第6話 ハウザー王国留学生

【1】

 ハウザー王国からの留学生はゴッダードでゴーダー子爵家とロックフォール侯爵家から歓待を受けたのち、河船でクオーネに向かいゴルゴンゾーラ公爵家に滞在して王都入りの準備を整えた。

 ここでナデタとカタリナ、それにパブロが合流しアドルフィーネも一緒に王都に向かうと連絡が来た。


 ハウザー王国出身の一行は全部で七人、ファナタウンでフットマンが二人、さらにクオーネで三人が加わり、この王都でも三人が加わるので全部で十三人、ヴェロニクを入れると十六人というという大所帯だ。


 二日後王都に到着した一行はロックフォール侯爵家の別邸に迎え入れられて、私たちと初めて顔合わせを行った。

 ロックフォール侯爵家主催で王立学校の貴族子女を集めたティーパーティーである。

 身内だけのお披露目と謳っているが、教導派の大貴族子女もかなり来ている。

 教皇派の大貴族の主だったところが顔を連ねて居るのは私としては違和感が有る。


 王子と王女が並び、その両横に二人の留学生が並ぶ。

 四人が四人とも騎士の礼装に佩剣しているのは御愛嬌と言うものだろうか。

 その両翼にはジョン王子と愉快な仲間たちが右翼に、因みにヨアンナとファナはジョン王子とイアンの隣りに座っている。


 左翼にはジョバンニ・ペスカトーレがユリシアとクラウディアの両伯爵令嬢に加えて、アントワネット・シェブリ伯爵令嬢も連れて並んでいる。更にマルコ・モン・ドール侯爵令息やメアリー・エポワス伯爵令嬢も座っている。

 そして、左翼の一番上座はカトリーヌ・ポワトー女伯爵カウンテスだ。

 実際は兎も角、教導派枢機卿の孫で正式な爵位貴族である。アントワネットがカロリーヌに射殺すような視線を送っている。

 本来は左翼の末席に座る予定だったマルケル・マリナーラがエレノア王女と共にハウザー王国に旅立った事がその場で告げられた。


 そして私の様な下級貴族は来賓席のヨアンナたちの後ろでモブに徹していた。

 ヨアンナからアヴァロン商事からの派遣という名目でルイスとパウロが紹介された。

 さらにクオーネ大聖堂のパーセル枢機卿からの推薦という名目でピエール修道士が挨拶を行う。

 招かれている清貧派の貴族子女の眼の色が変わる。…いや、何故カタリナ修道女がピエールにロックオンしてるんだよ!


 王子は獅子系の長い白い髪が特徴だが、王女の白と黒のツートンの髪はサンペドロ辺境伯の血だろう。

 ただ顔は二人ともよく似ている。

 二人とも騎士ではあるが、その容姿はどちらかといえば華奢でとても整った顔をしている。

 強いて言えばエヴァン王子は温和そう、エヴェレット王女は勝気そうな瞳が印象的ではある。


 そして随員の留学生が後二人。

 エズラ・ブルックス伯爵令息とエライジャ・クレイグ伯爵令息だ。

 どちらも伯爵家の長男だという。

 二人とも騎士だと言うのにのんびりとした、危機感のない顔をしている。

 ブルックス伯爵令息は青い大きな耳が特徴のコアラ? 獣人である。


 グレイグ伯爵令息は鳥獣人で、ハウザー王国では唯一の鳥獣人系での高位貴族という事である。

 鳥獣人への差別意識の根強いハウザー王国では、かなり微妙な立場の貴族だと聞いたが、当人はのほほんとした顔で微笑んでいる。

 ツバメ系の鳥獣人だそうで、黒い羽根を頭にはやした赤い頬が印象的な騎士だ。


 それよりも気になるのはフレップ・オーディンという名前の狐獣人のサーヴァントである。

 赤いモヒカンヘアーの小狡そうな男である。

 常に落ち着きなくキョロキョロと回りを窺って、エヴァン王子とテーブルや他の参加者の間を行ったり着たりと忙しない。


 落ち着いて王子と王女の後ろでティーセットやプティ・フールの盆を持って佇んでいる、パブロやナデタと比べるとその技量は格段に見劣りする。

「それは身内贔屓もかなり入っているかしら。貴族の子弟あがりのサーヴァントならあの程度でも及第点かしら」

 フレップを見ながらせせら笑っている私にヨアンナが釘を刺してくる。


 一年ほど気の抜けた行儀見習いを済ませただけで、送り込まれてきたのだろう。

 使用人としての技量が有ろうが無かろうが、王子に危害を加える可能性が高いのなら排除する以外に方法はない。

 パブロにはしっかりと王子に張り付いていて貰おう。


 もう一人がブル・ブラントンと言う名前の護衛騎士、冷酷そうな蒼い目に金色の角を持つ野牛獣人の男だ。

 こちらに関しては、ヴェロニクが近衛騎士団と交渉し、第四中隊の中隊宿舎に部屋を確保している。

 そもそもケインが入る予定の部屋が、突然の聖堂騎士への移籍で空室になっていた部屋だ。


 その部屋に強引に入居してしまったのだ。

 その上でブラントンに対して、”自分がここまで譲歩して近衛騎士団寮に居住したのだから、男のお前はさらに譲歩するべきではないか”と。

 勝手の判っていないブラントンはヴェロニクに押し切られ、王立学校の騎士の常住が不可能だと思い込むとともに、交渉の方法も分からない為ヴェロニカによって宛がわれた第四中隊の寮の片隅に新兵と一緒に入居する事になっている。


 そして一人ハウザー王国のサンペドロ辺境伯家がエヴェレット王女に付けた、ド・ヌール夫人という人属の寡婦の家庭教師ガヴァネスがいた。

 中年の女性でラスカル王国での宮廷作法もちゃんと心得ている様だ。

 ヴェロニクの話ではもともとラスカル王国の没落貴族の出身で、事情は分からないが十数年前にハウザー王国に流れてきたという。


 教養も有り礼儀作法もシッカリしている事から十三年前にサンペドロ辺境伯家に雇われて、メイドをしながら辺境伯家の子女に一般教養の指導もしていたそうだ。

 ヴェロニクも聖年式後に彼女から一般教養の講義を受けたという。

 なにか上品そうで静かな女性であるが、メイドとしても洗礼された控えめな佇まいの女性だ。


 私の身の回りのメイド達にもあの控えめさは見習って貰いたいものだ。

「それは、どんな主人かに因るのですよ。そもそも主人が短気で傍若無人な方ならば、メイドもそれに合わせた対応を取らなければ務まりませんから。どなたかが言ってらしたのですよ。主人がメイドを作るって」

 アドルフィーネが私の耳元でそう呟く。

 …どなたかって、ああ、言いましたとも私がマリオンにそう言いましたとも。


「でも、あそこにいるド・ヌール夫人もヴェロニクの家庭教師ガヴァネスだったのでしょう」

「あの方は、ずっと辺境伯夫人のメイドで、ヴェロニク様には一般教養の教師をしていただけだそうです」

「片手落ちね。あの虎女には宮廷作法もシッカリと叩き込んで貰いたかったものね」

「ええ、セイラ様には他人からそんな事を言われない為にも、私がしっかりとご指導いたしましょう。クロエ様にメイドが主人を作ると仰ったお方がいらっしゃったそうですから」

 私はなぜ一々あちらこちらでいらぬ事を言って回っていたのだろう。


「今年度からはラスカルの王族に加えてハウザーの王族迄同級生として一緒に学ぶ事になるのですから、宮廷作法を疎かにすると国の恥になるのですよ」

 アドルフィーネの小言が続く。

 どうせ二人ともAクラスで同級生になるのだろう、攻略対象五人にも手を焼いているのに更に二人も他国の王族が入学するなんて…!


 エッ? こんな奴ら知らないぞ! ゲームにハウザーの王族なんて…。

 一体どういう事なんだ?

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