幕間:騎士と少女の逃避行
雨が降り注ぐ真夜中、何かに追われるように一台の馬車が森へと入る。
ろくに整備などされていない小道をとても早い速度で馬車は進んでいくが、馬車を引いていた馬がぬかるんだ地面に足を取られて転んでしまう。その勢いで馬車は前に吹き飛び木に衝突してしまった。
しかし衝突する瞬間、ロープで全身を隠していた御者が馬車の荷台にいた少女を抱えて馬車から間一髪で飛び出す。
その際に御者のロープが風に飛ばされてしまう。そして、現れたのは頭に猫耳を生やした騎士姿の女性だった。連れ出された少女も同様に銀色の髪から犬耳がぴょこんと顔を出していた。
その連れ出された少女は腹に怪我を負っていて、着ている白い服は血で染まっていた。
「姫様! しっかりしてくださいニャ!」
独特な語尾で声をかけながら猫耳騎士は少女を地面に横たえて、自身の服の裾を破り少女の傷口に当てる。
そして、猫耳騎士は小さく何かを呟くと手が緑色の淡い光に包まれ、その掌で少女の傷口を覆った。
「ノコの回復魔法じゃ、全然塞がらないニャ……。治療をする為にもこの近くにあるはずのダンジョンに向かわないといけないニャ」
自身に言い聞かせるように言葉を口に出す。再び少女を抱えて目的の場所を探す。記憶を頼りに森の中を歩いていると、少し開けた空間に出た。その中心には廃ダンジョンと呼ばれる、既に攻略されたダンジョンがあった。
「……ようやく辿り着いたニャ」
猫耳騎士は迷う素振りを一切見せずに、ダンジョンへと足を踏み入れていく。
少し肌寒いダンジョン内を猫耳騎士は勝手知ったるように奥へと進んでいく。
大きな鉄の扉を開き天井が高く広い部屋へと入る。そして、部屋の一番奥の普通サイズの扉を開く。
無事に開いたことに猫耳騎士は安堵して扉の中へと入る。部屋の中は何かの制御装置のような物が置かれ、様々な資材が置かれていた。
「……ご先祖さま。残しておいてくれてありがとニャ」
猫耳騎士は残してあった資材の中から、治療に使うものを取り出して少女に使用して傷口を塞ぐ。そして、冷えている少女の身体を暖めるために服を脱がせて身体を拭き、部屋の中にあった毛布をかける。
少女の治療を一旦終えた猫耳騎士は少女が首に掛けているペンダントを取って制御装置へと駆け寄る。
「起動してくれニャ!」
猫耳騎士はペンダントを制御装置の窪みに嵌める。しかし、制御装置はピクリともしない。
「……どうして動かないニャ!」
猫耳騎士は怒りに任せて制御装置を叩く。その衝撃で電子音を立てて制御装置が起動する。壁にはいくつかのダンジョン内の映像が映し出され、その映像の一つに鎧を身にまとった男たちが固まって歩いているのがあった。
「もう、追いついたのかニャ……。壊れててこの部屋の扉のカモフラージュは発動してニャいけど、防衛装置さえ起動すればこっちのもんニャ」
そう言って猫耳騎士は制御装置のレバーを下ろす。すると固まって歩いていた男たちに体の透けた浮遊体が囲み襲いかかる。
男たちは冷静に浮遊体に応戦しながら前に進む。しかし、殿を務めていた男が浮遊体をすり抜けて壁から突き出た槍で怪我を負ってしまう。
形成を不利と悟ったのか撤退の体制に入った男たちは、手際よく後退していく。
「敵ながら凄い統制ニャ……」
そして、男たちは無事とは言い難いがダンジョンから脱出した。
「これで何とか凌げたニャ。でも、これからどうしたらいいのかニャ……」
途方に暮れる猫耳騎士の元に幼い少女の唸り声がピコピコと動く耳に入る。猫耳騎士は少女に駆け寄り声をかける。
「姫様! 大丈夫かニャ!」
「ううっ……怪我人に大声で話さないで」
「ごめんニャ……」
しょぼくれる猫耳騎士に少女は声をかける。
「……でも、ありがとう。ノコがここまで運んでくれたのでしょう」
「姫様ぁ!」
そう言って猫耳騎士──ノコは少女に抱きつく。
「く、苦しい……。わたしは怪我人なのよ。もう少し優しくして……」
そう言いながらも少女はノコの抱擁を振りほどかなかった。
二人がダンジョンに入ってから三日後、少女の体調は回復して歩けるほどになっていた。
「大丈夫ですニャ、姫様?」
心配そうな顔をしてノコは少女に話しかける。
「別に大丈夫よ。それとずっと言ってるけどわたしはもう姫じゃない。これからはセレスって呼んで」
「セ、セレス……やっぱり無理ニャ! ノコにとっては姫様は姫様ニャ」
「仕方がないわね……」
やれやれと少女──セレスは首を振る。
「でも、体調は大丈夫でも状況はあまり良くないわね……。指輪もどこかで落としてしまうし……」
「姫様、落ち込まないでニャ……ノコが上に行って探してくるニャ!」
「いいえ、それは危険だわ。まだ外に帝国の兵士がいるかもしれないから。とにかくこれからの計画を立てましょう。ここに留まるにしても出ていくとしても考えないといけないわ」
セレスがノコに話を振るが返事が返ってこない。
「一体どうしたの?」
「姫様、扉の前に誰かいるニャ……」
「それは、本当なの……。でも防衛装置は反応してないわ」
この防衛装置は獣人以外の生物に自動的に反応して防衛してくれる機能のはずだが、何故か起動していなかった。
「……もしかすると帝国はそのことに気づいて、獣人を連れてきたのかもしれないニャ」
「でも映像には何も映ってないのはどうしてかしら?」
セレスの言う通り、扉の前の大広間の映像には何も映っていなかった。
「姫様隠れるニャ!」
ノコの声に反射的にセレスはベッドの下へと隠れる。すると、扉が音を立てて開いた。
「──誰ニャァ!!」
ノコは扉が開く瞬間に叫びながら扉に剣を投げつける。何故か剣は空中で静止してしばらくすると、カランと音を立てて床に落ちる。
「……なんだったのニャ?」
ノコは落ちた剣に近づき拾い上げる。剣の先には少し血がついていた。
ベッドに隠れていたセレスも、ノコの声でベッドの下から出てくる。
「見えないってことはレイスだったの?」
「レイスは血を流さないニャ。……それにあいつらは透けてるだけで透明ではないニャ」
「……だとすると、レイスが進化した魔族ってこと?」
「……わからニャいけど、ここも安全じゃないかもしれないニャ」
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