第78話 ポワトー兄妹

【1】

 以外にもカール・ポワトーは翌日の会談をキャンセルしなかった。

 ただし条件も付いている。

 ウィキンズを連れてこない事。

 理由はどうあれ同級生だったマルカム・ライオルを死に至らしめたウィキンズとは顔を合わせたくない。

 感情的になりケンカになる可能性が多分に有るからというのだ。

 その妹のカロリーヌ・ポワトー伯爵令嬢から丁寧な返事をもらったのだ。


 ポワトー伯爵家はこの件にどこまで関与しているのか判らないが、どうもカロリーヌは蚊帳の外のようだ。

 レーネ・サレール子爵令嬢の説明ではポワトー伯爵家のような聖職者の家系は女子の扱いは良くない。能力の有る子供は養子として引き取られるが多くは男子である。

 養子の殆んどは聖職者になるが、女子は聖職者の妊娠はスキャンダルになるので子が作れない。

 他家に嫁いでも養女なので家を出たとたんに相続権を失い実家への影響力が無くなるので正妻として迎える家は少ない。

 結局は関係する貴族の愛人に送り込まれるかそのまま修道女として一生聖職者で終わるかが殆んどだ。


 カロリーヌも伯爵令嬢としてどこかの貴族に嫁がされるのだろうが、何か結果を示せば場合により正妻として嫁ぐこともできる。

 Aクラスに在籍しその上で何か結果をと考えている様だ。その為ジョバンニにベッタリのユリシアやクラウディアとは距離を置いており、ジャンヌや私にも時折話しかけてくる。

 特に一昨日の誘拐未遂事件から私に対する接触が一気に増えている。


「私も事件が片付いてしまってからの面会の約束でしたので反故にしていただいても困る事は御座いません。ただお時間を割いて頂いていたのでお詫びだけでもと思っていた次第ですので」

「そんな。大切な従姉が襲われてご心労もあると言うのにご挨拶を頂いたのですから、兄に否やは申させませんわ。何より兄の我儘迄聞いて頂いているのですから。それで無くても光の聖女様にはお祖父様がお世話になっていると言うのに」


 その会話を聞いていたレーネが私の護衛代わりにレオナルドとウォーレンの二人をつけて貰える様にカロリーヌに確約を貰った。

「セイラ様、もう開き直りなさい。今更何を言い繕っても聖属性の事は隠せないのですから」

 そう言いながらグイグイと話をつめて行く。


「カロリーヌ様は御一緒いただけないのですか? そうしていただければ私も心強いのですが」

 話の流れがどうなるか判らないがカロリーヌを引き込めばこちらに有利に運べるかもしれない。

「ゴメンなさい。兄は…我が家の男たちはこういう交渉の場に女性が入る事を好まないので」

 するとレーネがカロリーヌに新しい提案をする。

「そうですわカロリーヌ様。そのお話にジャンヌ様もご一緒していただくのはどうでしょう? 女性のセイラ様だけでは男性の騎士様相手に委縮してしまいますわ」


「それは良いですねえ。ジャンヌ様、我が家も聖職者の家系ですから是非ともお顔繋ぎが出来ればこれほどうれしい事は御座いませんわ。ねえ、ジャンヌ様私からもお願い致します。是非セイラ様にご一緒していただけないでしょうか。お優しいジャンヌ様が居らっしゃればセイラ様の歯止め…ゲフン。セイラ様もお心強いと思いますわ」

 カロリーヌ! 本音が漏れたな。


「ええカロリーヌ様。私で宜しければそう致しますが、私の様な平民風情で宜しいのですか?」

 ジャンヌの返事に満面の笑みを浮かべてカロリーヌが応える。

「もちろんですわ。本当の聖女様にご一緒していただければ光栄で御座います。の暴走でジャンヌ様にご迷惑をお掛けしている事もは心苦しく思っておりましたの」

 カロリーヌはジャンヌも味方につけてシェブリ伯爵家を牽制したいようだ。


 敵の敵は味方。利害が一致するなら少しの間はポワトー伯爵家の悪行も目をつぶってやってもいい、今回だけならば。


【2】

 昼食の時間、私はヨアンナとレーネそして王都騎士団のレオナルドとウォーレンに加えカミユ・カンタル子爵令嬢の六人でテーブルを囲んでいた。

 本当ならファナも居るべきなのだが、彼女は厨房で食事をしても学内の食堂では昼食を取らない。不味いからという理由で。

「本当にあの娘は自分の専属料理人以外信用していないのかしら」

 そう言いつつヨアンナがお茶を飲む。


 ジャンヌとエマ姉はロレインやマリオンやフランと共に離れたテーブルで食事をしている。そしていつもの様にジョン王子を筆頭に上級貴族の男子共が群がっている。

 ジャンヌにはこちらのテーブルに居て欲しかったのだが、そうすると漏れなく男子共が着いて来るので虫除け代わりに離れて貰った。


「ああそれでウィキンズは寮に放り込んできた来たから。あいつが食堂に来ると大混乱になるからなあ」

「今朝も騎士団寮から講義室迄女生徒の行列が出来ていたんだから。おまけに講義室の入り口でクロエ様が待っているものだから廊下が通れなくなっちまったんだ」

 レオナルドとウォーレンの愚痴を無視してカミユが話始める。


「ゴルゴンゾーラ公爵邸で聴取していただいたケイン様の調書です。それによるとヴァイザーの女が全てを仕切っていたリーダーの様ですね。ただカーニヴァルマスクの男もかなり主導的な役割をおっているようですわ」

「その二人何者なのかしら」

「リカルドと言う子供が一年半前にアントワネットが起こしたクロエへの嫌がらせの依頼をヴァイザーの女から依頼されているので、アントワネットと近しい人物だと思います」

「ヴァイザーの女を抑えられればアントワネットのシッポも掴めそうなのだけれど」

「セイラ・カンボゾーラ、あなたはいつも早急すぎるかしら。今はカール・ポワトーの事に集中すべきかしら」


「カール・ポワトーはどこまで情報を掴んでいるのかしら?」

「私はケイン様暗殺の計画にはカール・ポワトーが一枚噛んでいると思っています」

 ヨアンナの疑問にカミユが言い切る。

「在学中のマルカム・ライオルの後ろで色々と画策しておりましたから」


「そんな人がマルカム・ライオル様の暗殺を考えるのでしょうか?」

「そんな人だから考えるのですわ。在学中もマルカムを使って色々と清貧派の下級貴族や平民生徒に嫌がらせをしていたようですから」

 レーネの疑問に答える言葉を聞いていると、カミユはカール・ポワトーには非常に悪い印象を持ている様だ。

「ああ、陰でマルカムをけしかけていたのはポワトーだ。特に実践訓練では近衛の第七中隊を使って過剰な戦闘訓練をさせられたりしたからな。王都騎士団の団員で奴を良く言う者はいねえよ」

 吐き捨てるように言うウォーレンにレオナルドも頷いた。


「そういう事も有ってウィキンズ様には会いたくなかったのでしょう」

「ならば、なぜ今日の会談を承諾したのでしょう? 私と会って何をしたいんでしょね?」

「貴女は自分の価値を気付かなさすぎるのかかしら。貴女の本性を知らない上級生の上級貴族や卒業生には取り込みやすい光の聖女と思われているのかしら。何よりポワトー伯爵家にとって貴女は枢機卿の命の綱なのだから不当に扱える相手ではなのでわ無いかしら」


「私とジャンヌさんと言う二枚看板が揃って来れば拒否するなどあり得ないという事でしょうかね」

「そうね。それに何か隠し玉も放り込んでみようかしら」

 ヨアンナは不敵に笑った。

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