第166話 シェブリ伯爵領
【1】
私たちは聖教会の関係者と言う事でモルビエ子爵領の関は比較的簡単に抜ける事が出来た。
早朝にモルビエ子爵領に入ったので食事や休憩は取らず一気にシェブリ伯爵領迄駆け抜けた。
「モルビエの聖教会の方から来ました。ロワール大聖堂に参ります」
関所での問いかけに私がそう答えるとすんなりと関を抜ける事が出来た。
「セイラ殿我らはモルビエの聖教会の手の者では…」
「別にその方向と言っただけでモルビエの聖教会関係者とは言っていませんよ」
「やはりそれは商人の詭弁と言うもんじゃないのか」
聖堂騎士団長は不服そうであったがそれ以上の事は言わずロワールに向かう街道を進む。
そして昼下がりにはロワールとライオル領に向かう分岐の町に到着した。
町の厩舎で馬に飼い葉と水を与え馬を少し休ませている間に、周辺の聞き込みをする。
一昨日からこっちで教導騎士団らしい一団は来ていないそうだ。
何より馬車も含めて十三人。騎馬だけで十騎となるとさすがに目につく筈だが騎士らしき騎馬が来たのは私たち以外では見ていないと皆が言っている。
ライオル伯爵領からとモルビエ子爵領からの街道が合流する割と大きな町である。夜間でもそれだけの騎馬が通ると見張りも町の者も気付くだろうし、何より夜間に駆け抜ける必要性も無い。
それよりも気になるのはライオル伯爵領との荷馬車や商人などの行き来が、このひと月余り殆んど途絶えていると言う。
それだけでもライオル伯爵領の惨状が想像できる。
「どうするね。ライオル領からロワールへ向かう街道は三本ある。この町先に他の二街道に通じる村がある」
「その村までどのくらいでしょうか?」
「うーむ、夕刻には付ける距離だと思うがな」
「それならそこまで進みましょう。その村に宿を取って情報収集と探索を図りましょう」
「この町はどうするね。見張りを残すのも感心できないぞ。護衛の分散はしたくないし、だからと言って護衛なしで一人だけ残すのも危険だからな」
「冒険者ギルドにでも依頼を出して、らしき一団が通れば使いを走らせてもらいましょう」
「まあ後手に回るが、致し方ないな。ギルドの使いが来れば一気に街道を突っ切ってロワールの城門で捕まえよう。それじゃあこの先の村に向かうとしよう」
聖堂騎士団の隊長の言う通り日暮れ前には村に着く事が出来た。
街道の筋の高台から少し先に見える環濠に囲まれた村の大門を見上げている。
「どうします、ルーシーさん、隊長さん。聖教会に宿泊を頼むのはどうかと思うのです。ここは聖堂騎士の紋章を隠してアヴァロンの州兵として宿を取った方が良いかと思うのですが」
「儂たちもそうさせて貰いたい。ここからはアヴァロン州兵として行動しようと思って居った」
「ルーシーさんもそれで良いのなら、宿を取りましょう。パブロは村に入ったら冒険者ギルドに行って、情報が入ったら知らせて貰える様に手配してきて」
聖堂騎士たちは軽装鎧の紋章を外し大門をくぐった。
割と大きな村で人口も多そうだが覇気が感じられない。村の広場の周りには商店も日暮れ前だと言うのに、並んでいるが半分以上がもう納戸を降ろしている。
村で三つある宿屋では一番大きな宿を借りる。パブロが調べてきた宿屋の中でそこだけが部屋で食事がとれたからだ。
要するに食事がとれる大部屋が有るのだ。打ち合わせや情報交換を宿屋の酒場で行う訳には行かないからだ。
私たちは領主の使節のルーシーさんとお付きの使用人、そして警護の州兵と言う名目で宿に入った。
騎士六名が大部屋で、ルーシーさんは一等室。私とアナ聖導女が控室で、パブロは警護も兼ねて今のソファーをベッドに設える事になった。
自分のような罪人は床に寝ると言い張るアナをなだめるのに一苦労したが。
旅装を取ると情緒不安定なアナをルーシーさんに託して二人で夕食を取って部屋に籠って貰う事にした。
私はパブロを連れて、騎士達も警護を州兵と聖堂騎士から一人ずつ残して村の情報を探りに出た。
警護に残った二人もこの宿の酒場で噂話を集めている。
私たちは村の商店を回った。思った以上に毛織物やリネンの値段が下がっているらしい。
ライオル伯爵領が大量に作った弊害だろうと思ったら、ライオル伯爵領から来た商人が綿布を大量に売って行った事で他の織物が売れ残ったのだと言われた。
…原因は私にあるようだ。パブロは熱心に綿布の評判や要望を聞いて反故紙に色々とメモを取っている。
インク壺を開きペンを走らせるパブロを見ながらつくづく思う。
ああ、鉛筆が欲しいなあ。何処かにグラファイトの鉱床が無いだろうか。
「お嬢、最近ライオル伯爵領からの流通が途絶えてるらしいぜ。ライオル伯爵領の領境の村に行くのも禁止されてるって。おかげでアヴァロン州経由のハウザー王国からの輸入品が入ってこないってよ」
「麻疹の感染を防ぐ為関を閉鎖してるのかしら、村まで封鎖するって徹底してるわね」
「そのおかげでこの村は客が来ないんだと。商店も商売あがったりで、そう言う商人が店を閉めてるらしいぜ」
「そう言えば聖教会の関係者も領境に行ったって言ってたわねえ。どちらの道を行ったか判らないけれどジャンヌ様を迎えに行った可能性が高いわね。この街道筋当たりじゃないかしら。ついでにここの聖教会も探りを入れに行く?」
「危ない事は止めろって! それにもう日も暮れてきたんだから行くにしても明日だ。こんな時間から行けばさらに怪しまれるから。お嬢とアナ聖導女は切り札なんだから聖教会に近づくのは禁止な」
「でも聖教会の動向は掴んでおきたいわね」
「なら、明日朝に俺とルーシーさんで行く。商売安全の護符でも貰いに行ってくるよ」
「何それ? 私聞いた事無いよ。そんなのゴッダードでもクオーネでもメリージャだって無かったよ」
「東部では普通に売ってるらしいぜ。残りの寿命を一割伸ばすとか」
「一割って何を基準に?」
「死んだら、その寿命の一割分が護符のお陰なんだそうだ。東部じゃあ普通に売ってるって、アナ聖導女が言ってたぜ」
「それって詐欺じゃないの。そんな者にお金払うの? 信じられないわね」
「だから教導派が嫌で南部に出てきて聖職者になったって言ってた」
「ああそれでだね。教導派のそんなボッタクリ商法を見てたから、だから清貧派教徒がお金儲けをすること自体を嫌ってたんだ」
そういう事で私たちは宿に戻って酒場で情報収集中の二人の騎士と合流した。
後は他の二件の宿屋の酒場に食事に出ている四人がどんな情報を持ってい帰ってくるかだ。
情報が集まれば全員で明日の方針を決める事にしよう。
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