第54話 セイラカフェ(メリージャ2)
【3】
急な私の思い付きをグリンダたちはシッカリと実行してくれた。
見習いっ子達に聞いてみると、同居している家族は両親の兄弟姉妹やいとこたち迄いるらしい。
下町の人たちは日雇いの人が多く、朝仕事に付けるかどうかは早い者勝ちだそうだ。タダで食事が出来るなら皆総出で来ますとよミゲルに言われた。
急な話なので殆んど誰も来れないかと思っていたけれど、結構な人数になりそうだ。
そこで、メニューは絞って量を多めに仕込んでおいた。おみやげも持って帰って貰おうと思う。
翌朝、四十人近い老若男女が三人の幼女に連れられてオズオズと店の前に並んだ。
多めに仕込んでおいて大正解だった。
みんな小綺麗な格好でやって来たつもりなのだろうが、贔屓目に見てもボロボロの服装だ。
「少し我慢して下さいましね」
アドルフィーナはそう告げると、三人ずつ一纏めにして熱風の魔法を順番に浴びせて行く。熱風を浴びせられた人たちの足元には、南京虫がボトボトと落ちて行く。
アドルフィーナの洗礼を受けた人から順番に店に入って貰った。
「マリーは、こんな凄いお店で働いているの?」
マリーの母とおぼしき女性が質問する。
「そうだよ! こんな素敵な服を着てお仕事ができるんだよ」
いつの間にかメイド服に着替えて、みんなの前でクルリと回って見せた。店内の、主に女性たちから歓声が上がる。
パンパンと手を打つ音が響いてナデテの声が響いた。
「ハイ、そこまでよぅ。マリーィ、アンヌゥ、シャルロットォ、あなたたちはメイドとしてのお仕事を始めなさいぃ。お客様方のご注文を伺いなさいぃ」
「「「ハイ、ナデテお姉様」」」
見習いメイドの三人はそれぞれ自分の家族のテーブルの前に立ち、今日のメニューを大きな声で読み上げる。とても誇らしげに。
「お好みの物をオーダー下さい。オーダーって欲しい物をお願いすることだよ」
「おすすめは玉子シロップのトーストで御座います。えっとねえー、これは新メニューでこのお店でしか食べられない特別料理なんだって。甘くてフワフワでとても美味しいの」
「オーダー受けたみゃワリャ···、アイタタタ舌を噛んじゃったよー」
そして三人ともぎこちなくも可愛らしいカーテシーをして厨房に戻ってくる。
よく記憶してるもので、三人ともオーダーに間違いは無かった。
まあ、今日のメニューはハムチーズサンドとローストビーフのオープンサンドとフレンチトーストの三種類しかないんだけれど。
厨房には作り置いたメニューの大皿が並んでいる。
「さあ、お客様の所にオーダー通り商品をお持ちしなさい。食べ方もちゃんと説明するのよ」
リオニーの指示のもと見習いっ子たちは大皿を抱えてテーブルに戻って行く。
料理が全て運ばれて説明が終わると本命の登場だ。
三人のメイドがシズシズとティーカップとポットを乗せたワゴンを押して現れる。
そして一人一人に優雅にお茶のサービスを始める。下町の住民に対して萎縮させないように、失礼にならないように気を配って声をかけて行く。
リオニーたちメイド店員の所作に、店内は静まり返りほーっと言う溜め息が漏れる。
全員にお茶が行き渡るとメイド店員三人は深々と一礼して厨房に引っ込んだ。
しばらくの静寂の後感嘆や称賛の呟きが徐々に大きくなり賑やかな会食が始まった。
そんな中で三人の見習いっ子たちは厨房の奥に憧れの視線を送り続けていた。
リオニー達メイド店員はもうゴッダードのお店でもトップクラスに成るほどに磨き抜かれている。
その姿に憧れる見習いっ子達には、良い刺激になっているし目標は高いほど良い。
ただ開店すると直ぐにどこかの貴族や大店に引き抜かれそうでとても気掛かりだ。
さあ最後の仕上げと行きますか。
【4】
今日はセイラ様が来る日だそうだ。
グリンダ様はそそうが有ってはいけないとメイドのお姉さまたちに何度も言っていた。
そそうって何だろう?
あっ、そうだ! きっとゴキブリの事だ。いつもアドルフィーナお姉様がお店中を熱風魔法でショウドクしてるもの。
熱風魔法でノミや南京虫やゴキブリをやっつける事をショウドクって言うんだよ。
リオニーお姉さまとアドルフィーナお姉さまがグリンダ様とお買い物に出かけたので、わたしはお店の掃除をすることにした。
そそうが来ない様に、食べこぼしや生ゴミが有るとすぐに直ぐに来るんだから。セイラ様が来る日だと言うのに。
セイラ様ってどんな人かなあ。
この間いらした奥様みたいな人なんだろうなあ。きっとお上品で優し方けど緊張してドキドキしたよ。旦那様も優しかったけど、でっかくってちょっと怖かった。
そんな事を考えていたらお客さんが来た。メイドのお姉さまくらいの年の綺麗なお姉さんだ。
アンヌが注文を取りに行ったたら名前を聞かれてた。わたしはお仕事がつらくないかって聞かれたよ。
そんな訳無いじゃない。綺麗なお洋服を着せて貰えて、美味しいご飯もいただけて、お姉さま方もグリンダ様も親切だし。
そう言ってクルクルしてたらナデテお姉さまに叱られてしまった。
このお客さんがセイラ様だったんだ。
ライトスミス商会の一番偉い人だって聞いたからもっと大きな人だと思っていたら女の子だった。
そのセイラお嬢様が明日は家族みんなにご馳走するからって母さんや父さんや弟妹たちを招待してくれた。
マリーやアンヌの家族がうちの父さんと母さんに、明日はどうすればいいか相談に来た。
父さんと母さんはが、折角のご招待だからみんなで行こうと言ったので三家族みんな揃って行く事に成った。うちは家族五人だけれど、アンヌやマリーの家はお爺さんやお婆さん、それにおじさんやおばさんやいとこも一緒に暮らしているから凄い人数になっちゃた。
それでもセイラお嬢様はみんなにご馳走を用意してくれて、厨房はわたしたちの家族の為のパンやお菓子でいっぱいになっていた。
わたしたち見習いも父さんや母さんに頑張っているところを見てもらってたくさん褒めてもらえたけれど、メイドのお姉様たちは全然違う。
素敵すぎてわたしたちなんて足元にも及ばない。
わたしも頑張ってお姉様たちみたいなメイドに絶対なるんだ。
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