閑話9 ウィキンズと王都(1)
【1】
この三年で背が随分と伸びた。
もうエリン団長と身長が変わらない。まあボウマン副団長にはまだまだとどかないけどな。
身長だけじゃあない。剣技だって上達した。両手剣ではボウマン副団長、ロングソードではエリン団長と言われるが、ファルシオンならこの俺も団で五本の指に入ると言われるくらいには強くなった
それだけじゃない。お嬢から習った体術の腕は少なくともゴッダードの騎士団の中ではもう誰にも負けるつもりは無い。
基礎となる技はお嬢に教えて貰った。それを基にエリン団長をはじめゴッダードの騎士団にも教えて、互いに技の研鑽を進めてきた。
エリン団長の言葉によると今のゴッダードの騎士団は、接近戦でなら王都の騎士団でも歯が立たないだろうとの事だ。
元近衛の隊長だったエリン団長が言うんだから間違いないだろう。もちろん近衛なんぞは足元にも及ばないと言い放っていた。
エリン団長は貴族上りが幅を利かせる近衛師団が大嫌いなのだ。
エリン団長から聞かされることは、王都と王都の貴族と貴族の手下の近衛師団の悪口ばかりだ。…いやあとは不敬にも王都の枢機卿たちと王族の悪口も有ったなぁ。
それなのに俺は今年の秋には、その王都に追いやられる。
エリン団長の命令で王立学校に入れられるのだ。それもゴッダード騎士団の推薦で近衛騎士団の見習い騎士として。
それで今回は王都の下見もかねてボウマン副団長のお供で王都にやって来た。
訓練や演習で近隣の州には何度か行ったことは有るが王都は初めてだ。さすがにでかいや。
王都騎士団の宿舎に一週間滞在する事に成っている。王都騎士団への挨拶に近衛騎士団への挨拶、王立学校の見学に予科まで見学する事になっている。
ボウマン副団長はエリン団長から仕事を言いつかっているようで、王都騎士団大隊長に挨拶を済ませると俺を残して仕事に行った。
◆◇◇◇◇◇◇
「田舎のゴッダードじゃあ人数も少ないから大した実力が無くても近衛に推薦してもらえて有り難いだろう。まあ近衛の兵卒位なら王都騎士団なら新兵でも務まるがな」
「王都騎士団じゃあ優秀な奴は近衛には行かないんだ。近衛に行くのは親の七光り持ちだけだぜ」
この秋に王立学校に行く予定の王都騎士団の団員と初顔合わせの席で散々に煽られた。今年は王都騎士団から二人王立学校に行くらしい。
エリン隊長からも聞いたが王都騎士団から近衛に行くのは、王都騎士団から推薦が受けられなかった貴族の紐付きがほとんだそうだ。
「そう侮るもんじゃあない。この男はゴッダードの騎士団長がどうしても王立学校に入れる為に近衛にねじ込んだらしいぞ。接近戦では負け知らずらしい」
「俺たちは王都騎士団で鍛えてきたんですよ隊長。少なくとも同い年の相手に負ける気はしません」
二人の疑似刀での立ち合いは見せてもらった。ロングソードでの立ち合いでは俺ではまず勝てないと思う。二人の自信は実力に裏打ちされたものなのだろう。
「おい、ウィキンズと言ったな。お前の得意の獲物は何だ?」
「自分の武器はファルシオンであります。しかし一番自信が有るのは徒手格闘であります」
「よし、ウォーレン手合わせしてみろ。ウィキンズ、間合いはお前の得意な距離でとれ。はじめ!」
ウォーレンは模擬長刀を構えたが、俺の間合いでは近すぎて力が乗らない。俺は模擬短刀で受け流しウォーレンの両腕を抑えると模擬短刀を首元に打ち込んだ。
ウォーレンは体を反ってあっさりとかわすと俺の手を振り払って後ろに飛ぶ。
間合いを取られれば不利だ。ウォーレンの動きに合わせて間合いを詰める。
打ち込まれる模擬長剣を模擬短刀で受け流し続ける。
数回打ち合ってウォーレンの胸元迄詰め寄ると、長剣と短剣の鍔迫り合いとなった。
ここまでくれば俺のフィールドだ。両手がふさがる長剣を右手の短剣で抑えて、左手でウォーレンの襟首を掴み体勢を崩させる。
そのまま小内刈りでかかとを刈り取り一気に倒すと、そのまま体重をかけて袈裟固めに持ち込み首元に模擬短刀を当てる。
「それ迄だ!」
「やるじゃねえか」
ウォーレンが起き上がりながら俺に右手を差し出す。その手を俺も右手で掴む。
「俺はウォーレン・ランソンだ」
「ウィキンズ、ウィキンズ・ヴァクーラだ」
「俺はレオナルド・ギーだ」
手合わせを見ていたもう一人も右手を差し出してきた。そいつとも握手する。
「なあウィキンズ、なんで近衛なんかに行くんだ? 行っても貴族の使い走りだぞ。実力が有っても出世は出来ないぜ」
「団長の指示だ。お嬢を…俺の大事な人が二年後王立学校に上がる。その時貴族からその人を守るなら近衛でなけりゃ守り切れないって言われた」
「女絡みかよ。羨ましいなあ。けど貴族のお嬢様なら護衛の騎士もいるだろう」
「いや、お嬢は平民だ。一般寮に入るから貴族からの手出しを防ぐ為には近衛じゃなけりゃあ力不足だ」
「おいおい、ハナッから貴族にケンカ売る為に近衛に入るのか。貴族を守る近衛に腹の中から食い散らかされるなら痛快だ。お前の応援してやるぜ」
「それで、接近戦に特化したんだな。その女を守るために。その代わり俺にもお前の体術を教えてくれ。戦場ならともかく護衛や市街戦ならお前のやり方が有利だからな」
どうやら、王都にも仲間が出来そうだ。
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