13:新たなお仕事
無事に都市へと帰りついたミレイアと勇者を都市の外から眺めながらほっと一息つく。
こうして都市に帰りつくまでに、二人は何度も魔物に遭遇しそうになったので大変だった。事前に俺が魔物を狩っていたというのに、まるで意味がなかったかのように二人が進もうとする先に魔物が何度も現れるのだ。
ミレイアが持ち前の察知能力で器用に避けながら進んでいたが、魔物に囲まれてしまい避けることができない状況が何度も起こり、その度に俺は二人の進む方向に先回りをして魔物を倒すという工程を何度も繰り返す。
その間勇者は魔物に気づいているかわからないが、ずっと不審な動きを続けていた。
「はぁ……これでお前の言ってたノルマは達成だな。今日は心も体も疲れたし、飯食ってさっさと眠りてぇ……」
『……キミ、知っているかい? ノルマというものは達成すると次のノルマが課せられるのだよ』
ヒキガミの言葉に俺は凍りつく。
『キミはこれからの展開がどうなると思う?』
突然の質問に戸惑いながらも答える。
「いきなり何だよ……。まぁ、俺の経験則から語ると金を稼ぐために冒険者になるんじゃないか?」
『そう、その通りだ。しかし、キミの冒険者としての仕事を見ていて私は思ったのだよ。……つまらないと』
「人が生きるために頑張ってんのに酷すぎるだろ」
『事実なのだから仕方がないだろう。なのでキミの新たなノルマは
「……は? 何を言ってるんだ?」
前回のノルマとは違い抽象的な内容に口をポカンと開く。
『バカみたいな顔をしていないでしっかりと励むのだよ。それと早く世界の卵に放置されている魔物たちを片付けてくれたまえ。……では私はこの後に報酬の受け取りがあるので失礼する』
「おい、ちょっと待て! 逃げんじゃねえ!」
やはり、その後何度呼びかけようともヒキガミは応答しない。脱力感に包まれながら俺は新しいノルマについて考える。
前回と比べて期限は長いものの、何をすればいいの全く見当がつかない。それに今の俺の活動は勇者のサポートというよりは、ヤラセがメインになっている気がする。
頭を悩ませながら透明化を解除して正門をくぐる。
「……遅いじゃない。待ちくたびれたわ」
突然の声に考えごとを一旦止めて正面を向くと、アンダーが正門で待ち構えていた。俺は約束を守ってくれた事を思い出してお礼を言う。
「今日は約束を守ってくれてありがとうな。助かった」
「仲間なんだから当たり前じゃない。そんなことよりも、どうしたのくたびれて。……そんなん様子じゃ、これから大丈夫か心配ね」
「……これから?」
アンダーは俺の腕を掴んで引っ張ってくる。
「お、おい。どこに連れていく気だ?」
「もちろん、希望の鎖。わたしたちのギルドよ」
そう、昨日俺はアンダーのギルドに入団したのだ。
「……明日じゃダメなのか?」
「ダメよ、ダメ。こういうことは後回しにしたら後々面倒くさいんだから」
俺はアンダーに引っ張られたまま都市を歩く。傍から見ればカップルのように見えるのかもしれないが、俺としては気が重い。
アンダーの所属しているギルドに行くということは、ギルドメンバーにも必然的に会ってしまうだろう。アンダーに加えてあの刃の折れた男も所属していたギルドのメンバーとなると、ろくな奴がいなさそうだ。
「よし、着いたわ。ここが希望の鎖のギルドホームよ」
そう言ってアンダーが指す先には庭付きの大きな屋敷が立っていた。
「こ、これがギルド? 屋敷じゃねぇか!」
俺がギルド探しの時に冒険者たちをストーカーした時に見たギルドも大きかったが……これはレベルが違った。
「ふふふっ、驚いたでしょう? クロゴくんの態度からして希望の鎖がどのようなギルドかも知らなそうだしね」
……俺はもしかするとヤバいギルドには入団してしまったのかもしれない。
ビビりながらオシャレな鉄でできた正門をくぐり、しっかりと手入れのされた庭を通って屋敷に辿り着く。
「カルラ! 新人を連れてきたわよ!」
アンダーが屋敷の前で声を出すと屋敷の大きな扉が開き、メイド服姿の白髪の女性が現れた。髪は白髪だが老けているというわけではなく、可愛らしい見た目をしている。
「お帰りなさい、アンダー。それとクロゴ」
初対面で突然名前を呼ばれて動揺したが、平静をとりつくろう。
「……どうも」
メイドは俺の挨拶に少し頭を下げ返す。
「いやぁー。遅くなっちゃてごめん。もうみんな揃っちゃってる?」
「そんなわけないですよ。あの纏まりのない方々が集まると考える方がおかしいです」
「だよねー」
「さぁ、さぁ」とアンダーに促されて屋敷へと足を踏み入れる。
内装も外見同様に高価そうなものが並んでいた。俺は廊下の花瓶などにぶつからないように気をつけながら、アンダーたちの後についていく。そして、二人が一つの扉の前で立ち止まった。
「さて、何人集まってるかな。私の予想だと、二人はいるはずだと思うけど」
アンダーは扉を勢いよく扉を開く。中は縦長の大きなテーブルが中心に一つある食堂だった。テーブルにはまばらに二人席に着いていた。
その内の一人をよく見ると、商業ギルドで刃の折れた男を連れて行った大男だった。その大男はアンダーに視線を向け、
「遅いぞ!」
とよく響く声で苦言を呈す。
「ごめん、ごめん。いやぁ、ちょっと手間取っちゃって。バルルもごめんね」
口元にマフラーを捲いているバルルと呼ばれた男は視線だけこちらに向ける。
「問題ない。俺は心の広い人間だからな」
「だったらよかった。……カルラ、マスターは?」
「……現在、眠っておられます」
「わかったわ。カルラ準備を初めてちょうだい」
カルラは頷き食堂から退出する。
「一体これから何が始まるんだ?」
「もちろん、君の歓迎会に決まってるじゃない」
俺は初めて聞く話に戸惑う。
「……そんなの聞いてないぞ」
「だって聞かれてないもの。そんなとこで立ち止まってないでさっさと入る」
俺はアンダーに急かされながら食堂に入り、アンダーの横に座らされた。
「そういえば、さっきのメイドはギルドのメンバーじゃないのか?」
「あぁ、彼女はギルドのメンバーでもあるのだけど、このギルドホームのメイドもしているの。この屋敷の全ての家事を一人でこなしてるのよ」
この見るからに広い屋敷を一人で切り盛りしているという話に素直に感心する。
「だけどよ、流石に一人だとキツイだろ。他にメイドは雇わないのか?」
「……彼女が嫌がるんだよ。この屋敷に部外者を入れるのをね」
アンダーと話が途切れた後、カルラの準備が終わるまでの間、手持ち無沙汰なのか先に席に着いていた二人に絡まれてしまう。
「小僧! アイツの神速の剣を弾いたと聞いたぞ」
「情報通な俺もその話は聞いた」
アイツとはきっと刃の折れた男のことだろう。
「本当か確かめるために、俺に一発殴らせろ!」
そう言って大男は自身の太い腕に力こぶをつくる。
「いやいや、おかしいでしょ! 何もしてないのに殴られるなんて絶対嫌ですよ俺は」
「俺は平和主義者だからな、ここで争うのは止めてもらおうか」
俺が困っているとマフラーを巻いた男が助け舟を出してくれたが、先程から聞いてもいないどうでもいい情報を付け加えてくる。
そんな予想通りの個性の濁流に飲まれ、歓迎会が始まる前からどっと疲れてしまった。アンダーはそんな俺を見てずっと笑っている。
そして、ようやくテーブルに高そうな料理が並び終わり、ここまで何も食べていなかったことを思い出すかのように腹が鳴る。カルラが席に着いたことを確認してアンダーが立ち上がった。
「さて、自己紹介を交えた歓迎会を始めましょう!」
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