2:ギルドでの不幸
狭い宿屋の二階の個室でマモルは目を覚ます。マモルの目の下には異世界という普段とは違う環境にあまり眠れず隈ができていた。
マモルはベッドの上で欠伸をしながらベッドの横に置いていた剣を腰に差して、ベッドから降りる際に慎重に床を足で押して確かめる。すると、床からは鈍く軋む音がした。
慣れた様子でマモルはベッドの周りの床を全て確かめて、軋まない床の上に降りる。そして、すぐ傍の部屋の扉に辿り着くまでにも床を確かめながら進んだ。
ようやく部屋から出ることができたマモルは、前の部屋の扉をノックする。
「ミレイアさん、おはようございます。準備大丈夫ですか?」
少しすると扉から水色の髪の女性が顔を出した。
「大丈夫」
そうして、二人は一緒に宿屋を後にする。
二人が同じ宿屋に泊まるまでの経緯としては、マモルが都市に入る際に必要な入国料をミレイアが払ってくれ、更に今腰に差している剣もミレイアが前に使っていたのを貰ったものだった。それに恩を感じ、現在マモルはミレイアの舎弟のマネごとをしているからだ。しかし、この宿屋代もミレイアが払っているので舎弟というよりはヒモに近い。
そんな宿屋を出た二人が向かっているのは見習いギルドだった。昨日都市に入った後マモルはお金を稼ぐために見習いギルドにへと入団していた。
その際に必要な料金はギルドへ借金することで何とかなった。
ギルドへと向かう道中、マモルはこの世界では奇抜な格好になるジャージ姿に奇異な視線を向けられるが、無表情のミレイアとは対称的にマモルは笑みを浮かべていた。
「僕って生まれた時から凄く不運だったんです。だけどここに来てから少しだけ運が良くなった気がするんですよ」
ミレイアは「そう……」と相槌を打つ。
「どうしてかと言うと、一日に一時間だけ特に不幸になる
ミレイアはマモルの普通では信じられない話に口を挟まずに聞き続ける。
「それで今日はどうやら今が不幸な時間みたいなんですけど、今のところは何も起こってないから、本当に運がよくなったのかもしれないって期待してるんです」
そんな話をしている内に二人は見習いギルドへと到着する。ギルドの中へと入ると複数の冒険者がマモルたちに視線を向けてくる。
その内の一人の男がマモルに近づいてきた。
「よぉ、兄ちゃん。そんな女といたらろくな目に遭わないぜ」
「……一体、どういうことです?」
疑わしげな表情ながらもマモルは男に聞き返す。横のミレイアは自分の話をされているにも変わらず無表情だ。
「……この女と一緒にのパーティになった奴はな、今まで全員死んでるんだ。コイツが殺したのかはわからんが、一緒にいていいことがないのは間違いない」
男の話にマモルはミレイアに対して親近感を覚えた。マモルは自身の不幸体質から、前世では一緒にいると不幸になると散々言われ続けていたからだ。
自分の考えを男に伝えようとマモルは一歩踏み出そうとする。……しかし、不幸にも地面が濡れていたせいで滑ってしまいバランスを崩す。その際に咄嗟に何かを掴もうとした手が男の顔面に当たってしまった。
「い、いきなり何をしやがる! 人が善意で忠告してやったのに!」
男は殴られたことに腹を立てて、マモルを殴り飛ばして倒れた腹を蹴る。
「ぐっ……」
マモルは身体を丸めて守りの体制を取る。しかし、加減をしていない蹴りは守りなど無視して身体に響く。
マモルは痛みの中で早く終わってくれと願う。昨日野盗に勝ったという自信は吹き飛び、情けない気持ちで胸がいっぱいになる。加えて不幸な時間は異世界に来ても終わっていないと実感してしまう。
必死に痛みに耐え続けていると願いが叶ったのか男の蹴りが止まった。顔を上げると男はミレイアに取り押さえていた。
「……止めて」
「な、何しやがる! この馬鹿力が!」
短いながらも怒りの籠った声に男の怒りが冷める。
「……こ、今回はこれぐらいで許してやる」
そう言い残して男はギルドから立ち去った。
男が立ち去ったのを見送って、ミレイアがマモルに駆け寄る。
「大丈夫?」
「……だい、じょうぶ」
絶え絶えの声でマモルは返事をして立ち上がろうとするが、再び地面に倒れ込んでしまう。
ミレイアは倒れているマモルの腕を肩にかけて、立ち上がる。
「わるい、よ」
「平気」
そう言ってミレイアはマモルをギルドの外へと連れ出した。
「今から教会に行く」
マモルは痛みで朦朧とした意識の中、今まで返事をしていたがついに気を失ってしまった。
∇______
宿屋よりも柔らかなベッドの上でマモルは目覚める。辺りを見渡すと特に遮られることなく見える他のベッドには怪我をした人たちが眠っていた。
マモルはベッドの上で自分が教会に向かう途中で気絶してしまったことを理解する。辺りの様子から察するにここが教会だと考えたマモルは、怪我を負ったことを思い出して身体を確かめる。
身体は上半身の服が脱がされて包帯が巻かれていたが、気絶する前の悶絶するような痛みはなかった。ミレイアに後で礼を言わないといけないなと思いながら、疲れからマモルは再びベッドに身を任せて眠りについた。
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