第51話 昼食会?

【1】

 入学して半年が来て一年も私たちの行動の影響が明確に出始めている。

 特に平民寮での影響が顕著だ。

 最上級生に第一王子が居る。そのため彼の取り巻きに集まった教導派の大貴族がほぼ平民や下級貴族を抑えている状態が長く続いていた。


 ここ数年力を付けて来たロックフォール侯爵家や先々代国王の血を引くゴルゴンゾーラ公爵家の反宮廷派も旗頭が居ない事から大きな動きが出来なかった事も有る。

 しかし今年の新入生は聖女ジャンヌ・スティルトンと言う目立つ神輿が存在する。

 そしてその後ろ盾にヨアンナとファナと言うゴルゴンゾーラ公爵家とロックフォール侯爵家の令嬢が睨みを利かせている。


 そして一番目立っているのが大の教導派嫌いであからさまにペスカトーレ侯爵家に喧嘩を売っている某子爵令嬢らしい。

 …解っているわよ! 私だよ!

 ジョバンニを殴ったという一件は、今や尾ひれがついて学校内に知れ渡っている。

 おまけに取り巻きの上級貴族を血祭りにあげたとか入学前に下級貴族寮の宮廷貴族に殴り込みをかけただとか。


 その上王都でもが掛かり始めた。まだ三座だけだが庶民の間で大盛況の様ですぐに他の芝居も始まるだろう。

 リール州やアヴァロン州を中心とする北部や北西部の平民の生徒たちがセイラのモデルは私だとふれ回っている。

 その結果私に逆らうとライオル伯爵家の二の舞になるというあらぬ噂まで流れてしまった。

 どうもヨアンナとファナの思惑通りに踊らされている感が強くて腹立たしい。


【2】

 ロレインたちと昼食のテーブルを囲んでいるとアントワネット・シェブリがやって来た。

「ごきげんよう、セイラ・カンボゾーラ様。昼食をご一緒させていただきますわ」

 有無を言わさない命令口調ではあるが拒否するのも大人げない。

 私が頷くとアントワネットの後ろに控えていた取り巻きの令嬢がトレイを持ってきた。


「貴女たちは邪魔ね。おどきなさい」

 同じテーブルに居たロレインたちに移動を命じた。

 抗議しようとする私をロレインとジャンヌが押し留めて黙ってみんながトレイを持って立ち上がって空いたテーブルに移っていった。


「貴女は相変わらずのようだけれど取り巻きは良く心得ているようね。いつもジャンヌを侍らせて清貧派の重鎮気取りなのかしら」

「嫌みを仰るためにここに来られたのですか」

「いいえ、私はそんなに暇では無いわ。でも貴女の顔を見ると嫌味の一言二言は言ってやらなければ気が収まらないの」

 そう言うと取り巻きにトレイを置かせて私の正面に腰を下ろした、二人の取り巻き令嬢を後ろに侍らせたままで。


「気にしなくても良いのよ。この娘達は一昨年まで我が家に行儀見習いに入っていたのでこういう事は心得ているの。その辺りのケダモノどもとは出来が違うのよ」

 こういう発想を平気で出来る教導派貴族には反吐が出そうだ。

 行儀見習いは使用人ではない。それに過去はともかく今は同級生だ。それをメイド同然で平然と使うのもそれを甘んじて受けている二人にも腹が立つ。


「それで私に何か忠告でもおありなんでしょうか」

「あら、隣の領地の者として貴女とお食事を共にしたいと言ったのに何かご不満でも?」

 私は鼻で笑って答えを返す。

「それは光栄ですが私は腹芸が出来ないもので、出来れば単刀直入に仰っていただきたいのですが」


「貴女は…その様ですわね。ならこれを御覧なさい」

 そう言うとアントワネットは私の前に一枚の手紙を放り出した。

「これは…?」

「読めばわかるわ」


 私は封を開いて読み始める。

「こっ…これは」

 マルカム・ライオルからの手紙であった。

 爵位を剥奪された事に対する怨み辛みが書き殴られており、カマンベール家シェブリ家に対する怨嗟の言葉が連ねられていた。

 自領の一部を掠め取ったとしてカンボゾーラ家に対しても罵りの言葉が躍っている。


 しかし問題はその後の内容だ。

 何処から情報を得たのか知らないが例の金鉱山の事が書かれている。 

 ライオル伯爵家の物である金鉱山をシェブリ伯爵家が奪い取った、カマンベールと結託してライオルを陥れた。

 カマンベールと金鉱山を盗もうとしている。

 金鉱山はライオルの物で正当な後継者であるマルカム・ライオルが本来得るべき物なのだから必ずや取り返す。

 その様な世迷いごとが書き連ねたあった。


「狂人の妄言ですわ。このような手紙を私の下に送り付けて来て、全く以って迷惑この上ありませんわね」

「それで私にどうしろと?」

「別に。ただ私に送り付けられていると言う事はクロエ様にも同様の手紙が送られているのではと思っただけですわ」


「そもそもライオル元伯爵家はシェブリ伯爵様の忠犬では無かったのですか。没落してもハーネスは握って頂かないと私共も迷惑です」

「人を噛む犬は放し飼いにしておけませんからね。貴女が殺処分なさったのですから我が家の責任ではありませんわ。火の粉は払わせていただきますがそれが何処に飛び火しようがそれは私の責任では御座いませんわよ。そこはご理解して下さいませ」


 金鉱山の経緯をどこまで勘づいているのか解らないが、マルカム・ライオルの暴走を気にしている所を見ると期待はしているのだろう。

「金鉱山の権利は全てシェブリ伯爵家に委ねておりますからそこは冷静に対応して戴きたいものですわね」

「貴女こそ運河の開通が領内の利益に通じるのでは無くて? クオーネ迄通じなければ通商も儘ならないのでは無いかしら」

「それを仰るなら陸路での鉱石の移動は大変ではありませんか」

 私たちは暫く睨みあっていた。

 この女の魂胆は見えて来た。運河の開通を質にとって私たちにマルカム・ライオルの相手をさせる心算だ。マルカム・ライオルの怨みを私やクロエに向けさせようとしている。


「別にあなたの同意を得るつもりも有りませんがご忠告は致しましたわ。この件でシェブリ伯爵家に苦情を申し立てられるのも心外ですのでね」

 それだけ言うと立ち上がって席を立とうとした。

「あら、昼食をご一緒にと言う事では御座いませんでしたか?」

「御冗談を。学内食堂の料理など食べられたものではありませんわ。あとはお好きになさいませ」

 それだけ言うとサッサと帰って行った。

 ここ最近いつも嬉々としてジャンヌとそのメニューを食べているイアン・フラミンゴに謝れ!


 その後エマ姉がやってきてアントワネットのトレイを持って男子学生の方に去って行った。

 しばらくしてにこやかに銀貨を数枚持って帰って来たが何がどう成ったのかは聞きたくない。

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