2.異世界召喚されるお仕事

 



 差し込む光に瞼を開くと視界いっぱいに青い空広がっていた。寝転がっていることに気づいた俺は立ち上がって周りを見渡す。

 そこには様々な色彩によって彩られるている世界が広がっていた。


『やはり世界とはいいものだね。私のいる世界の卵とは違って色がある』


 頭の中に響くヒキガミの言葉で一気に現実へと引き戻され、高揚した気持ちは一気に冷める。


「……だったら、お前も来たらどうだ? 監視はまだなんだろ?」


『あいにく、私はヒキガミという名前の通りに引きこもりの神だからね、外には出ないのだよ。それに監視は現在進行形でしているさ』

「ヒキガミって引きこもりの神って意味なのかよ……ってか監視してるって俺をか? さっきから俺の見てる光景が見えてるみたいに話してるが」


 どこかにあるであろうカメラを探しながら俺はヒキガミに尋ねる。


『残念だがキミの黒衣のようにカメラは透明になっているから見つけられないよ。それとこのカメラはキミの姿が映るようになっているから、変なことをしても見えるから気をつけてくれたまえ』

「変なことって何だよ!」


 ヒキガミが監視するのはどうやら勇者だけではなく、俺も対象に入っているらしい。ヒキガミからすると俺は世界を滅ぼした大罪人らしいので妥当な判断だろう。


「ともかく、カメラはわかったが声はどうやってんだ?」

『これは神の力だよ。世界が滅んだので神の力が弱まっているが、声を届けるぐらいならできるとも』

「そうなのか……」

『そんなことはどうでもいいのだよ。早速キミの最初のノルマ話のをしようじゃないか』


 俺は改まるヒキガミの声に耳を傾ける。


『勇者が最初に必要なものはなんだと思う?』

「……なんだよ、突然? そうだな、シンプルに力じゃないか?」

『不正解。これだから脳筋は困る』

「……じゃあ、一体なんだよ?」


 ヒキガミは溜めてから、


『──仲間さ』


 と呟くように言う。


「……仲間? 仲間なんて別にいなくてもいいだろ?」

『考えてみたまえ。勇者というのは元々転生者なのだよ。その転生者たちは自分たちが転生した世界については無知だ。そのような中で行動するのは無謀と言っていい。だが、仲間は知っていて当たり前のようなことを疑念を持たず、快く提供してくれるのさ』


 ここまであまり真面目ではなかったヒキガミが意外にしっかりと考えていることに驚いた。……だが、少し待ってくれ。


「今現在その無謀なことをさせられそうなんだが……」

『キミは勇者ではないだろう? それに私がいるじゃないか』

「はぁ……。とりあえず俺のことは置いておくとして、理由はわかったが先にやることが他にもあるだろ?」

『もしかして、キミ? 忘れているだろう? 君の仕事は勇者のサポートだけではなく、盛り上げなくてはならないということを。そもそも盛り上げの方がメインと行っていい』


 そういえば説明の時に異世界やバレてはいけないという言葉が印象的ですっかり忘れていたが、盛り上げるとも言っていた気がする。


『仲間がいれば掛け合いが生まれて展開のバリエーションも増える。盛り上げることを考えると序盤からいる方がいいのだよ』

「でもそんなに仲間なんて都合よく、いきなりできるもんなのか?」

『そのためにキミがいるのだろう?』


 俺はてっきりこの仕事を勇者がピンチに陥ったときに裏から助けるのものだと思っていたが、ヒキガミの言いようだと俺に勇者の仲間を作らせようとしていることになる。


「おい、それって盛り上げっていうより……ヤラセじゃねぇか!」


 そもそも俺自身が状況をよくわかっていないのに、勇者の仲間の面倒なんて見れる気がしない。せめて、一ヶ月でもあればいいがヒキガミは勇者の召喚は五日後と言っていたはずだ。そんな短い日数で無理に決まっている。


『──それでもやらなくてはならないんだよ。私たちには後はないのだから』


「お前は実際やらないからそう言えるんだろ!」


 白い世界で引きこもっているだけのヒキガミが、いくらカッコつけたとしても説得力などない。


『私にはわたしでやらなくてはいけないことがあるのだよ。そうだね案ぐらいは提案しようじゃないか……そうだね、ベタな手として正義のヒーロー作戦はどうだろうか?』

「……ダサい名前だな。お前が提案する作戦なんて信用ならないが聞いてやるよ」




 作戦を聞き終わった俺は危険すぎるのではという感想を抱いた。そしてそれを実行する俺への負担は一切考えられていなかった。


「……そんなことをして大丈夫なのか?」

『たとえキミが勇者に見つかったとしても、サポートをしていることさえバレなければ大丈夫さ』

「それにしてもこの作戦……俺ばかり損じゃねぇか」

『裏方とはそういうものだよ。キミは決して光を浴びることはないということを理解しておいて欲しいね』


 複雑な思いが心を駆け巡るがやらねば消えるので、次に考えなければいけないことを考える。


「とりあえず、勇者が召喚されるまでに俺は仲間になる奴を探せばいいわけだな」

『キミの最初のノルマは勇者が召喚されるまでに仲間候補を見つけだし、勇者召喚初日に仲間にすることだ』

「完全にヤラセのせいで気が進まないが、やるとして仲間候補なんてどこで探せばいいんだ?」


 俺は周りに広がる草が生い茂り、まばらに低木の生える草原を見渡す。どうせなら街の中に召喚してくれればいいものをと思わずにはいられない。


『……少し待ちたまえ』


 すると俺の視界の右上に四角で縁取られた線で描かれた地図が現れた。地図は見下ろし型で赤い点を中心とした周辺を映し出し、丸や四角などの記号が記されていた。


『これはこの世界の地図さ。そしてキミがいる場所がこの赤い点となっている。丸や四角は町や国を表していて、キミは赤い点の左側の円の場所で仲間候補を探してもらう』


 ヒキガミの言う通りに赤い点の左側を見ると円形があった。


「この地図えらく簡略的だな。もっと実際の形に近くできなかったのか?」

『残念なことに容量不足さ。この地図は世界を直接読み取ったもののせいでね。全て入れようとしたところ黒衣に入る要領をオーバーしてしまったのだよ。それでも何とか落とし込んだ結果このようになってしまったのさ……』


 この黒衣にはこんな機能も入っていたのか。そう思うと見た目はあれだがあって良かったと心の底から思う。


「それで仲間ってどんな奴がいいんだ?」

『今はまだ勇者よりも弱いが、けれども将来性がある綺麗または可愛い女性だろうか』

「……どうして勇者より弱くないといけねぇんだ。どう考えても強い方がいいだろ。それとなんで可愛い女限定なんだ?」

『時には自分で考えることも大事だよ。……それに時間はあまり無いと思うがね?』

「……ただお前が説明するのが面倒なだけだろ」


 ヒキガミはため息をつくと嫌そうな感じに話始める。


『しょうがないね、キミは。理由は単純にモチベーションの話だよ。自分より強い仲間など嫉妬するだけでいいことがない。特に盛り上げるのに関しては勇者が活躍した方がいいからね』


 ヒキガミの話はわからなくもない。もしも自分が勇者に選ばれたとして、仲間が俺より強ければ、俺が強くならないとという反骨心よりも、どうしてもっと強くしてくれなかったんだと召喚した奴に思うだろう。


「もしかしたら勇者の性格が良くて、素直に俺もああなりたいと思う奴かもしれないだろうが。そもそも、弱い仲間なんて勇者が危ないだろ」

「そんなもしもの可能性で勇者の性格が嫉妬深く自尊心の高い人間だったらどうするのさ。その時は二人とも消滅だよ。それと勇者が危険と言うが、それをどうにかするのがキミの仕事だろう?」 


 ……人任せなヒキガミの発言に勇者のモチベーションをそんなにも大切にするのだったら、俺のモチベーションも気にしてもらいたいものだと思った。


「弱くないといけない理由はわかったが、女なのはどういうことだ?」

『それはさっきも言った通り、モチベーションだよ。召喚される勇者は男性のようだからね。あわよくば好きになってもらい、勇者だから救うというよりも好きな人のいる世界を救うという理由の方がモチベ的にも展開的にも美味しいのだよ』


 ……ヒキガミの発言はクズそのものだが、俺は確かにと納得してしまう。


「よく考えたら、将来性なんてどうやって確かめるんだ? またこの黒衣に相手の戦闘能力を測る機能とかついてるのか?」

『……そんなモノあるわけないさ。黒衣は便利なロボットではないのだからね。あえて見つける方法があるとするならば……勘しかないよ』

「ふざけんな!! 俺はスカウトマンじゃねぇんだぞ!!」


 あまりに投げやりな答えに文句が口から飛び出てしまう。まさか勘とは、さすがに思いもよらなかった。


『そう悩むことはないさ。意外とそういうのはわかるものだよ』


 ヒキガミのその楽観さは一体どこから湧いてくるのだろうか? だが、今は少しでも分けてもらいたいという気持ちで胸が一杯だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る