第13話 清貧派女子集会(2)
【3】
会場になるお茶会室にはヨアンナもファナも既に到着していた。
最上位の二人の令嬢が部屋に入っているのだ。
当然、上級貴族寮の他の令嬢たちも同行している。…カロリーヌ・ポワトー
それに気づいて入ってきた下級貴族寮の二年生・新入生たちに加え平民寮からもかなりの数の二年生が新入生を連れてやってきている。
その部屋の扉を開いて私が入室する。
「王女殿下が見えられました」
そう言ってエヴェレット王女に入室を促すと、ヨアンナを始めとした上級貴族全員が立ち上がった。
それに続いて下級貴族も起立すると、慌てて平民寮の少女たちも立ち上がった。
エヴェレット王女がド・ヌール夫人とナデタを従えて入室すると、カロリーヌ以外のヨアンナたち貴族は最敬礼で頭を下げた。
カロリーヌだけは深々とカーテシーをしている。
その様子を見て平民寮の娘たちが慌てて深々と頭を下げた。
ヨアンナとファナとカロリーヌがエヴェレット王女の権威付けの為にお膳立てしたのだが、効果は絶大だったようだ。
いきなり入ってきた獣人属の少女に公爵令嬢や現役
「堅苦しい挨拶は抜きにしよう。僕もラスカル王国での宮廷作法には詳しくない。お互いに不作法が有っても気づかない事も有るので、気軽に話しかけてもらった方が助かるのだよ。さあ、席に着いてくれたまえ」
エヴェレット王女の気さくな言葉に、新入生や下級貴族、平民層の緊張が緩む。
エヴェレット王女が上座に座ると同時に、上級貴族たちが着席するのに続いて下級貴族や平民少女たちも席に座り始めた。
下級貴族や平民の娘たちや新入生からザワザワと話し声が聞こえている。
「急な事で事情をよく知らないものが多いと思う。僕はハウザー王国第一王女、エヴェレット・サンペドロ・ウィリアムズと言う。今年度から留学生としてこの学校に世話になる事になった。以後見知り置きを頼む。ちなみに大貴族寮のカロリーヌ殿の向かい、ヨアンナ殿とファナ殿は隣同士の部屋だ。機会が有れば遊びに来て欲しい」
その上エヴェレット王女は黒のタイトなスカートを穿いているものの、上着は男性物の乗馬服で、髪も後ろで小さくまとめている。
椅子に腰を掛けると胸元から上のシルエットはまさに美少年だ。
一部の女子からもう熱い視線が注がれているのが判る。
それとは別にカロリーヌに胡乱な目を向ける者もかなり居る。
昨年のクロエ誘拐未遂事件は皆の知るところであるが、その裏で起こった
老獪な教導派枢機卿の孫娘がなぜ清貧派の集まりの、それも最前列に座っているのか?
長らく清貧派として教導派と反目していた南部のジャンヌのシンパは、当然不審に思う者は多いだろう。
何よりまだこの席にジャンヌが来ていない事に付いて不安げな様子の者もいる。
「あのー、セイラ様。ジャンヌ様は何故お見えになっていないのでしょう?」
アヴァロン州出身の平民の四人組の一人、ステラが入学時から親しい私に聞いてきた。
「お昼の講話が時間がかかったようなのよ。もうすぐ来ると思うから」
「ねえ、セイラ様。あの
「それに教導派の大司祭の娘でしょう。セイラ様の事件に関わって脅迫した奴らじゃないのですか?」
ミラとキャロルも話に入ってくる。
「しっ! あまり大きな声を出してはダメ。ポワトー枢機卿は私とジャンヌ様とで命を繋いでいるの。だから息子の大司祭は…ねっ、解るでしょう。それにカロリーヌさんがなぜ
「あら、まあ、うふふ。ポワトー伯爵家は評判の悪いカロリーヌ様の兄上がいらっしゃったと思ったのですが、そう言う訳ですのね。セイラ様これも秘密なのですか?」
リーダー格のケイが楽しそうに笑う。
「まあ、公然の秘密ね。聖教会関係者や上位貴族はみんな知っているけれど」
「ならば、皆さん。ここだけの秘密ですわよ」
またこの話も尾ひれがついて広がって行くのだろう。
そんな話をしているうちにドアが開かれて、ワラワラと幾人かの女子が入ってきた。
ジャンヌとオズマ、その後にエマ姉と幾人かの平民寮の少女たちがついて来ている。
ジャンヌは入るなり上座のエヴェレット王女を見つけて深々と頭を下げた。
「エヴェレット王女殿下、はじめてお目にかかります。ジャンヌ・スティルトンと申します」
「こちらこそだよ。あなたの噂は色々と聞いているよ。サンペドロ州に聖教会教室や工房を作ってくれたことも、ハウザー王国からの脱走農奴を庇護してくれている事も聞いているのでぜひ会いたいと思っていたんだ」
エヴェレット王女はそう言うと、立ち上がって扉のそばまで歩いて来てジャンヌの手を取った。
芝居がかったやり方だがとても効果的だ。
ジャンヌもその言葉を聞いて驚いたように顔を上げる。そして王女殿下の顔を見て硬直したように笑顔が固まってしまった。
まあ、王女と聞いていたのに服装も髪型も容姿もオスカル様な姿を見ればそうなるのは理解できるよ。
そんな宝塚の男役トップスターのような王女様が、ジャンヌの庇護者の一人として名乗りをあげたとみんな感じたようだ。
これで清貧派女子の支持は取り付けることができただろう。
ジャンヌのことは歓迎会まで知らなかったはずなのにこの会話が出来るとは、この王女様侮れない。
「エーッと、王子様とは以前お会いしたのですが、よく似ていらっしゃいますね」
「おお、エマ・シュナイダー殿だな。兄上からは聞いているよ。綿花貿易の…」
「王女様! 色々と貿易ではお世話になっていますわ。イエイエイエ、何もおっしゃらなくて構いませんわ。私どもに出来る事が有れば、何でもおっしゃってください。お力になりますわ」
あれ、エマ姉が焦っている。
「そっ、そうなのか? それで僕的には新しい服が欲しいな。簡単に馬に乗れて騎士の訓練も出来るような」
「それも善処しますわ。秋のファッションショーに間に合わせましょう。その代わりモデル役をお願い致しますわ」
「ああ、もちろん。それ位なら協力しよう」
「王女様が着れば、ハウザー王国内でもきっと流行ると思うわ。販路の紹介もお願いできますかしら」
「もちろん、それ位の口利きならば…」
「お二人とも、金儲けのお話は自重してください!」
話を引き戻そうと会話に割って入ったが、他の娘たちが食いついてきてしまった。
「エマ様! 今のお話ならば今年も秋のファッションショーは開かれるのですね」
「楽しみです。今年の秋はレディーメイドも沢山出るのでしょう」
「わたし、故郷の姉や親類からも新作を頼まれておりますの。是非開催をお願いします」
「今年はオーブラック商会からも北海の向こうの国から輸入した革製品も入って来るのよ。冬物にはうって付けの素材だわ。さあオズマちゃん頑張ってご紹介しなければ」
エマ姉に促されてオズマが緊張した面持ちながらも前に出てきた。
「オーブラック商会のオズマ・ランドッグと申します。王女殿下に置かれては…」
「堅苦しい挨拶は抜きだよ。良い革が手に入ると言ったね。ならば革のブーツや乗馬服など良い物が出来ないかな。このスカートや刺繍の入った布靴などでは、馬に乗れないのだよ」
「そうね。履物も服に合わせてみるべきかもしれないわ」
「スカートで馬に乗る方がいるのですか?」
ジャンヌが不思議そうに問い掛けた。
「ああ、スカートならば横乗りになるので、馬で飛ばせないのだ」
「ならばキュロットにすれば跨げるのでは…」
ああ、そうかキュロットスカートなら跨げるし女の子らしいなあ。
その言葉に又エマ姉の目が光って、ジャンヌをロックオンしている。これはもう逃げられないだろう。
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