末席の友人 たすく

 好きだと言えば何か変わっただろうか。

 愛していると言っても嫌われなかっただろうか。

 いくら君を想おうとも、君は僕の手が届かないところへと旅立ってしまった。

 もし、僕に勇気があったらだとか。もし、君がいなくならなかったら、だとか。

 そんな「たられば」を考えてる時点で僕は君に相応しくない。


 だけどお願いだ。


 せめてこれから先も、友人と呼ばせてくれないか。



 *



 君は明るくていつだって中心にいて。なのに周りを立てるような気配りのできる子だった。

 優しい君は、僕のような一人ぼっちのやつに手を差し伸べてくれた。

 優しくされているのは僕だけじゃないのに、その手が僕を特別だと勘違いさせた。

 気の合う者同士と言うこともあってか、部活でも何回もペアを組んだ。

 一緒にゲームをすればいっそ気持ち悪いくらいに息があった。

 女子との会話は終わりが見えなくて嫌だと思っていたのに、君とならいくらでも話せたし気付けば時間が過ぎていた。

 馬が合うとはこのことだと思った。

 僕の世界には必ず君がいた。

 ニコイチと称されるのも君となら気分がよかった。

 君が異性と話すのを見ると胸が痛くて、でもその土俵に上がろうとしない自分が恨めしかった。

 いつだって鏡に映る僕は野暮ったくて、向日葵のように強くてしっかりした君の隣には相応しくなかった。

 相応しい人間であろうと、髪を整えた。

 弱弱しい真似をやめて強くあろうとした。

 容姿にも衣服にも気を使い、僕のせいで君の美しさが損なわれないようにと必死だった。

 ただ、君に認められたかった。

 だけど君は僕から離れてしまった。



 *



 三月の末、君に別れを告げられた。

 介護のための引っ越しは、僕を再び孤独へと突き落とした。

 振り返って見れば背伸びをした無様な子供と、朽ち果てた踏み台があるだけだった。僕の努力は外から見れば、ませた子どもの背伸びでしかなかった。

 メールを開けば嫌でも君の名前があって。そこに表示されるのは楽しそうな君の笑顔だった。僕といた時と同じ、幸せそうな笑顔。それを見る度に僕の無力さに心を抉られた。

 君の幸せを願っているはずなのに、幸せな君を見たくなくて、そっとメールを閉じた。それでも君に飽きられたくなくて、また開いて。当たり障りのない会話を続けた。

 君からのメールには毎回新しい名前が登場していて。いつ君に飽きられるかとひやひやしていた。君に捨てられてら今度こそ一人だから。

 一人なんて前は当たり前だったのに、君の横が存外気持ち良かったものだから一人が怖くなってしまった。

 メールでは毎日のように連絡しているのに、やっぱり遠くて。毎日のように君を想った。


 君とやったゲームも、君と描いた絵も。全部段ボールに詰め込んで、押し入れの深くにやった。君との思い出の段ボールは今も眠っている。



 *



 君と大学で再会したのは本当に奇跡と言っても良かった。お互い進路について話すこともなかったのに、広いキャンパスで会えたと言うのも中々のものだろう。

 積もる話もそこそこにその日は解散し、その夜に君から明日の昼食に誘われた。一、二も無く了承して、明日が楽しみだと眠りについた。

 次の日、その場には君と、男がいた。誰か分かっていない僕に、君は彼氏を紹介したいと付け足した。その場で逃げることも出来ず、一緒に食べた食事は何の味も感じなかった。

 頑張って整えた髪も、君に会うために選んだ服も、手入れした容姿も。

 君は何も言わなかった。

 ただ男の横にある飾りとなった君は、あの時の強さを微塵も感じさせなかった。

 それでも僕は、君が好きだった。


 どうぞお幸せに。


 嬉しそうに惚気るメールに目を通しながら呟いた。誰もいない部屋ではその声が大きく聞こえて、何だか虚しくなった。


 僕が立ち止まっている間に、君は何歩も前へと進んで。

 お似合いのイケメンを捕まえて。


 どれだけ卑屈を言っても僕は敗者だ。

 どれだけ願おうとも、君が僕のものになることはない。

 例え彼と別れることがあっても、僕が選ばれることはないだろう。

 君は僕と恋人にならない。

 だからせめて、友人でいてくれますか。


 サヨウナラ、僕が愛した君。

 サヨウナラ、君を愛した僕。


 私は私の人生を歩んでいく。

 そこが君に支配されていない、退屈な世界だとしても。

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