第一章 011 生きるために

 どんぐりや、野草、川の恵みで食糧事情が改善されて一週間ほどたった。

最初のボロボロな惨状から、一転かなり安定した生活を送っている。

その間に作った道具や施設もそれなりに増えていった。


 一つ目が石器である。

石と石をぶつける打製石器から石を研磨して作成する磨製石器で作られたものまでさまざまだ。

オノ、石弓、投げ槍と様々な石器を作成していた。

見た目はしっかりとしていて性能も申し分がなかった。


 二つ目は施設である。

薪を溜めておくための棚を石器を用いて作っていた。

これが思ったよりも役に立つ。

今までは雨が降ると薪が使えなくなる不安が常に付きまとっていた。

しかし、この棚のおかげで雨が降っていても乾いた薪を確保できるのだ。

なぜだか棚にいっぱいに保管されている薪を見ると自分が裕福になったように感じてしまう。

そんな自分を鑑みて苦笑してしまう。


 拠点のすぐそばには少し開けた場所があった。

その場所を石器で作ったクワで耕し、簡単な畑が広がっていた。

広さは家庭菜園と同じぐらいのものだが今はこれで十分だろう。

畑で育てているのはノビルという植物であった。


 拠点周りの捜索中に発見したもので見た目は球根の先にニラやネギのようなものがついている感じだ。

味も悪くなく、生で食べられる野草で気に入っている。

見つけた時には先のほうにムカゴがついており、それを回収し、畑にまいておいた。

うまくいけば秋の終わりごろには収穫できるかもしれない。


 どんぐりの木やノビルの様子を見るに今は6~7月ごろだろう。

あれからも度々頭の中で糸が張られる感覚が起きるたびに知識が増えていった。

どんぐりの木の稲穂のような花、ノビルのムカゴどちらも夏頃に見られる特徴だった。


「冬か……」


 この辺りでは森の中だというのに嫌に涼しい。

それはつまり冬の寒さが厳しいということ。

今自分には二つの選択肢が目の前にぶら下がっていた。


 冬が来る前に準備を整え人里を目指すか、冬をここで超すかだ。

普通に考えれば前者なのだが、いろいろと引っかかる点があった。

その一つに自分の記憶がないということだ。

記憶がないからここがどこかがわからない。

この『わからない』というのが、自分に楔を打ち込むように不安がぬぐえない。

準備を整えもし、冬が来る前に人里が見つからなかったら?

最悪の最期が頭の中で浮かびそれをかき消すように頭を振る。


「仕方がないか」


 そう呟き、気合を入れなおし、ここで冬を越す決心をした。

この選択を聞いたものは馬鹿にするものがほとんどだろう。

もしかしたら、すぐ近くに人里があり保護してくれるかもしれない。

そんな自分に都合のいい妄想が浮かび上がるが……

これまでのつらい現実いままでがそれを叩き潰す。


 この選択が間違いではないと信じながら歩き出す。

やると決めたらすぐに行動に移さなければならない。

冬を越すための、そして帰るための生存競争が今始まる。


 第一章   完 

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縄文転生サバイバー えちだん @etidan

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