6:情報収集のお仕事

 



 ギルドを出た俺は早速腹を満たすために、大通りの出店へと向かう。


「さて、何を食べようか……」


 軒を連ねる出店には見たことのない食べ物から、知っているが少し違うものなど様々なものが並んでいた。

 だがその中で、俺は冒険者の後をつけていたときから気になっていた、肉串の出店へと向かうことにした。


「すみません、肉串一本ください」

「あいよ、銅貨三枚だ」


 俺は袋から銅貨を取り出し、店主に渡して肉串を受け取る。そして、早速齧り付いた。


「うめぇ、何の肉かわからんが」


 初めて食べる食事は何かわからなくてもやはり美味かった。粋な言葉など考える暇もなく一瞬でただの串にしてしまう。

 だが、健康な男が肉串一本で満足できるはずはない。それに喉も乾いていた。俺はエルアさんから貰った袋を開く、袋の中には銅貨七枚が入っていた。


 今晩の宿のことを考えるともう余裕はなさそうだ。だが、下手に肉串を食べたせいで食欲が刺激され、止められそうにはなかった。


 俺は欲望のままに魔法使いが生み出したという怪しげな魔法水という革に入った水と、肉串をもう一本購入して残りの銅貨は三枚となってしまった。


 肉串は平らげて水は半分飲み、残りは袖にしまっておいく。けっして満足とまではいかないが、流石にこれ以上は金を使えないので我慢して情報収集を開始した。


 再び透明に戻って逃げ出した冒険者ギルドへと戻る。そこで集まった情報は、まずはここは街ではなくこの都市一つで国である都市国家であり、冒険者の国カイルと呼ばれていること。


 俺の入団した冒険者ギルドはエルアさんが言っていた通り見習いギルドという名前で、見習いギルドで実績を残した者が他のギルドから誘われて、見習いを卒業できるというシステムであることだ。


 なので、俺が入団すると言った時にライバルとなるので、他の冒険者たちが視線を向けてきたわけだ。


 盗み聞きしていた冒険者たちは臨時の仲間の募集やどうやってギルドに売り込みをするか相談していたり、実績を残す方法を模索していて就職戦争のようだという感想を抱いた。


 いくつか情報も集まったので、そろそろ帰るかと俺が考え始めていた頃、なんと今朝俺の横で眠っていた少女が冒険者ギルドへとやってきた。

 服装がこの見習いギルドの冒険者には似つかわしくない、白を基調とした高そうな服装だが、土や血で汚れてしまっていて、落ちぶれた貴族を思わせた。


 少女はギルドに入って真っ直ぐに受付へと向かい、報酬を貰うとすぐに帰っていった。


「また一人でやってるよアイツ」

「犯罪者がよくのうのうと顔出せるよな。俺たちもアイツのメンタルを見習わねぇとな!」

「ハハハッ。確かにな!」


 よくわからないが、少女は冒険者ギルドでは嫌われているようだ。犯罪者と呼ばれていたが、俺には関係ないことなのだが、あまり気分が良くないので元々帰るつもりだった俺はさっさとギルドを後にした。


 外に出ると夕日が街中を赤く染めていた。今夜はしっかりと金を払って昨日の宿屋に泊まろうと思っているので、路地で透明化を解除して昨日泊まった宿屋へと向かう。


「はぁ、腹減ったなぁ。でも金がねぇんだよな」


 宿屋に向かう道中、食欲をそそる匂いが俺を誘惑する。ボーッとしながら歩いていると、いつの間にか俺の右手には野菜スープが握られていた。


「い、いつの間に……。まぁ、買ってしまったものは仕方ないよな」


 俺はそう言い訳してスープに口をつける。


「おえっ、これ……スープじゃなくてただの野菜の水煮じゃねぇか」


 騙された気分になりながらもスープを飲み干し、残りの銅貨を確かめる。袋の中には銅貨が後二枚はいっていた。


「銅貨一枚のスープに期待したのが間違いだったな……」


 重い足取りでようやく宿屋へと到着する。今回は普通に扉を開き中へと入る。


「すみません、一泊いくらですか?」


 俺はカウンターにいる老人に話しかける。


「……銅貨三枚だ」


 俺は袋を確かめるが、どれだけ袋をまさぐろうと袋をの中には銅貨は二枚しか入っていない。あんなスープを飲むんじゃなかったと後悔するがすでに時は遅し。だが、あきらめる訳にはいかないので、ギルドの時のようになんとかならないかと、老人に交渉を試みる。


「えっと、二枚じゃだめですか?」

「……出ていけ」


 老人に取り繕う暇もなく断られた俺は、とぼとぼと宿屋を出る。


「なんだよ、あのジジイ。少しぐらい安くしてくれたっていいじゃねぇか」


 老人の態度につい悪態をついてしまったが、よく考えると昨日のタダで泊まったのに加えて、金が足りなかったの欲望に負けた自分のせいなので反省する。


 ……だが、これはこれで、それはそれだ


「仕方ないか……」


 俺は再び透明になり、宿屋に泊まりに来た客の後ろに張り付き宿屋の中へと入る。そして、昨日の部屋へと帰ってきた。


「なんだか、落ち着くな。まるで実家みたいだ。……実家を覚えてないが」


 そういえば、二日程風呂に入っていないが、不快感がないことに気がつく。体を嗅いでみるが不快な臭いはしない。

 これも黒衣の機能なのだろうと納得して、ベットに倒れ込む。

 昨日は全く気にならなかったが、銅貨三枚なだけあってこの部屋は狭くてベットも固い。こんな部屋を一人で借りているなんて、あの少女も大変なんだなと思いながら眠りについた。



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