないから、お茶会室は押さえておきましょう。リオニー早速お願いするわ」

「エマさん、そう思って予約はいれています。最悪、今年の冬みたいに展示と販売だけに変更するとかどうですか?」

「それは無理ね。みんなの期待が大きすぎるもの」


「そもそも聖教会でファッションショーなんて開いて大丈夫なのかしら?」

「別に構わないんじゃない? 聖霊歌隊の歌の喜捨みたいなものじゃないの」

 私の質問にシレッと答えるエマ姉。


「エマさん、ゴルゴンゾーラ公爵様の別邸の聖教会をお借りするのは良い案かなと思うんですけれど。あそこならば一般の市民の方々も入れて話題になるのでは?」

「フランちゃん、それはダメよ。一般客から入場料が取れないもの。入場料が全部聖教会への喜捨になってしまうわ」

「…うっ、それは少し腹立たしいですね」

 いや、別にファッションショーで金をとるなよ! チャリティーショーでも良いじゃないか。ファッションショーの喜捨で良いんじゃないのか?


「ショーをすること自体は問題ないと思うのですよ。ほら、学校の礼拝堂でも平民学生の音楽の発表会や、学術成果の発表会などで使っていますし、アバカスやリバーシ盤の販売でエマさんもライトスミス商会を呼んだ事が有るじゃないですか」

 あ、以前エマ姉が聖教会工房の製品紹介だとか言ってそんな事をやってたな。

「一番の問題はゴルゴンゾーラ公爵家もロックフォール侯爵家も別邸の位置が遠すぎます。それに校外に出てしまえば学生の行事だと学校が認めてくれないでしょう。お茶会室での販売も止められるかもしれません」

 ジャンヌが聖教会を使う事への問題点を話した。


 ジャンヌの言う通り校外での催しとなると、校内から生徒を出させないかもしれない。

 やはり学内での開催は必須だろう。

 かと言って夏至祭の時の様に訓練場や校舎の食堂や大講堂の借り上げを申請してみたが、学校行事では無いと言う事で許可が出なかった。


「ガーデンテラスはどうでしょうか? あそこならお茶会室に準じた扱いですし、スペースも有って男子や一般人も入れるので、被服関係者の参加も可能でしょう」

 レーネの意見を聞いてなるほどと思ったがエマ姉から反論が示された。


「案としては良いのだけれど、雨が降ると実施できないわ。それで無くても屋外でドレスの試着は抵抗が有るし、モデルの控室も無いわ」

「そうですね。屋外で着替える事は出来ませんしね」

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