4.ギルド探しのお仕事
『やあ、起きたまえ。仕事の時間だよ』
柔らかな感触に包まれていた俺は、ヒキガミの淡々とした声に意識を取り戻す。だが、二日目にして仕事が嫌だという気分と柔らかな感触から離れるのが嫌で二度寝を決め込もうとヒキガミの声を無視する。
『狸寝入りはやめたまえ。このままだと消滅してしまうよ』
ヒキガミに脅されて嫌々ながら薄らと目を開ける。霞んだ視界には整った顔立ちの少女が映る。一瞬頭が真っ白になったが正気を取り戻し急いで離れようとするが、強い力で抱きしめられていてなかなか抜け出せない。
「う、うーん……」
俺が動いたことで抱きしめていた少女は不快そうに寝返りをうち手を離した。
「や、やべぇ……」
解放された俺はベッドからそそくさと立ち上がると、もう一度ベッドに視線を向ける。そこにはネグリジェ姿の高校生程の年齢と思われる、空色の髪を肩まで流した少女が眠っていた。ネグリジェから透明感のある肌とすらっとした手足が覗いている。
『見えないことをいいことに、いたいけな少女と一緒に眠るなんていけないよキミ。卑猥なことに使ってはダメだといっただろう?』
「……そもそも俺の方が先に眠ってたんだぞ。どう考えても不可抗力だろが」
俺は小声でヒキガミに文句を言う。
『ならば、無防備な少女を見つめるのを止めたらどうだい?』
俺は無言で視線を窓の方に向ける。
「どうしてこんなことになってんだ……」
『なに、彼女が普通に部屋を借りて眠っただけさ』
……そうだった。俺は昨日この部屋を無断で借りたんだった。
「というか、お前その口調ってことは知ってたんだろ。だったら教えろよ」
『なに、部下想いの私はせっかく気持ちよさそうに眠っているキミを起こすのが可哀想だと思ってね』
もっと他のところで優しさを発揮してほしいと切に思うが、何事も無かったのでというかいい思いもしたので許してやることにした。
「……それはありがとう」
『どういたしまして』
この場所にいたら少女が起きたとき厄介なので、俺は外に出ることにした。だが、この少女がまだ部屋で眠っているので鍵を開けて出ていくのはマズいと思い、二階の窓から出ることにした。
いくらボロ宿といっても、二階から外に出るには高さがあったので二階の窓から落ちるときだけ身体強化をオンにして、着地してすぐにオフに戻したので昨日のように暴走をすることはなかった。
「朝からいきなり疲れた……」
『そんなことを言っている暇があるのなら……働たまえ』
俺は嫌々だがこの街に来た理由である仲間探しを始めることにした。
「やっぱり仲間探しといえば冒険者ギルドだよな」
『テンションを上げてどうしたんだい?』
「せっかく異世界に来たんだ。少しは楽しまないと損な気がするからテンションを上げてんだよ」
『テンションを上げると異世界を楽しめるという発想は理解不能だが頑張りたまえ』
俺の異世界楽しもうプランに水を差すヒキガミは無視して、俺はまだ見ぬ冒険者ギルドを目指す。
ヒキガミと中身のない話をしながら歩いていると、狭い路地を抜けて大通りへと出た。昨日はゆっくり見れなかったが道の端には出店が軒を連ねていており、多くの人々でごった返していて活気を感じさせる。
道行く人々の服装は西洋風も多かったが、背中に剣を担いで鎧を着込んでいたりと、ザ・冒険者という感じの人々の方が多い。
「なんでこんなに冒険者みたいな奴が多いんだ……」
『それはキミが調べることだろう? 悪いが今日は私も準備があるのでまた明日。しっかりとサボらずに仲間探しはするのだよ』
「あっ、おい! ちょっと待て!」
『そんなに寂しがらなくてもまた戻ってくるさ。……ではまた』
それから俺が何度声をかけてもヒキガミの声は返ってこなかった。
「なんなんだアイツは……本当に消えやがった」
仕方が無いので俺はヒキガミの言いつけを守るみたいで癪だが、冒険者ギルドを目指して冒険者らしき者の跡をつける。冒険者は俺がつけていることに気づくことなく、両扉を開き建物の中へと入っていく。建物は煌びやかな装飾がされ、冒険者ギルドというより豪邸のような場所であった。
「流石にここは違うよな……」
俺は半信半疑ながらも窓から中を覗き込むと、部屋の中では冒険者らしき格好した男女が楽しそうに談笑をしていた。
「こいつらの家なのかここは……。わかんねぇ」
俺はここは違うと結論づけて他の冒険者の後をつける。しかし、建物のグレードに差はあれど、跡をつけた冒険者たちは家らしき建物に入っていき、一向に冒険者ギルドには辿り着かない。
「ど、どういうことだ……。まさか冒険者ギルドは存在しないのか……」
何の成果も得られるまま昼頃になり、昨日から何も食べていないので腹が音を鳴らす。
次で一旦最後にしようと俺は今までは強そうな冒険者の跡をつけていたが、あえて弱そうな冒険者の跡をつけることにした。
そして弱そうな冒険者は最初の建物よりは劣るが綺麗な建物の中へと入っていった。俺は再び窓から中を覗く。
いくつか椅子と机が並び、奥では受付嬢たちがカウンターで冒険者と会話していた。まさに俺が思い浮かべていたギルド像そのものが現れたのだった。
……俺は早速中へと入ろうと思ったが、そもそも勇者の仲間を探すといってもどうすればいいのだろうか?
「てか、腹が減った……。でも金がねぇんだよなぁ」
そして、俺は思いついた……ギルドに入会すればいいと。そうすれば冒険者の情報と金が手に入り一石二鳥だからだ。
だが、ギルドに入会するのには問題点がいくつかある。一つ目は身分証的なものが必要だった場合だ。そして二つ目は俺が不正に街に入っていることだ。なので滞在証明書的な物が必要だった場合マズイ。そして最後に勇者の黒子ということがバレてしまう可能性だ。
ヒキガミの言い様では勇者にさえバレなければいいわけだが、危険は当然あるだろう。
考えても仕方がないので俺は路地に入り透明化を解除した。ギルドの窓で自分の姿を確認する。そこには前に見た顔とは違い少しやつれた顔をした、冒険者の服装の男が映っていた。
「顔も変わってるし軍服でもなくなってんだな。周りの服装に合わせるとか本当に優秀だなこの黒衣は……」
自分の外見を確かめた俺は意を決してギルドの扉を開いた。
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