第7話 後片付け
【1】
お茶会も和やかに終わり、次の約束も出来て、ジャンヌとはだいぶ打ち解けられたと思う。
四人部屋なので机とチェストは欲しいがスペースが無いと言っていたので、クロエがライティングビュローの贈呈を提案した。
ジャンヌが固辞するので私が間に入り、安く融通すると言う事で話を納めた。化粧飾りは私とお揃いにすると言うととても喜んでくれた。
私にとっては初めての同級生で友人になる。…ヨアンナがいるけれどあれはどちらかといえばビジネスパートナーだ。
出来ればジャンヌを通して平民寮にネットワークを作りたい。
ジャンヌはとてもセイラ・ライトスミスの事を気にしていた。
それはそうだろう。直接の交流は手紙のやり取りしか無かったが、ジャンヌからはとても信頼されていたという自負はある。
話の流れでは、ジャンヌは私セイラ・ライトスミスをもう少し年上だと勘違いしているようなので、あえて訂正せずセイラ・カンボゾーラより年上だと思わせておいた。
また教導派や攻略対象のジョバンニ・ペスカトーレとの関係を勘繰られるのも困るので、その辺りの立場も明確にしておいた。
セイラ・カンボゾーラの立ち位置は反教導派で獣人属との融和派、ハウザー王国とも近い関係だ。
それ以外でジャンヌと関わり合いが生じるルートはジョン・ラップランドとイアン・フラミンゴの二人かな。
まあ攻略対象の誰とも高感度上げるつもりはないのだけれど。
そもそもジャンヌは攻略対象の婚約者とかでは無く聖教会や政治がらみのイベントで出てくるキャラだからある意味厄介だ。
恋愛関係に至らなくてもイベントが発生する可能性は十分にある。
特にハウザー王国との戦争イベントは規模の大小は有るが必ず発生するし、必ずジャンヌが係わっている。
これについてはサンペドロ辺境伯家を通してパイプを維持しなければゴッダードが戦火に見舞われる。
ジャンヌを使ってドワンゴ司祭やメリージャの獣人属聖職者と繋がりを作らせよう。
「それでジャンヌ様のご友人や同級生で気になる方はいた?」
お茶の後片付けを手伝っているナデタに聞いた。
「有名人なのでかなり興味は持たれておられました。修道女が二人挨拶に来られて…身辺調査を致しましょうか。それ以外は直接話しかける方は…いらっしゃいませんでした」
「うーん。セイラカフェからメイドを付けられないかしら。虫除けや身辺警護を兼ねて…」
「ジャンヌ様がメイドを付けられるでしょうか? 何でも自分で成さる上、贅沢や人を使う事がお嫌いの様です」
「うーん、平民寮でもメイドは入れられるのよね。みんなどうしているのかしら」
「二人部屋や四人部屋を一人で借りて、ベッドを一つメイド用に使いますね」
「ジャンヌ様は何人部屋?」
「四人部屋を宛がわれているようですけれど…。まだ誰も入っておられません。でも後三人入る予定です。北部の準男爵家令嬢と王都の商人の娘と王都大聖堂の司祭の妾腹の一人娘ですね…。追い払いましょうか」
さすがはナデタ、話が早い。
「お願いするわ。それからうちの商会関係で誰か捻じ込めないかしら、メイド付きで…。ああ、誰か信用できる娘で間に合いそうな人いないかしら」
そう、誰か私たちの身内をここの生徒に仕立ててメイド付きでジャンヌの部屋に押し込むのだ。
ルームメイトとして関係を持ちつつ、メイドと二人でジャンヌの虫よけと護衛を頼もう。
「うーん、そうですね。少し検討致しましょう」
「その娘にメイドを一人つけてジャンヌの部屋のルームメイトに捻じ込もう。それで四人部屋を三人で使わせる。でっメイドは誰を付けようか」
「それも任せて欲しいですね。うっへっへっへ」
あっ何かろくでも無い事を企んでる。
でもこういう時の彼女は頼りになるから目をつむろう。
夕方にはナデタからウルヴァを通して伝言が入った。
早速、昨日ジャンヌのもとに挨拶に来た修道女を突き止めてきたようだ。
「一人は南部ロンバモンティエ州の修道女だそうです。でももう一人は北部モン・ドール侯爵領の聖教会から来た修道女ですが侯爵の姪だそうです」
…モン・ドール侯爵? 聞いた事があるなあ。
そうか! モン・ドール侯爵はデュポン男爵の先々王暗殺未遂の陰謀に加担した疑いのある領主で現王の伯父にもあたる宮廷貴族の重鎮だよね。
聖教会の聖職者は上位貴族でも皆、平民扱いで平民寮だから気を付けねば。
ええい。宮廷貴族や北部・東部貴族は破滅への序章、排除だ、排除!
ヨアンナはジョン・ラップランドとくっつけば良い。ファナはイアン・フラミンゴだ。
くっつく相手が居ないジャンヌが一番厄介なんだ。ジョバンニ・ペスカトーレは絶対対立するし、私が係われば対立が激化する恐れがある。
私も関わらないし、ジャンヌの身の回りにも寄せ付けない。特に教導派貴族の息のかかった修道女たちとは対立もさせない方が良い。
「ウルヴァ。ナデタに平民寮の修道女たちを全部洗いだすように伝えて」
「はいセイラ様。伝えて来るです」
そう言ってウルヴァがドアを開いて出ていきかけると、その隙間から赤毛の少女がヒョッコリと顔をのぞかせた。
「あの…ちょっとお尋ねしま、えっ! なに! なんで! 可愛い部屋!」
「ねえ、ちょっとちょっと。この部屋どうしたの? 誂え品? それって有りなの? ねえ、教えてよ!」
騒々しい娘だ。挨拶も無しにこれは貴族としてアウトだろう。
「こんにちわ。初めてお目にかかります。私はリール州カンボゾーラ子爵領領主の娘で、セイラ・カンボゾーラと申します」
私が自己紹介をしてカーテシーをすると彼女は慌てて頭を下げた。
「あっあっ…ごめんなさい。ご挨拶を忘れてしまって。私、ダンベール州のフラン・ド・モンブリゾンって言います。あっと…爵位は男爵家です」
フラン・ド・モンブリゾン、私はこの娘を知っている。会った事は無いが知っているのだ。
「初めまして、モンブリゾン男爵令嬢様。せっかく見えられたのですから部屋に入ってお話いたしましょう。ウルヴァ、ナデタにお願いして何かお菓子を貰ってきてくださる。モンブリゾン男爵令嬢と仰るお客様が見えられたので」
「はい、お嬢様」
そう告げるとウルヴァは一礼して部屋を出て行った。
モンブリゾン男爵令嬢はお菓子という言葉に反応したようで、出て行くウルヴァに期待をにじませた目線を送ると一礼して部屋に入ってきた。
「あの…お邪魔では無かったかしら。ごめんなさい、突然にやってきて。寮に同級生らしき人が誰も見当たらなかったものだから。…それじゃあ、お言葉に甘えてお邪魔させていただくわ」
私は立ち上がると、テーブルの向かいの椅子を引いてモンブリゾン男爵令嬢に指し示す。
モンブリゾン男爵令嬢は顔を出した時の勢いが萎んでしまったようで、オドオドとしながら椅子に腰を下ろした。
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